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第42話 祭りの頂上決戦

「大収穫祭へ、ヴェルナー商会も出店します」


 ガレオ村長が、出店者一覧を会計台へ置いた。


 年に一度、周辺の農家と職人が集まる祭りだ。


 一覧の中央には、見慣れた商会印がある。


「村として、出店を断ることはできますか?」


「営業停止の正式命令は出ていません。区画料を払い、衛生と安全の条件を満たす商人を、競争相手だからという理由では拒めません」


「なら、同じ条件で出ましょう」


 言葉が口から飛び出した瞬間、心の中の私が腕まくりした。


 大手商会との頂上決戦、キターーー!


 ……いや、向こうは山、こちらは麓。山が踏みに来た構図では?


 想像した途端、拳より先に胃がキュウッと縮んだ。


 答えた瞬間、胸の奥から別の声がした。


 今度こそ、皆の前で負けたら終わる。


 仕入れを狭められ、衛生の噂を流され、ヴィクターには再び居場所をなくすと言われた。祭りで客が向こうを選べば、その言葉が正しかったことになる気がした。


「勝たなくては」と呟いた私へ、アンナが問い返す。


「何をもって勝ちとされますか」


「売上と、客数と……」


「ヴェルナー商会の屋台を空にして、会長へ『ざまぁ!』と突きつけること、とお考えでは?」


 アンナの声は丁寧なのに、言葉が鋭い。


「そ、そこまでは……少ししか考えていないわ」


「少しはお考えなのですね」


「だって悔しいじゃない! 仕入れを締めて、噂を流した疑いまであって、今度は祭りで半額攻勢でしょう? ここでスカッと勝ちたいと思うくらい許してよ!」


 机を叩きたい手を、膝の上で握る。


「勝ちたいです!」


 ミアが勢いよく手を挙げた。


「わたしも、向こうの屋台が『もう勘弁してください』ってなるくらい、お客様に来てほしいです!」


「ミアまで」


「でも、前夜から働けと言われたら嫌です。眠い顔で勝っても、たぶん全然うれしくありません」


 言い切った彼女に、私は肩の力を抜いた。


「そうね。悔しさは持っていく。でも、誰かを潰すための仕込みはしない」


「そのためにミアを前夜から働かせ、余るほど仕込み、価格を下げても?」


「それは、しないわ」


「では、先に守る条件を決めましょう」


 祭りの競争が、店を守るはずの約束を壊したら意味がない。


 村の運営委員会は、双方へ同じ規則を示した。


 区画外へ看板や列をはみ出させない。材料、量、祭り限定価格、アレルギー情報を表示する。調理時刻と保温時間を残す。廃棄と苦情を報告する。働く人の交代表を提出する。


 ヴェルナー商会は二つ分の区画料を払い、広い屋台を使う。私たちは一つ分で出る。


「広さまで同じでなくて、公平ですか?」


 ロウが尋ねた。


「使う区画に応じた料金と安全条件が同じなら、規模の違いまで消す必要はありません」


 大きな相手を、小さく縛って勝つのではない。


 私たちが扱える大きさを、自分たちで選ぶのだ。


 その夜、閉店後の会計台で、私は何度も仕込み表を書き直した。


 六百、四百、三百。


 相手の二百という数字を見るたび、こちらも増やさなければという焦りが指を動かす。だが、その紙の端には、祭り翌日に休む人の名と、店を縮小営業にする時間も書かれていた。


「数字だけなら、いくらでも勇ましくできます」


 湯気の消えたカップを片づけながら、アンナが言った。


「でも、その数字を作るのは人です」


「それに、六百個売れなかったら?」


 ゼルドが仕入れ表を指で弾く。


「財布も泣きますが、食材がもっと泣きます。私は運べと言われれば運びますよ。ただし、帰りの荷車で売れ残り六百個と気まずく見つめ合う役まで私に押しつけないでください」


「その光景、想像だけでつらいわね……」


「肉まん六百個の無言の圧力は、ヴィクター会長より怖いっす」


 ロウが真顔で言い、全員が吹き出した。


 笑ったあと、六百という数字だけが急に恥ずかしく見えた。


「分かっているつもりなの。でも、負けたら、ここで働く皆まで見くびられる気がして」


「以前の殿下なら、ご自分一人が見くびられたと考えたでしょうね」


 慰めとは少し違う言葉に、私は顔を上げた。


「今は、皆のことを考えている。それは前へ進まれた証です。ただし、皆を守りたいお気持ちで、皆の限界を越えさせてはなりません」


 私は、六百と書いた紙を裏返した。


 勝ちたい。その気持ちまで、立派な言葉で隠す必要はない。けれど、誰かの眠りや食べ物の命を代金にしてはならない。


 仕込み表の数字を、予測の一・二倍へ戻した。


◇◇◇


 祭りの三日前、広場では設営が始まっていた。


 ヴェルナー商会の屋台は深紅の天幕に、統一された箱、六人の制服姿。以前の夜祭りで見た王都系屋台より、動線も食品表示も改善されている。


 現場責任者は、あの時のカイだった。


「またお会いしましたね」


「今回は、時刻札も保温箱も本部へ認めさせました」


 彼は誇るより、確認するように言った。


 前回の三箱を廃棄した責任で、叱責も受けたはずだ。それでも失敗を隠さず、次の屋台へ直したらしい。


 看板には『大収穫祭特別・通常価格の半額』とある。


「期間と数量は?」


「本日限り、各商品二百個までです。販促予算で差額を補います」


 安いのは事実だが、永続価格のようには見せていない。


「前より手強いですね」


「負けるために来たのではありませんから」


 背筋がゾクリとした。


 悪役側だけ前回の失敗を繰り返す、なんて都合のいい展開はない。でも、相手も本気で直した上で積み重ねを競う方が燃える。


「面白いじゃない」


 気づけば口元が上がっていた。


「何がです?」


「前より強い相手と、前よりまともな条件で競えることよ。……ただし、手加減はしないわ」


「こちらもです」


 カイもほんの少しだけ笑った。


 私たちの屋台は、肉まん、茸おにぎり、根菜汁の三品だけに絞った。


 注文口、会計、受取口を分け、色の違う木札で品を示す。会計の前に材料と残数が見える。難しい注文や個別確認が必要な人は、列の外へ追い出さず、説明担当が別に応じる。


 仕込みは予測の一・二倍まで。


「相手が二百個なら、こちらは六百個用意しないんすか?」


「売れ残れば、勝敗のために食べ物を捨てることになるわ」


 ゼルドは、加熱前の材料を共同倉庫に残した。売れ行きを見て一回だけ追加する。安全に間に合わなければ、売り切れで終える。


 ミアは当日の日中だけ屋台に立ち、前夜と当夜の深夜勤務は休む。


 アンナが会計と交代を監督し、私は注文口、ロウは受渡し、ゼルドは補充と時刻札。誰でも、列が危険、温度が不明、説明が足りないと判断すれば販売を止められる。


「勝負なのに、止める人が一番多いですね」


 ミアが笑った。


「止められない速さは、ただの暴走よ」


◇◇◇


 祭り当日の午前十時。


 鐘が鳴ると、最初の客はヴェルナー商会へ流れた。


 半額の看板は強い。


「家族五人分なら、向こうで買うよ」


「行ってらっしゃい。こちらは後で見ていただくだけでも大丈夫です」


 顔見知りの農家へ、ミアが笑って手を振った。


 笑顔が引きつっていない。立派だ。


 私なら「えっ、そっち!? 昨日まで褒めてくれたのに!」と縋りたくなる。半額で家族五人分なら当然でも、心は物分かりよくない。


「リリアーナ様。向こうの列を数える顔になってます」


 ミアに小声で言われ、ハッとした。


「どんな顔?」


「おにぎりを盗られた猫みたいな顔です」


「そんなに?」


「鍋を見てください。わたしたちのお客様は、これから来ます」


 教える側の私が励まされている。悔しくて、誇らしい。


 私たちの列は短い。


 心臓の鼓動だけが、広場の賑わいから離れて聞こえる。


「リリアーナ様、残数札を更新します」


 アンナの声で、目の前へ戻った。


 相手の列ではなく、自分たちの鍋を見る。


 ヴェルナー側は、商品が八種類あった。


 半額になる品、二個組だけ半額になる品、通常価格の品。客は看板を見てから会計で条件を尋ね、店員は本部印のある割引札を確かめる。


 不正を防ぐための承認が、一つの会計へ時間を足していた。


 一方、私たちは三品、三色の札、価格も一つずつ。


「肉まん二つと、茸おにぎり一つ」


「赤二枚、緑一枚。材料表示はこちらです。合計を復唱します」


 注文を受けた私が札を渡し、アンナが代金を数える。受取口ではロウが札と品を交換する。


 急ぐ客は早く進み、確認が必要な客にはミアが落ち着いて説明する。


 速さのために、同じ質問を言いづらくさせない。


「こっちは待たないんだな」


「向こうの汁も安くてうまかったぞ。こっちの肉まんも買って帰る」


 両方の包みを持つ客が増えた。


 競争は、一方を選んだらもう一方を嫌う投票ではない。


◇◇◇


 正午前、二つの列が中央通路へ近づいた。


 ヴェルナー側では割引条件をめぐる質問が重なり、列が横へ膨らんでいる。私たちの受取口でも、注文札を落とした客が立ち止まった。


「列を止めます!」


 ミアの声が通った。


「新しい注文は一時停止。通路を空けてください」


 売れる時間を止める判断だった。


 ミアの声で注文待ちの客が一斉にこちらを見た。


「え、止めるの?」


「あと少しで買えるのに」


 不満の声が刺さる。


 勝ちたい心が騒いだ。今止めれば客が流れ、ヴィクターに笑われる。


 ――だから何よ。


 子どもの泣き声と引き換えの一位なんて、持ち帰りたくない。


 私は迷いかけたが、すぐ注文札を伏せた。


 祭りの安全担当が間へ入り、縄で二つの待機列を引き直す。カイも販売を止め、制服の二人を列整理へ回した。


「そちらの最後尾は、井戸側へ曲げてください」


「分かりました。こちらは受取列を天幕沿いへ移します」


 競争相手と声を掛け合い、子どもの通る中央を空けた。


 十分後、安全担当の確認で販売を再開する。


 列を引き直した直後、さっきまで人垣に隠れていた石畳へ、潰れた果実が転がっているのが見つかった。小さな男の子が、そのすぐ手前で母親に抱き上げられている。


「もし、止めなかったら……」


 ミアの顔から血の気が引いた。


「気づけたから、今は大丈夫よ」


 私はそう答えたが、自分の手も冷たかった。転ばなかったという結果は、安全だった証明ではない。何も起きなかった日にこそ、止めた判断を無駄だったことにしてはいけないのだ。


「でも、わたし、勝手に止めました」


「勝手ではないわ。誰でも止めていいと決めたでしょう」


「決めた時は、言えると思ったんです。でも本当に列ができて、お客様が怒った顔をしたら、足がガクガクして……声を出したあと、逃げたくなりました」


「それでも逃げなかった」


「はい。もう一回やれと言われたら、やっぱり怖いですけど」


「怖くなくなる必要はないわ。次も怖いまま、止めて。今度は私が一拍早く一緒に言うから」


 ミアは泣きそうな顔で笑い、「絶対ですよ」と念を押した。


 安全担当が果実を除き、濡れた石へ砂をまく。カイも自分の列の足元を一周し、店員へ確認場所を割り振り直した。


「止めている間に、客を取れたのに」


 ロウが後で言った。


「それをしたら、次は向こうも止められなくなるわ」


 速さを競うほど、止まることを負けにしてはいけない。


 正午から一時間、運営委員が双方の会計数と待ち時間を計測した。


 夜明けの星は七十二会計。ヴェルナー商会は二十四会計。


 三倍。


 数字を見た瞬間、身体の中で祝砲がドッカーン! と炸裂した。


 よっしゃあああ!


 三倍キター! 半額看板へ、これが積み重ねの――


「リリアーナ様。顔」


 アンナの一言で、脳内の勝利演説がスン……と止まった。


「まだ何も言っていないわ」


「全部、お顔に出ています」


 今日は顔を管理できない。表情札も要るかしら。


 会計件数には約3倍の差がついた。ただし、商品単価も一会計の品数も違うため、売上が3倍という意味ではない。


「こちらの方が上だと、数字で証明されましたね」


 ゼルドの声には高揚があった。


「ピーク一時間の処理数では、ね。総利益も満足も、まだ分かりません」


 私は浮き上がりそうな自分の心にも言った。


◇◇◇


 午後二時、茸おにぎりの残数が十個になった。


「追加を作りますか?」


「新しい炊飯では、祭りの終了までに安全な冷却と成形が間に合いません。売り切りましょう」


 肉まんと根菜汁だけ、予定していた一回分を補充する。


「品切れは絶対に起こさないんじゃないのか?」


 客の一人に聞かれ、ロウが答えた。


「ありませんと先に分かる札を出し、代わりを案内します。食べ物を余らせないため、何でも無限には作れないっす」


 客は少し残念そうだったが、肉まんを選んだ。


 ヴェルナー側も、すべてが混乱していたわけではない。


 カイは割引確認を一人へ集め、残る店員を受渡しへ回した。午後には列が進み始める。半額商品は家族連れに支持され、予定数の多くを売った。


 午後四時、祭り終了。


 運営委員会の集計では、夜明けの星が二百四十一会計、ヴェルナー商会が百七十六会計。会計差異と重大な衛生違反は双方ともなし。


 私たちは茸おにぎりを売り切り、肉まん四個と根菜汁三杯が残った。残った安全な品は有償のまかないへ回し、時刻を越えた汁一杯は廃棄した。


 材料、区画料、補助員の賃金、廃棄を引いても利益は残った。


 ヴェルナー側は販促予算で価格差を補っているため、この日だけの損益は外から判断できない。


 それでも、同じ時間、少ない人と一つの区画で、より多くの客へ安全に渡せた。


 私たちが守ろうとした運営が、数字になった。


◇◇◇


 片付けの途中、カイがこちらへ来た。


「ピーク時の三倍差。理由を教えていただけますか」


「秘密の速さではありません。品数を減らし、注文、会計、受渡しを分け、それぞれが自分で止められるようにしました」


「こちらは不正を恐れ、割引の承認を責任者一人へ集めました」


「責任者しか決められないことが多いほど、列はその人の速さになります」


「店員へ権限を渡せば、間違いも増える」


「だから、金額上限と例外を決め、後から記録を見直します。間違えない一人を作るより、間違いを止められる複数人を育てるんです」


 カイは、私ではなくミアを見た。


「販売を止めたのは、あの少女でしたね」


「はい。でも、未成年へ責任を押しつけたのではありません。誰でも止められ、成人責任者が再開を判断する決まりです」


「半年で、その仕組みを?」


「半年とは限りません。失敗するたび、直してきました」


 カイは、前回廃棄した箱を思い出したように黙った。


「本部へは、完敗と報告すべきでしょうか」


「今日の数字と、起きたことをそのまま報告してください。あなた方にも百七十六組の客がいました」


「情けをかけられるほど、惨めなものはありません」


 カイの声が固くなる。


「情けではないわ。半額を選んだ家族も、あなたの店員から説明を受けた客も、数字から消したくないだけ」


「あなたは、私どもを憎んでいないのですか」


「会長の脅しには、今も腹が立っています。思い出すたび、枕へ顔を埋めて叫びたいくらい」


 私は散らかった広場を見渡した。


「でも、あなたが列を止め、果実を拾い、前回より表示を直したのも見た。それをなかったことにしたら、私まで事実より気分を選ぶことになる」


 カイはしばらく黙り、やがて深く息を吐いた。


「……本部へ、改善できた点も書きます。負けた理由と一緒に」


「勝者の余裕ですか」


「現場の人が処分されても、私たちの運営は良くなりません」


 カイは疲れた顔で、それでも正式に頭を下げた。


「次に競うなら、こちらも権限を見直します」


「その時は、こちらも今日の失敗記録を増やしているでしょうね」


◇◇◇


 店へ戻り、売上袋より先に賃金袋を分けた。


 ミアは明日を休み、ロウとアンナも通常勤務へ続けて入らない。スノーベル店は縮小営業を、事前に知らせてある。


「勝ちましたね」


 ミアがうれしそうに言った。


「ええ。今日は、そう言っていいと思う」


 口にすると、胸の奥から喜びがブワッとせり上がった。


「勝ったーっ!」


 今度は我慢せず、両腕を上げた。


「勝ったわ! 半額にも、豪華な天幕にも負けなかった! 私たちの店、ちゃんと強かった!」


 ミアも「やったーっ!」と跳ね、ロウは拳を突き上げた。ゼルドまで相場表を旗のように振りかけ、アンナに止められている。


 悔しかった分、むちゃくちゃうれしい。


 ヴィクターへ今すぐ見せに行きたいくらいだ。ざまぁ! あなたが潰そうとした店は、お客様を待たせない仕組みで勝ちましたよ――と。


 その黒い喜びまで捨てなくていい。復讐心を経営判断へ座らせなければ、心で小躍りするくらいは許される。


「何に勝ったんすか?」


「相手の損失ではなく、焦って自分たちの決まりを壊しそうになったことに」


「……はい。あと、会計数でも勝ちました」


 ミアが念を押す。


「そうね。そこも大事。きれいな教訓だけで勝利を薄めたら、今日頑張った私たちが怒るわ」


「もう一回、言います?」


「勝ったーっ!」


 二度目の歓声が、片づけ途中の店へ響いた。


「近隣へ聞こえますので、三度目はなしです」


 アンナに止められ、私とミアは口を押さえた。危ない。勝利の余韻で騒音苦情を作るところだった。


 売上でも会計数でも上回った。


 でも一番うれしいのは、半額にせず、三倍作らず、危険な列を止め、働いた人へ約束どおり払えたことだった。


 ミアが受け取った賃金袋を胸元へしまい、少しだけ迷ってから口を開いた。


「止めた時、怒られると思いました。お客さんを逃がしたって」


「私も、一瞬だけ迷ったわ」


「リリアーナ様も?」


「ええ。だから、あなたが先に声を出してくれて助かった。怖くても止めたことを、今日の記録に残しましょう」


 失敗だけでなく、正しい停止も記録する。それが次に迷った人の背中を押すのだと、アンナが日報の欄を一つ増やした。


 翌朝、祭り運営委員会と王都商業ギルドから共同の書状が届いた。


『大収穫祭で確認された屋外運営を踏まえ、王都における一夜限定の実証販売を許可する』


 場所、時間、品数、安全担当、翌朝の報告まで条件が並んでいる。


「王都ですか」


 ミアの声に、期待と不安が半分ずつ混じった。


 祭りの頂上で得たのは、ヴェルナー商会を見下ろす権利ではない。


 もっと大きな街で、私たちの仕組みが本当に通じるのか、試される権利だった。


「王都……!」


 ミアとロウの声が重なる。


 私の胸でもワクワクがドン! 不安がズシン! と同時に暴れた。


「まず、今日の片づけと報告です」


 アンナの一言で、全員が現実へ戻る。


 頂上決戦の勝者が最初にしたことは、床へ落ちた包み紙を一枚残らず拾うことだった。

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