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第40話 夜は文化になる

「もう、夜営業って生活の一部よね」


 朝の市場で根菜を選んでいると、近くの女性たちの会話が聞こえた。


「夜勤の日は、あの店で汁物を食べてくるから、夕食を少なめにしてくれって。最初は夜に食べるなんてって言ってた人がよ」


「うちは逆。寄り道して話し込むから、帰りが遅いの」


「それは店に言うより、旦那さんに言いなさいな」


 三人が笑った。


 私は手にしていた蕪を、危うく取り落としかけた。


 ――生活の一部。


 キター!


 夢の一言が、まさか蕪売り場の立ち話から飛び出すとは。表彰台も祝砲もない。あるのは蕪と、旦那の寄り道への愚痴だけ。


 でも、だからこそ胸へズドンと来た。


 珍しい店を褒める言葉ではない。なくなったら困るものを語る、暮らしの言葉だった。


 ここで「その店、私が始めたんです!」と割り込んだら格好悪い。私はニヤニヤする口元を蕪で隠した。……蕪に笑いかける元王女という、別方向に危険な人になっていないわよね?


 店を始めた頃、夜に買い物をすること自体が奇妙だと思われていた。


 同じ季節がもう一度巡る頃には、夕食の量や帰宅時間を相談する、ありふれた暮らしの話になっている。


「リリアーナ様、おはようございます」


 肉屋のおかみが声を掛けてくれた。


「夜明けの星で食べた肉まんの具を家でも作りたいって、昼に肉を買う人が増えたんです。こちらにもお客が流れてきました」


「それは、うれしいです」


 声が裏返った。市場を走り回って「肉まんが昼の肉屋さんまで救ったわーっ!」と叫びたい気持ちは、胸の倉庫へしまう。


「ただ、皆が儲かったわけじゃないけどね」


 彼女は、通りの向こうの雑貨店を見た。


「夜に日用品を買う人が増えて、昼の売上が減った店もある。共同便に参加して持ち直したけど、営業時間を変えられない店もあります」


 人の動く時間が変われば、売れる店も、困る店も変わる。


「村の公開会議で、また教えてください。夜営業へ参加しなくても、共同仕入れや配達だけ使える形を増やしたいです」


「そこまで聞くなら、ちゃんと文句も言うよ」


「お願いします」


 褒め言葉だけでなく、文句まで普通に届くようになったことも、定着の一つなのかもしれない。


 正直に言えば、文句は痛い。


 褒め言葉なら一日中でも浴びたい。できれば樽で。ところが苦情は、小さな針みたいに「あなたの便利で困った人もいますよ」と刺してくる。


 それでも、その針を抜いて捨てたら、店は自分に都合のいい夢しか見なくなる。


 私は胸の奥で「ぐぬぬ」と唸りつつ、雑貨店の方角を覚えた。


◇◇◇


 昼過ぎ、旅装の男性三人が店の前で建物を見上げていた。


「何かお探しですか?」


「ミドルブリッジ村から来ました。私たちの村でも夜営業を検討していて、見学をお願いできないかと」


 以前なら、すぐに店内へ招き、何でも見せていたと思う。


「営業中の店内は見ていただけます。ただし、客へ質問したり、名前や購入品を記録したりはしないでください。厨房と帳簿は、事前に目的を確認した別の時間に案内します」


「離れたところから、客層を数えるのも駄目ですか」


「職業や年齢を見た目で決めて記録することは、お断りします。時間帯ごとの総客数など、公開できる集計は後でお渡しします」


「分かりました。今夜は客として利用します」


「代金も、ほかのお客様と同じようにお願いします」


 男性たちは少し驚いたが、見学者用の説明札を受け取った。


 以前の私なら「全部無料で!」と大盤振る舞いし、アンナに帳簿を突きつけられてスン……となっただろう。歓迎と無料は違う。代金も、真似できる商売の一部だ。


 そのやり取りを見ていた子どもたちが、私の周りへ集まった。


「僕、大きくなったら夜の店員になる!」


 パン屋の息子トミーが胸を張る。


「どうして?」


「夜に困ってる人を助けるから。ミア姉ちゃんみたいに、いっぱい働くんだ」


 ミアはうれしそうに笑った後、しゃがんで目の高さを合わせた。


「いっぱい働く人ではなくて、安全に働いて、ちゃんと帰る人になってね」


「夜中まで起きる練習をする!」


「それは大人になって、生活時間を決めてからです。今は眠ってください」


 ミアの返答があまりに速く、トミーの胸がシュンとしぼんだ。


「ええーっ! 夜の店員になるのに、夜更かししたら駄目なの?」


「駄目です。寝不足でお釣りを間違えたら、お客様も困ります。わたしだって最初は、帰ってから興奮して眠れなくて、翌日にお母さんから『その顔で笑顔を売るつもり?』って叱られたんですから」


「ミア姉ちゃんでも怒られるんだ」


「怒られますよ! というか、今でも怒られます! 昨日も靴下を片方、食卓の下へ置きっぱなしにして――あっ、これは仕事と関係ありません!」


 遅い。子どもたちはもうゲラゲラ笑っている。


 ミアは耳まで赤くしながら、それでも逃げずに続けた。


「格好いいところだけ真似しないでください。眠い、足が痛い、嫌なお客様に言い返したい。そういう夜もあります。それでも一人で我慢せず、交代して、相談して、次の人へちゃんと渡す。それが店員です」


 憧れられて頬を緩ませながら、苦労まで隠さず話せる。


 最初の頃、褒められるたびに「はい、頑張ります!」と全部抱え込んでいた少女が、もう誰かの背中を守る言葉を持っている。


 私は不意に鼻の奥がツンとして、慌てて咳払いした。泣いていない。市場の粉が飛んできただけ。たぶん。


 周りの大人から笑いが起きた。


「店には、会計だけでなく、料理、木工、魔法設備、運送、医療、夜警の仕事もあります」


 私は子どもたちへ話した。


「読み書きと計算を学び、人の話を聞けるようになれば、どの仕事にも役立ちます。でも、必ずこの店で働かなくてもいいんですよ」


「店長になれって言わないの?」


「皆が店長になったら、パンを焼く人がいなくなるでしょう?」


 トミーは自分の父親を見て、それは困る、と真剣に頷いた。


 憧れられたからこそ、安全や休みまで含めて立派な仕事だと伝えたかった。


◇◇◇


 午後十一時、開店前の打ち合わせを始めた。


 ミアは午前零時までで帰るため、皆で節目を振り返るなら、この時間しかない。


「二号店から、一週間分の報告が届いています」


 アンナがマルクの書状を開いた。


 一般営業七夜で、会計は二百八十一件。重大事故はなし。入口の声についての申し出が二件、商品残数の表示漏れが一件、川魚汁の廃棄が三杯。


 初期の設備費を含めれば、まだ利益が出たとは言えない。けれど、賃金、仕入れ、日々の運営費は予定の範囲に収まった。


「マルクは、もう一人で大丈夫でしょうか」


 ミアが尋ねる。


「一人にしないために、交代スタッフを雇ったのよ」


 アンナが答えた。


「店長だから、助けが要らないとは考えません」


「そうでした」


 ミアは照れながら、次の紙を受け取った。


 彼女がまとめたのは、接客研修の改訂案だった。


 ロウは配達の上限と見守り連絡を、新人へ教えられる形に直している。以前なら、重い荷は自分が持てばよいと言ったはずだ。


「俺、教える時の方が誤魔化せないっす」


「何を?」


「疲れてても平気だって言うことです。新人が同じ真似をしたら危ないって分かったんで」


 アンナは二店舗の収支と勤務を、別々に見られる帳簿へ改めた。


 ゼルドは共同便を増やさず、二号店の需要が安定するまで予備日を残している。


 店が増えたことで、私一人の知識が二倍になったのではない。


 仲間が、自分の失敗と得意を、次の人へ渡せる言葉に変え始めたのだ。


「王都進出を、進めたいと思います」


 私が言うと、ミアとロウの顔が上がった。


「ただし、次々に三号店、四号店を作って、数で準備したことにはしません」


 口にした瞬間、胸がドクンと鳴った。


 王都。


 私を追い出した場所。王女として失敗した記憶が、まだ床の染みみたいに残る場所。


 そこへ今度は、誰かに許可された王女としてではなく、夜の店を作った店主として戻る。


 怖くないわけがない。


 むしろ怖い。ベタな逆襲展開キター! と拳を上げたい私と、「また鼻で笑われたらどうするのよ」と毛布へ潜りたい私が、心の中で取っ組み合っている。


 けれど、追放された悔しさだけを燃料にしたら、王都の客を復讐の小道具にしてしまう。


 だから、先に守る条件を言葉にした。


「何を先にしますか?」


「本店で私が一週間、判断役から外れる試験。二号店の一か月監査。研修を任せられる人を、私以外に二人育てること。全部通ってから、王都の候補地を調べます」


「リリアーナ様が、判断役から外れる?」


 ミアは不安そうだった。


「私がいなければ困る店のままでは、王都へ行けないもの」


 言ってしまった。


 胸の柔らかいところを、自分でペリッと剥がして机へ置いた気分だった。


「……本当は、少し嫌なのよ」


 三人が目を丸くする。


「私がいなくても回ったら、うれしい。でも、そのうれしさの隣で、『あれ、私っていなくてもよかった?』って、すごく面倒な私が膝を抱えるの」


「リリアーナ様にも、そんなことがあるんですか?」


 ミアが恐る恐る聞いた。


「あるわよ。元王女だからって、心臓が鉄でできているわけじゃないもの。追放された時に、『お前は要らない』って言葉を一生分浴びたしね」


 笑って言ったつもりが、最後だけ喉へ引っかかった。


 ロウが眉を寄せる。


「でも俺ら、リリアーナ様が要らないから覚えてるんじゃないっす。帰ってきた時に、『全部止まってました』って言わせたくないから覚えてるんです」


「はい!」


 ミアが勢いよく身を乗り出した。


「それに、一週間でリリアーナ様が要らなくなるなら、わたしたちが今まで覚えた苦労は何だったんですか! そんな簡単に店主を卒業されたら、こっちが困ります!」


「卒業するとは言っていないわ」


「なら、戻ってきて山ほど口を出してください。ちょっとだけなら、うるさいって顔をするかもしれませんけど!」


「先に宣言するの?」


 笑いが起きた。


 胸へ絡んでいた細い糸が、フッと緩んだ。


 仲間が自分で決めることは、私がいらなくなることではない。戻った時に、互いの判断を持ち寄れる店になることだ。


「では、試験中に困らないよう、権限表を作ります」


 アンナが即座に言った。


「もう、困らない前提ではないのですね」


「困った時に、誰が決めるかを作るのです」


 午前零時になる前に、ミアは引き継ぎを終えて帰宅した。


 文化を支える働き方が、文化の名の下で壊れてはいけない。


◇◇◇


 午前零時、通常営業が始まった。


 ミドルブリッジ村の三人も、約束どおり客として列に並ぶ。


「今夜もお疲れ様です。ハンスさん、いつもの組み合わせになさいますか?」


「ああ。今日はおにぎりを二つで」


 見学者の一人が、ハンスへ直接尋ねようとした。


「あの、こちらの店を毎晩――」


 私は会計台から声を掛けた。


「お客様への聞き取りは、しないお約束です」


「すみません。つい」


 ハンスは笑った。


「俺は話してもいいぞ。ここがあると、夜勤の途中に温かい物を食べられる。それに、同じ夜に働く人へ『お疲れ』と言える」


「夜の社交場、ということですか?」


「話したい夜にはな」


 隣の卓で一人食べていた旅人が顔を上げた。


「俺は静かに食べたい。話しかけられない方が助かる」


「もちろんです」


 ハンスは気まずそうに頭を掻いた。


「すまん。俺も前に、静かな奴へ『元気がないのか』ってしつこく聞いちまった。こっちは親切のつもりでも、相手には静かにしろって話だよな」


「俺は元気だ。ただ、汁が冷める前に黙って食いたい」


「そりゃ大事だ」


 二人はそれだけ言うと、一方は仲間との話へ戻り、もう一方は湯気の立つ器へ戻った。


 無理に仲良くなる美談より、ずっと心地よい距離だった。


 ミドルブリッジの男性は、慌てて頭を下げた。


 交流の場とは、全員を会話へ参加させる場所ではない。


 話せる席と、話さなくてよい席が同じ灯りの下にあることだった。


 衛兵が道のぬかるみを夜警へ伝え、冒険者が森で聞いた音をギルドへ報告する。店では、それ以上の個人名や行き先を広めない。


 情報交換と噂話の境界も、文化と一緒に育てる必要がある。


 午前三時頃、ミドルブリッジの三人が会計台へ空の器を返しに来た。


「よく分かりました。私たちも、午前零時から四時まで同じ店を開けばいいのですね」


「その時刻に、そちらで本当に人が働いていますか?」


「橋の通行番は、午後十時に交代します。粉ひき小屋は夜明け前からですが……午前零時から二時は、少ないかもしれません」


「なら、同じ時間にする理由はありません」


 私は、村議会へ出した調査票の見本を渡した。


「夜勤の人数だけでなく、休憩できる時刻、帰宅経路、既存の宿や食堂、近隣の寝室を調べてください。毎日開ける必要があるかも、最初は分かりません」


「週に三夜だけ、午後十時から二時、という形でも夜営業ですか?」


「必要な人へ、約束した時間に開いているなら」


 もう一人が、賑わう卓を見回した。


「正直、毎夜こんな祭りのようになるのだと思っていました」


「今夜は見学者がいるので、少し人が多いんです。普段は会話のない時間もあります。賑やかさを成功の条件にしないでください」


「同じ看板を掲げれば、同じ文化になるわけではない?」


「ええ。安全、賃金、食品、個人情報の基準は共有できます。でも、誰が何を必要とし、どんな静けさを残したいかは、その村で決めることです」


 三人は、客の顔ではなく調査票へ目を落とした。


「まず、店を作りたい私たちではなく、夜に起きている人へ聞いてみます」


「困った時は、成功例だけでなく失敗記録もお送りします」


 文化には、自分たちの夜に合う形へ作り直せる余白も要る。


 私は彼らの背中を見送りながら、ホッと息を吐いた。


 見学者が目を輝かせて来ると、失敗を隠して「この通りにすれば大成功です!」と胸を張りたくなる。でも、それは気持ちいいだけの嘘だ。


 二号店の初夜だって、私とミアは騒音の申し出を忘れて川沿いを走りかけた。ロウが止めなければ、苦情へ追加の苦情を重ねる伝説を作っていた。


 成功談より、そちらの方がきっと役に立つ。


◇◇◇


 外を見ると、村の夜景は開店前と変わっていた。


 店、宿、衛兵詰所に必要な灯りがあり、人の足音が途切れない。


 けれど、村中が昼のように明るいわけではない。


 議会で決めた後、住宅側へ光が漏れる外灯には覆いを付けた。午後九時以降の荷車を避け、店外で待つ列には大声を控える掲示を出す。


 暗さをすべて悪い物として消せば、眠る人や夜空を見たい人の夜まで奪う。


「夜営業に来ない人も、夜の文化を作るんですね」


 ロウが窓の覆いを調整した。


「ええ。静かに眠れることも、夜の大切な使い方よ」


 客の笑い声の向こうに、音のない家々がある。


 両方を守れて初めて、店は村の一部になれる。


◇◇◇


 閉店後、看板猫が階段から降りてきた。


 廃屋の屋根裏で初めて見つけた時は、肋骨が分かるほど痩せていた猫だ。今は毛並みが整い、こちらが呼ばなくても一番温かい場所を知っている。


「君は、文化になったと思う?」


 猫は答えず、会計台の下で丸くなった。


「そう。難しいことを猫へ聞くな、と」


 尻尾が一度、パタンと床を叩く。


「ご飯の時間なら、文化より正確に覚えているものね」


 器へ少しだけ餌を入れると、猫はようやくこちらを見た。


 現金な店員である。けれど、私よりずっと店の原則へ忠実かもしれない。理念では腹は膨れない。必要な時に必要なものが出てくるから、ここへ来るのだ。


 私が夜営業を発明し、村へ文化を与えた。


 そんな言い方をすれば、きれいだろう。


 でも実際は、ハンスが仕事の途中に寄り、ミアの母が帰宅時間を心配し、街道脇の家が荷車の音へ苦情を出し、エマが川魚の汁を考えた。


 人々が自分の暮らしへ店を取り込み、ときには形を変え、ときには距離を置いた。


 私の思いつきが、私の手を離れても続くようになった時、ようやく文化になったのだと思う。


 朝、市場から戻る途中でガレオ村長に会った。


「夜営業発祥の村として、見学者が増えました」


「発祥という言葉は、少し大げさですね」


「歴史は大げさな看板を好みますからな。だからこそ、中身の苦情記録まで残してください」


「はい」


「王都も考えているのでしょう。期待しています。ただ、無理は禁物です」


「まず、私がいなくても回る本店を作ります」


「それは、あなたが不要になるという意味ではありませんよ」


 心を読まれたようで、返事が一拍遅れた。


「店主が戻る場所を守るには、店主が離れられる店でなくてはならない。村も、あなた一人へ頼らない仕組みを作ります」


 私は、素直に頷いた。


「ただし、無理をしないという言葉を、休む口実にするのも駄目ですよ」


「うっ」


「あなたは走りすぎるか、止められて拗ねるか、両端へ行きがちです」


「村長、今日だけで私の心を二度も読んでいません?」


「村長は、住民の顔色を読む仕事ですから」


 穏やかな顔で恐ろしいことを言う。


 私は口を尖らせ、それから降参するように両手を上げた。


「分かりました。走る日と休む日を、どちらも予定表へ書きます」


「アンナさんへ写しを渡してください」


「信用がない!」


「信用しているから、確認を頼むのです」


 ぐうの音も出ない。村長、強い。


 追放された王女から、村の文化を作った経営者へ。


 そう自分を飾り直す必要はない。


 今日は店主で、仲間の一人で、次の挑戦を考える人。それで十分だった。


 店へ戻ると、ゼルドが会計台へ三枚の通知書を広げていた。


「リリアーナさん。共同便の仕入れ先から、同じ日に価格変更が届きました」


「どの品ですか?」


「小麦、肉、調味料です。上げ幅はそれぞれ違いますが、通常の相場変動では説明できません」


 紙の隅には、いずれも王都側の集荷所を示す印がある。


 夜が文化になったからこそ、その灯りを消したい者も現れる。


 第2章の終わりに届いたのは、王都への招待状ではなく、供給の道を狭める三枚の通知だった。


「三品、同時ですか」


 私は通知書を指でトントンと叩いた。


「偶然にしては、ずいぶん仲良しな値上げね」


「笑っている場合ですか?」


「笑ってないと、紙を丸めて投げそうなの」


 アンナが通知書をサッと回収した。私の信用がない。


「まず事実確認。代替経路。在庫日数。値上げの根拠」


 ゼルドが頷き、ミアは在庫札を、ロウは倉庫の鍵を取った。


 腹は立つ。怖くもある。


 だからこそ、啖呵より先に数字を並べる。


 便利の灯りを守る反撃は、三枚の通知を一枚ずつ読み解くところから始まった。

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