第33話 宅配はじめました
「すみません、おでんを家で食べたいんですが...」
夕方の準備時間中、村の老人ゲルハルトが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「もちろんです!お持ち帰り用に準備いたします♪」
ミアが元気よく応じる。
「ありがとう。でも実は...」
ゲルハルトが困ったような表情を見せる。
「夜の外出はちょっと辛くなってきてね。足腰が弱って、暗い道を歩くのが不安なんです」
『あ、これは...』
私の脳内で前世のコンビニ店員経験がフラッシュバックした。
『ウーバーイーツ!出前館!デリバリー革命の記憶が蘇る!』
完全にビジネスチャンスじゃない!
◇◇◇
「ゲルハルトさんのようなお客様、他にもいらっしゃるのでは?」
ミアとロウに相談する。
「あー!確かに!」ミアが手をパンと叩く。「高齢の方は夜の来店を控えがちですよね」
「子育て中のお母さんも、小さい子供がいると外出が大変そうっす」
ロウが腕組みして考え込む。
『そうよ!潜在需要の宝庫じゃない!』
前世では当たり前だった宅配サービス。でもこの世界にはまだない。
「そうよね。夜の外出が困難な人がたくさんいる」
私の脳内で企画がフル回転。
「宅配サービスを始めてみましょうか」
「宅配!?」
二人の目がキラッと光る。
『よし、この世界に宅配革命を起こしてやる!』
◇◇◇
「困っている人を助けたいの」
私が熱く語る。
「店に来たくても来られない人がいる。だったら、私たちから出向けばいい!」
『配達という概念を持ち込むのよ!』
「うわあ、リリアーナ様かっこいい〜」ミアが目をキラキラさせる。
「でも、人手が必要ですよね?」
実務的な心配をするミア。
「それなら俺がやるっす!」
ロウが勢いよく手を挙げる。
「体力には自信があります!元冒険者ですから、村中を歩き回るのなんて楽勝っす!」
『おお、やる気満々ね』
「それに...」ロウがちょっと照れる。「配達なら直接人の役に立ててる実感がありそうっす」
「ロウちゃん、すっごくいいこと言う〜」ミアが拍手。
『完璧!人材も確保!』
◇◇◇
「では、配達ルートの設計から始めましょう」
私が地図を広げると、ミアとロウが身を乗り出してくる。
「効率的に回れるように計画しないと。村を4つのエリアに分けて...」
前世の配送業務知識がフル稼働。
「A地区:北部の農家エリア」
「B地区:中央の住宅エリア」
「C地区:南部の職人エリア」
「D地区:東部の高齢者エリア」
「うわあ、すごく体系的!」ミアが感心する。
「まるで軍師みたいっす!リリアーナ様の頭の中どうなってるんっすか!」
ロウも目を丸くする。
『フフフ、前世の物流経験を舐めるなよ』
「曜日ごとに重点エリアを決めましょう。月・水・金は高齢者重点、火・木・土は子育て世帯重点、日曜は全エリア対応」
「な、なんということでしょう...」
ミアがビフォーアフターのナレーション風に呟く。
「めっちゃ計画的っすね!これぞプロの仕事っす!」
ロウが膝を打つ。
◇◇◇
「配達時間はどうしましょう?」
ミアが首をかしげる。
「夕方5時から7時がベストね」
私が指を立てて説明。
『ゴールデンタイムを狙うのよ』
「夜営業の準備が終わって、まだ明るい時間帯。お客様も夕食前で都合がいいはず。それに、暗くなる前なら安全です」
「さすがリリアーナ様!完璧すぎます!」ミアが感嘆の声を上げる。
「配達料金はどうするっすか?」
ロウが実務的な質問。
「最初は無料にしましょう」
「え!?無料っすか!?」
二人が驚愕。
「はい。サービス開始のキャンペーンとして。ただし、最低注文金額は設定します」
『フリーミアム戦略よ!最初はタダで釣って、リピーターにする!』
「リ、リリアーナ様...それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。これは先行投資。将来の利益のためなの」
『現代のビジネス戦略、炸裂!』
◇◇◇
翌日、宅配サービスの準備を整えた。
「配達用のカゴを用意したっす!」
ロウが大きな籠を得意げに見せる。
「保温効果のある布で包めば、温かい料理も運べるっす!」
「素晴らしいわね!」
私が感心すると、ロウがえへへと照れる。
「でも...これ重くないの?」
「大丈夫っす!俺、魔獣の死体も担いでましたから!」
『さすが元冒険者...比較対象がワイルドすぎる』
「注文受付の方法も決めましょう。朝のうちに注文を受けて、夕方に配達。緊急時は当日対応も可能にします」
「リリアーナ様の頭の中、どうなってるんですか?まるで魔法みたい」
ミアが不思議そうに私の頭を見つめる。
『前世でシステム構築やってたからね〜』
「では、まずゲルハルトさんにお試ししてもらいましょう」
◇◇◇
「宅配サービス?」
ゲルハルトが目を丸くする。
「はい!ご自宅まで商品をお届けします!」
私が満面の笑みで説明。
「わ、わざわざそんなことを...申し訳ない」
「いえいえ!お困りのお客様のお役に立てれば嬉しいです!」
『サービス精神全開よ!』
「あ、ありがたい...本当にありがたい」
ゲルハルトの目に涙が浮かんでいる。
「では、今日の夕方6時にお伺いします。いつものおでんセットでよろしいですか?」
「は、はい、お願いします」
『よし、記念すべき第一号顧客ゲット!』
◇◇◇
夕方6時。ロウが初回配達に出発した。
「行ってきます!歴史的瞬間っす!」
「気をつけて〜!頑張って〜!」
私とミアが手を振って見送る。
30分後、ロウが超絶嬉しそうに戻ってきた。
「おかえり〜!どうだった?」
「最ッッ高でした!」
ロウの顔が太陽みたいに輝いている。
「ゲルハルトさん、マジで喜んでくれて!『わざわざありがとう』『こんなサービス初めて』『生きててよかった』って何度も何度も言ってくれました!」
「やったね〜!大成功〜!」ミアも飛び跳ねて喜ぶ。
『初回から大勝利!』
「それに、思わぬ発見もあったっす」
「え?発見って何?」
◇◇◇
「ゲルハルトさんの隣の家にも高齢者が住んでるんです」
ロウが興奮気味に報告する。
「その方も『私も頼めるの?』『どうすればいいの?』『お金はいくら?』って質問攻めでした!」
「おおお!早速口コミ効果が発動!」
私が内心でガッツポーズ。
『宣伝費ゼロで顧客獲得!』
「一人暮らしで、夜の外出が不安だって言ってました」
「完璧ね。明日から、その方の分も配達しましょう」
「はい!困っている人がいるなら、片っ端から助けるっす!」
ロウの目が正義のヒーローみたいにキラキラしてる。
『うんうん、やる気があって素晴らしい』
◇◇◇
一週間後、宅配サービスの評判が村中に爆速で広まった。
「もう大変っす!」
ロウが息を切らして報告する。
「子育て中の奥さんからも依頼が殺到してます!『小さい子供がいると外出が困難』『このサービス神すぎる』『もっと早く始めてほしかった』って!」
「特に、双子の赤ちゃんがいる田中さんは『人生救われた』って涙ぐんでました!」
『ニーズがあるところに価値あり!』
「外出が難しい理由は人それぞれだけど、私たちがお手伝いできることがあるなら最高よね」
「そうっすね!人の役に立ててる実感がハンパないです!」
ロウがドヤ顔で胸を張る。
『元冒険者が見つけた新しい冒険ね』
◇◇◇
「それと、ヤバい現象が起きてるっす」
ロウがニヤリと笑う。
「ヤバい現象?」
「ついで買いが爆発的に増えてるんです!」
「ついで買い?」
「『せっかくだから、これも』『あ、それも』『これもお願い』って、どんどん追加注文されるんです!」
『きたー!クロスセル効果!』
私の前世マーケティング知識がピコーンと光る。
「配達に来てもらったついでに、普段買わないものも注文する心理的効果ね」
「対面での販売だから、提案もしやすいし、お客様も断りにくい...いや、喜んで追加してくれる」
「リリアーナ様、頭良すぎです〜まるで商売の神様〜」ミアが尊敬の眼差し。
『フフフ、前世の経験を舐めるなよ』
◇◇◇
「具体的には、どんなものが追加されるの?」
ミアが身を乗り出す。
「薬棚の商品が鬼人気っす!」
ロウが得意そうに答える。
「『ついでに胃薬も』『風邪薬も切れそうだった』『あ、そうそう石鹸がなくなりそう』『ついでに...』って、どんどん膨らむんです!」
「完璧!」
私が膝を打つ。
「宅配サービスが生活全般をサポートしてる。お客さんの困りごとが直接見えるから、店舗販売とは全然違う価値がある」
「そうっすね!俺、配達しながら『こんなのもありますよ』って提案するのが超楽しいです!まるでRPGのアイテム商人みたい!」
『ゲーム脳な例えが可愛い』
◇◇◇
二週間後、予想外の効果が現れた。
「ロウ、最近めちゃくちゃ顔色がいいわね」
私が気づく。
「そうっすか?」
「はい!もう別人レベル!まるで恋でもしたみたい〜」
ミアがからかう。
「ち、違うっす!」ロウが真っ赤になる。
「実は...配達がマジで楽しすぎるんです」
「楽しい?」
「お客さんと直接話せるから!みんな『ありがとう』『神サービス』『あなたのおかげで助かってる』って言ってくれるし!」
『やりがいを感じてるのね』
「それに、村の超詳しい情報も入ってくるし、みんなの生活が見えるから面白いっす」
「なるほど、地域密着の配達員ね」
◇◇◇
「例えば、一人暮らしの高齢者の安否確認にもなってるっす」
ロウが真面目な顔で説明する。
「安否確認?」
「はい!毎日顔を見せることで、元気かどうか分かるんです」
「それは重要ね」
「昨日も、田舎のおばあさんが体調を崩してるのに気づいて、即座に村の医師に連絡したっす」
「えー!ロウちゃんヒーローじゃん!」ミアが拍手。
『見守り効果まで!』
「商売と社会貢献の両立。まさに理想的なビジネスモデルね」
「そうっすね!俺、冒険者時代より今の方が人の役に立ってる気がします!モンスター倒すより、人を助ける方が楽しいっす!」
『すっかり配達にハマってる』
◇◇◇
一ヶ月後、宅配サービスの成果を数値で確認した。
「利用者数:25世帯」
「配達回数:週35回」
「平均客単価:通常の1.5倍」
「追加注文率:60%」
「顧客満足度:98%」
「うわあ!全部ヤバい数字!」ミアが驚く。
「特に、追加注文率60%は化け物レベルっす!」
ロウが誇らしげに胸を張る。
「対面販売の威力恐るべし」
『データで見ると効果一目瞭然!』
「それに、口コミで利用者がエクスポネンシャルに拡大してるっす」
「エクス...何?」
「えっと...爆発的にってことっす」
『急に難しい言葉使うなよ』
「『神サービスがあるって聞いた』って新規の方が毎日来ます!」
「口コミは最強の宣伝よね。満足したお客様が勝手に宣伝してくれる」
◇◇◇
「でも...」ミアが心配そうな顔をする。
「需要が増えすぎて、ロウちゃん一人では限界があるかも」
「そうっすね。最近ちょっとハードっす。でも楽しいから全然平気っす!」
ロウが汗を拭きながら苦笑い。
「そうね。システム化を考えましょう」
私が改善策を提案する。
「配達エリアをもっと細分化して、効率的なルート設計をしましょう」
「それと、定期配達と臨時配達を分けて。定期の方は曜日固定で安定運用、臨時の方は緊急対応として」
「なるほど〜!それなら回りやすくなりそうっす!」
「お客様にとっても、定期的な方が安心ですね」
『システム改善で更なる効率化よ』
◇◇◇
翌月、宅配サービス2.0がスタートした。
「定期配達:20世帯」
「臨時配達:週10件程度」
「配達時間:夕方5-7時固定」
「緊急対応:当日可能」
システム化により、さらに効率的になった。
「これで安定運用できそうっす!前より楽になりました!」
ロウが安心した表情。
「お客様からの評価も更に上がってます!『いつ来てくれるか分かるから安心』『予定が立てやすい』って!」
ミアが嬉しそうに報告。
『システム化万歳!』
◇◇◇
その日の夕方、配達から戻ったロウが超感動的な話をしてくれた。
「今日、マジでヤバいくらい嬉しいことがあったっす」
「何があったの?」
「一人暮らしのおばあさんが『あなたが来てくれるから、毎日が楽しみなの』って」
「あら、それは嬉しいわね」
「『商品を届けてくれるだけじゃなくて、話し相手にもなってくれる』『あなたは私の孫みたいよ』って言われて...」
ロウの目がウルウルしてる。
「もう涙腺崩壊しそうでした...」
「うわあ〜感動〜」ミアも目を潤ませる。
『宅配サービスが、単なる配達を超越してるのね』
「コミュニケーションの場にもなってる。これは予想以上の効果よ」
◇◇◇
二ヶ月後、隣村から相談があった。
「宅配サービスのノウハウを教えてほしい」
「同じような仕組みを作りたい」
またまた知識共有の機会が来た。
「もちろんです!困っている人を助けるサービスは、どんどん広がってほしい!」
私が二つ返事で快諾。
『ノウハウは出し惜しみしない主義!』
「配達ルートの設計方法」
「効率的な注文受付システム」
「顧客満足度向上のコツ」
「対面販売でのクロスセル技術」
「システム化のポイント」
惜しみなく全部教えていく。
「こんなに詳しく教えてもらって...」
「いいのよ。みんなが幸せになることが一番大切」
◇◇◇
その夜、スタッフと宅配サービスの意義を話し合った。
「宅配って、想像以上に社会貢献になってますね〜」
ミアが感慨深そうに言う。
「高齢者の見守り、子育て支援、生活サポート、コミュニケーション創出。商売の枠を完全に超えて、地域福祉に貢献してる」
「そうっすね!俺も毎日やりがいをビンビン感じてます!冒険者で魔獣倒してた時より達成感あります!」
ロウがキラキラした目で言う。
「利益も上がって、社会にも貢献できる。これこそが理想的なビジネスモデルよ」
『売り手よし、買い手よし、世間よし!三方よし!』
◇◇◇
一人になった私は、宅配サービスの成果を振り返っていた。
高齢者の満面の笑顔。
子育て世帯の心からの感謝。
ロウの成長と充実感。
地域コミュニティの活性化。
そして、しっかりとした売上向上。
『すべてがWin-Winの関係!完璧!』
前世のコンビニ経験でも、宅配サービスは重要だった。
でも、ここまで深く地域に根ざしたサービスは初めて。
『やっぱり異世界でコンビニやって大正解だったわ』
この世界に足りなかったピースを、私が埋めている。
◇◇◇
窓の外を見ると、明日配達予定の商品が綺麗に準備されている。
おでん、肉まん、薬品、日用品...
それぞれが、誰かの困りごとを解決し、笑顔を作る。
『配達は、希望を届ける仕事』
ロウが言った通り、商品を届けるだけじゃない。
人との繋がり、安心感、生活の質向上、そして愛情...
たくさんの価値を届けている。
『明日もまた、みんなの笑顔のために頑張ろう!』
今夜も完璧に準備を整えて、明日また多くの笑顔を届けよう。
宅配サービスは、確実に村の生活を豊かにしている。
そして私たちも、確実に成長している。
『この調子で、世界中に便利を届けてやるわ!』
前世の知識と、この世界のスタッフの情熱が合わさったとき、奇跡が起こる。
宅配革命、大成功!