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第34話 夜祭りふたたび、外敵登場

「第二回夜祭りまで、あと一か月ですね」


 ミアが壁の暦へ星印を付けた。


 昨年、私たちは焼き串とスープの屋台を出した。


 まだ夜の店そのものを珍しがられていた頃だ。湯気の向こうに並んだ笑顔も、品を切らして頭を下げたことも、昨日のように思い出せる。


「今年も出店しましょう」


「もちろんです!」


 返事を聞いた途端、頭の中で屋台の灯りがパァッと点いた。


 肉まんの白い湯気。おでん鍋のグツグツ。新作おにぎりを割った瞬間に広がる茸の香り。


 来た。来ましたよ、二回目の夜祭り!


 去年は「夜に食べ物を売るなんて」と驚かれた私たちが、今年はどこまで楽しませられるのか。考えただけで商売人の血が騒ぐ。


 ミアの返事に、ロウも身を乗り出した。


「肉まん、おでん、新おにぎり、炊き込み飯。祭り限定の甘い物も欲しいっすね」


「いいわね! 焼き菓子もつけて、温かい飲み物を二種類、それから去年の焼き串も復活させて――」


「全部は無理です」


 アンナが、並べられた候補へ一本ずつ線を引いた。


 スッ。スッ。スッ。


 私の夢の献立が、情け容赦なく討伐されていく。


「待って、アンナ。せめて甘い物だけは生かして。まだ企画書の上で息をしています!」


「調理担当の睡眠が先に息をしなくなります」


「強い。反論が強すぎる……!」


「店は午前零時から四時まで通常営業。宅配も止めないのでしょう? 祭りへ人と鍋を出せば、同じ品数は作れません」


「せっかく二回目なのに、去年より少ないと思われないでしょうか」


「品数が多くても、温度が下がったり、店員が倒れたりすれば、豊かとは言えません」


 その通りだった。


 屋台は肉まん、季節野菜のおでん、茸の炊き込みおにぎりの三つ。通常店舗は包装済みの品を中心に縮小する。宅配は祭り前に受けた予約だけで、ロウと村から雇う補助員が夕方までに終える。


 ミアは祭りの前夜と翌朝を休み、当日は午後十一時まで屋台に立つ。深夜の店へ続けて入らない。


「去年を超える、って、数を増やすことだけじゃないんですね」


「ええ。今年は、無理を去年より減らしましょう」


「それ、地味だけど、すごく大事かもしれません。去年の翌朝、私、寝床でも『串を二本!』って寝言を言ったらしいので」


「私は夢の中で銅貨を数えていたわ」


「お二人とも、祭りの翌日はきちんと休んでください」


 アンナの声が一段低くなり、私とミアはそろって背筋を伸ばした。


 楽しい行事ほど、勢いで無理が見えなくなる。


 ワクワクは消さない。けれど、翌日に誰かがヘナヘナになる成功は、今年こそ卒業だ。


 献立が三つに絞られても、ミアは暦の星を消さなかった。


◇◇◇


 祭り当日の夕方、中央広場には去年より多くの灯りが並んだ。


 パン屋は夜祭り用の平焼きパンを積み、鍛冶屋は小さな星形の飾りを売っている。私たちの屋台からは、茸と根菜の香りが湯気に乗った。


「保温鍋、時刻札、よし。手洗い水、交換用の布、よし」


 ミアが確認を終えたところで、広場の入口がざわめいた。


 四頭立ての荷車から、磨かれた柱と深紅の天幕が運び出される。村の屋台三軒分はありそうな売り場が、手際よく組み上がった。


 金文字の看板には、こうある。


『王都商会直営・夜祭り特別価格』


 肉まん二銅貨。おでん一銅貨。おにぎり一銅貨。


 私たちの半額より安い。


 見間違いかと思い、目をこすった。


 変わらない。


 もう一度こすった。


 やっぱり変わらない。


『値札さん、そこは遠慮して二倍くらいになってくれてもいいのよ?』


 当然、値札に気遣いなどなかった。


「この値段、材料代も出ないんじゃ……」


 ロウが声を落とした。


「確認せずに原価割れとは言えないわ。大量に仕入れているかもしれないし、祭りの宣伝費で補うのかもしれない」


 そう答えたものの、胸の奥が冷えた。


 王宮を追われた日、私は一人の人間ではなく、役に立つか立たないかで量られた。


 今度は、私たちが積み上げた一年を、銅貨一枚の看板に「高すぎる」と言われた気がした。


 喉の奥がカラリと乾く。


 悔しい。


 ものすごく悔しい。


 材料を選んだ時間も、仕込みで眠かった朝も、鍋を焦がして泣きそうになった夜も、全部まとめて「その値段の価値はない」と札を貼られたようだった。


『上等よ。だったらこっちは一銅貨まで――』


 頭の中で、威勢のよい私が値札へ手を伸ばす。


 その手首を、帳面を抱えた私が必死につかんだ。


 待ちなさい。格好よく値下げした次の日、仕入れ代と給金は誰が払うの。悔しさは銅貨にならないのよ。


「向こうへ並んでいるの、私の同級生です」


 ミアがポツリと言った。


「うちのおでんが一番好きって、いつも言ってくれるのに」


「好きでも、安い方を選ぶ夜はあります」


「でも……」


「悔しいわよね」


 ミアが驚いて私を見た。


「私も悔しい。あの列が伸びるたび、『こっちを見て』って叫びたくなる。だから、悔しくない顔をしなくていいの」


「じゃあ私、ちょっとだけ悔しがってもいいですか。あの子、昨日は『ミアの選んだ大根が一番』って言ってくれたのに……ううっ、銅貨一枚に負けたみたいで、すっごく嫌です」


「ええ。でも、その子があなたを嫌いになったわけでも、大根の味を忘れたわけでもない」


「頭では分かるんです。でも、胸のところが全然納得してくれません」


「胸は計算が苦手だから、少し時間をあげましょう」


「銅貨一枚の差で、家族の分を一つ増やせる人もいる。安さも、必要な価値よ」


 自分へ言い聞かせるように言った。


 安い品を選んだ人へ、味が分からないのだと背を向ければ、この店も別の形で人を値踏みすることになる。


◇◇◇


 近くの焼き菓子屋が、慌てて値札を書き換えようとしていた。


「半額にしないと、全部残っちまう」


「その値段で、小麦と蜂蜜の代金は払えますか?」


「今日は赤字でも、客を取られるよりは――」


「王都商会が明日いなくなっても、一度半額にした品を元へ戻せますか」


 店主の手が止まった。


 私は、地元の出店者と祭りの運営席へ集まった。


「全員で同じ価格にしよう、という相談ではありません。それぞれの事情があります。ただ、何を削ればその値段になるのか、一度書き出しませんか」


 材料。薪。場所代。容器。準備と片付けを含む賃金。売れ残り。


 焼き菓子屋が半額にするには、自分と手伝いの娘の賃金をゼロにするしかなかった。


「娘さんの仕事を、王都商会への対抗費にしないでください」


「だが、このまま売れ残れば、結局あの子の手間も無駄になる」


 焼き菓子屋の声は荒かったが、値札を握る指は震えていた。


「昨日、夜中まで蜂蜜を塗ってくれたんだ。売れなかったなんて、あの子に言えるか」


「だからこそ、娘さんの仕事をゼロ銅貨にしないでください。売れ残った数は、次の作る量へ生かせます。でも『あなたの夜中の仕事は無料でした』という計算だけは、次へ残してはいけない」


「きれいごとで売れるか?」


「分かりません」


 即答すると、店主は目を見開いた。


「私だって怖いです。値札を半分にしたら列が来るかもしれない。今のままなら余るかもしれない。でも、怖さに押されて働く人の給金を消すのは、商売の工夫ではありません」


「じゃあ、何で勝負する?」


「勝つ前に、客が比べられるようにしましょう」


 各屋台へ、量、主な材料、作った時刻、価格を掲示する。地元の農家や職人から仕入れた品は、本人の許可を得て仕入れ先も書く。


 アレルギーや苦手な材料を尋ねられた時、分からないなら分からないと答える。


 私たちの値札には、こう付け足した。


『この価格には、材料、祭りの場所代、容器、仕込みから片付けまでの賃金を含みます』


「お客様に説教しているように見えませんか?」


 ミアが心配する。


「買えと言うためではなく、選ぶ材料を増やすためよ。安い方を選んでも、誰も責めない」


「じゃあ、笑顔で送り出します。……たぶん、ちょっと引きつりますけど」


「引きつっても、嫌味を言わなければ合格よ。私も練習するわ」


「いらっしゃいませ。王都商会はあちらです。どうぞ楽しんで――ああ駄目、口角が片方しか上がらない!」


「リリアーナ様の方が重症です」


 ロウに真顔で言われ、三人で吹き出した。


 笑ったおかげで、肩へ入っていた力が少し抜ける。


 試食も用意したが、肉まんを際限なく切り分けはしなかった。小さな試食皿を二十枚。手を触れずに取れるよう一つずつ置き、なくなれば終わりにする。


 無料の量で、安売りへ対抗しては意味がない。


◇◇◇


 祭りが始まると、王都商会の前には長い列ができた。


「子どもが三人いるから、今夜はあちらにするよ」


 顔なじみの母親が、少し気まずそうに言った。


「楽しんできてください。こちらの試食は、買わなくても召し上がれます」


「嫌な顔をしないんだね」


「今夜の食事を選ぶことと、これまで来てくださったことは別ですから」


 ミアも一瞬唇を結んだが、やがて母親の子どもたちへ笑って手を振った。


「また今度、大根の感想を聞かせてね!」


 声は明るかった。


 けれど、母親たちが離れた後、ミアはおでんの柄杓をギュッと握った。


「頑張ったわね」


「はい。笑えました。でも今、ものすごく『うちのも食べてーっ!』って追いかけたいです」


「追いかけたら祭りの怪談になるから、ここで待ちましょう」


「おでん鍋を持って追ってくる店員……怖いですね」


 ようやくミアの指が緩んだ。


 私たちの屋台にも、少しずつ客が集まった。


「この茸は、北の森の物?」


「はい。採取日は昨日で、ギルドの確認札があります」


「王都のは小ぶりだけど、二つ買える。こっちは大きいな……今日は一つを二人で分けよう」


 味だけでなく、量、値段、待ち時間、誰が作ったか。


 客はそれぞれ違う理由で選んだ。


 一度王都の列へ並び、待ち時間が長くてこちらへ来た人もいる。私たちの炊き込み飯を食べた後、王都の甘味を買う人もいる。


 どちらか一方を選んだら、もう一方の敵になるわけではなかった。


「向こうの品、まずくないですよ」


 休憩から戻ったロウが正直に言った。


「薄味ですけど、子どもには食べやすいかも。量は小さめっす」


「食べてきたんですか?」


 ミアが目を丸くした。


「比べるなら、自分で買わないと」


「領収は取っておいて。調査費として店から出します」


「いいんすか?」


「ええ。ただし、敵情視察と言って睨みながら食べないこと」


 ロウは、もう食べ終えている腹を押さえて笑った。


◇◇◇


 問題が起きたのは、夜八時を過ぎた頃だった。


 王都商会の屋台裏に、時刻札のない保温箱が三つ積まれていた。


 私は最初、見なかったことにしたくなった。


 あの品が冷めて客足が落ちれば、こちらが有利になる。


 そんな考えが胸をよぎったことを、恥ずかしいと思う。


 黙っていればいい。


 知らなかったことにすれば、王都商会は自分たちの失敗で信用を落とす。こちらは手を汚さず、客が流れてくる。


 なんて都合のいい勝ち方だろう。


 胸の奥で、意地の悪い私がニヤリとした。


 その直後、母親に手を引かれて列へ並ぶ子どもが見えた。


 胃の底がヒヤリと冷えた。


 駄目だ。


 勝つために、誰かのお腹を賭け金にはできない。


「祭りの安全担当を呼びましょう」


 アンナが、私の迷いを見抜いたように言った。


「ええ」


 私は王都商会へ直接怒鳴り込まず、運営席の食品担当へ状況を伝えた。


 担当者は双方の屋台を同じ基準で確認した。


 私たちの鍋は調理時刻と交換時刻が記録されていた。王都商会の三箱は、荷車から降ろした者と売り場へ置いた者が違い、いつ温めた品か誰も答えられない。


「この三箱は販売停止です」


「待ってください。これを捨てたら、目標数に届かない」


 現場責任者の男が、青ざめて前へ出た。


「王都から運んできたんです。冷たい物は温め直せば――」


「時刻と保管状態が分からない品は、温め直しても客へ出せません」


 私は言った。


「あなたの店を負けさせたいからではありません。私たちの箱でも、記録がなければ止めます」


「あなたには分からない。売上目標を割れば、雇い主に何と言われるか」


 男の目の下には濃い影があった。


 開店前から大声で宣伝し、休憩へ入った姿を見ていない。


「分からないから、教えてください。怒鳴られるのですか。給金を減らされるのですか。それとも、次の仕事を外される?」


「……全部あり得ます。私は王都に妻と子を残してきた。ここで『辺境の屋台にも勝てませんでした』などと報告すれば、笑われるだけでは済まない」


「それは怖いですね」


「同情するなら、三箱を売らせてください」


「同情しているからこそ、食中りまであなたの責任へ載せたくありません。今、売上目標へ届かない苦しさと、後で客が倒れる苦しさは別です。後の方が、きっと重い」


 男は歯を食いしばった。


 悔しいのだ。私たちと同じように。


 ただし、その悔しさで保温時間は巻き戻らない。


「では、残っている安全確認済みの品数を数えましょう。列の方へ、品切れになる可能性と待ち時間を伝える。売れない箱を売れるようにはできませんが、混乱を減らす手伝いはできます」


 私たちは運営の指示で、王都商会の客へ販売停止の理由を説明した。


 怒って帰る人もいた。別の屋台へ移る人も、待つ人もいた。


 地元の屋台は、急に増えた客へ無理に応えず、残数を掲示した。焼き菓子屋は最後まで値下げせず、予定分を売り切った。


 王都商会の三箱は封をされ、持ち帰って廃棄記録を残すことになった。


 誰かの失敗で増えた列を見ても、勝ったとは思えなかった。


◇◇◇


 祭りの終盤、先ほどの現場責任者が私たちの屋台へ来た。


「一つ、炊き込み飯をください」


「残り一つです」


「なら、後ろの方へ」


 彼は列を振り返り、買うのをやめようとした。


「その方の分は、別に取り置きがあります」


 確認してから、私は最後の一つを渡した。


 男は代金を払い、値札の説明を読んだ。


「仕込みと片付けの賃金まで、客へ書くのですか」


「何にお金を払うのか、知りたい方もいますから」


「うちは、本部の販促費で差額を埋めています。今夜だけの価格です」


「市場を調べるためですか?」


「それもあります。安値を覚えさせ、地元の店が値下げするか撤退すれば、次から通常価格で売りやすくなる。私は、決められた数を売るよう命じられただけですが」


 正直な言葉だった。


「なぜ、それを私に?」


「三箱を見逃さなかったからです。あなたが黙っていれば、そちらの売上はもっと増えたでしょう」


「食べる人を、店同士の勝敗へ巻き込めません」


「それを王都の本部が理解するとは約束できません」


 彼は炊き込み飯を一口食べた。


「味は、こちらの方が好みです。ただ、安さで助かる客がいたのも事実でしょう」


「はい。だから、安いだけでは駄目とも、質さえ良ければ必ず選ばれるとも思いません」


「あなたは、商売の答えを教えてはくれないのですね」


「私も、答えを持っていません」


「元王女なら、もっと自信たっぷりに正解を言うものだと思っていました」


「王女の頃は、正解を知っている顔をするのが仕事でした。店主になってからは、間違えた鍋も売れ残った数も、全部こちらへ返ってきます。おかげで毎日、自信がボコボコです」


「それでも店を続ける?」


「悔しいですから。今日より少しだけ、明日の方をよくしたいんです」


 男は初めて、少しだけ笑った。


「王都へは、辺境の一店を価格だけで退かせるのは難しい、と報告します。次がないとは言えません」


「こちらも、次がないとは思いません」


 握手も、和解の約束もしなかった。


 ただ、互いに名前を告げた。


 男は王都商会の現場責任者、カイだった。


◇◇◇


 片付けを終え、売上と残数を数えた。


 肉まんは用意した八十個のうち七十二個。おでんは六十杯のうち五十六杯。炊き込みおにぎりは七十個を売り切った。


 試食と、時刻を越えて廃棄した分を引き、材料代、場所代、補助員を含む賃金を払っても、利益は残った。


 昨年との単純比較はしなかった。来場者数も、売った品も違う。


 翌朝支払う予定の袋を、仕入れ先と働き手ごとに分けた。茸を採った人、野菜を育てた人、容器を洗った人、夕方の宅配を代わった補助員。売上という一つの数字の中には、違う顔と時間が入っている。


「ここを削って勝ったことにしたら、誰かが負けを引き受けるんですね」


 ロウが、補助員の名札が付いた袋を丁寧に置いた。


「ええ。その負けが見えにくいから、値下げは怖いの」


「王都商会より売れたんでしょうか」


 ミアが尋ねた。


「分からないし、知らなくていいわ。私たちは、約束した賃金と仕入れ代を払える売り方ができた。それをまず確認しましょう」


 言い切ったものの、本音では知りたい。


 ものすごく知りたい。


 できるなら王都商会の帳面へ忍び込み、売上数を一桁ずつ数えて「勝った!」「負けた!」と一喜一憂したい。


 でも、それを始めれば、今日食べてくれた一人一人の顔が、勝敗の数字へ薄まってしまう。


 私は好奇心に蓋をし、給金袋の紐をキュッと結んだ。


「同級生が、帰りに寄ってくれました」


「何か言っていました?」


「王都のおにぎりも食べたけど、茸のも一つ家へ持って帰りたいって」


 ミアの声は、少し照れていた。


「どちらかを選んだから、どちらかが嫌いなわけじゃなかったんですね」


「ええ。私たちも、客の一回の選択で絆の深さを測らないようにしましょう」


 最後の天幕を畳んでいると、ゼルドが王都商会の荷車を見つめていた。


「あれだけの箱を、王都から同じ規格で運んできた。中身の管理には穴があったが、輸送力そのものは強い」


「怖いですか?」


「怖いですよ。だから、味と笑顔だけで次も大丈夫だとは考えたくない」


 ゼルドは、私たちのばらばらな空箱を一つずつ重ねた。


「これまで仕入れを手伝ってきましたが、臨時の協力では限界があります。リリアーナさん。今度、正式な物流契約の話をさせてください」


 夜祭りは終わった。


 けれど、王都商会が置いていった課題は、朝になっても消えなかった。


 ゼルドが空箱を積み終えると、山は私の背丈を越えていた。


「全部盛りで勝負、なんて言っていたら、運ぶ人が潰れますね」


「味もサービスも村の協力も必要です。ただし、荷車へ載る形に整理して」


「つまり?」


「物流です」


 祭りの熱気が引いた広場で、その一語だけがズシンと重く残った。


 次の勝負は派手な屋台ではない。


 箱、道、時刻、荷を持つ人の休息まで含めた、店の血管づくりだった。

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