第32話 ポイント札は正義
# 第32話 ポイント札は正義
「最近、お客様の満足度をもっと上げられないかなって考えてるの」
朝の準備作業中、私がつぶやく。
「えっと...満足度を上げる?」
ミアが疑問そうに聞く。
「そうよ。確かに売上も順調だし、リピーターも多い。でもね...」
私の脳内で前世のコンビニ店員経験がフラッシュバック。
『そうだ!ポイントカード!あの魔法のシステム!』
「ポイントシステムよ!」
突然の宣言に、ミアとロウがポカーンとした顔。
◇◇◇
「ぽ、ポイントシステム?」
ミアが首をかしげる。
「来店回数や購入金額に応じて、ポイントを貯められる仕組みよ!」
私が興奮気味に説明し始める。
「一定数貯まったら、特典がもらえる!現代日本では当たり前のシステム!」
「う、うおおお!面白そうっす!」
ロウが目をキラキラさせる。
「でも、どうやって記録するんですか?この世界にレジスターとかないですし...」
ミアが実務的な質問。
『そうよね、ICカードもバーコードもない世界』
「木札にスタンプを押す仕組みはどうかしら?アナログだけど確実よ!」
「なるほど〜!それなら、オルフさんに作ってもらえそうですね」
◇◇◇
早速、オルフの工房へ突撃。
「おい、朝からなんだ元王女」
「オルフさん!大発明のお手伝いをお願いします!」
私が勢い良く飛び込む。
「大発明だと?」
「ポイント札です!顧客管理革命の始まりです!」
「...は?」
オルフが困惑している。
『あ、説明不足だった』
「つまりですね、常連さんに感謝の気持ちを形にしたいんです」
「ほう...」
「木札にスタンプを押していって、貯まったら特典がもらえる仕組み」
「面白いアイデアだな!」
オルフの職人魂に火がついた。
「どんなデザインがいい?」
「シンプルで実用的なものを。10個のスタンプが押せるスペースがあって、持ち歩きやすいサイズで。あ、店の名前も入れてもらえますか?」
「任せろ。明日には完成させてやる」
『頼もしい職人!この世界の技術力を舐めてた』
◇◇◇
翌日、オルフの工房で完成品とご対面。
「うおおおお!」
私が思わず声を上げる。
手のひらサイズの美しい木札。10個の丸い枠が均等に刻まれ、上部には店名「夜明けの星」が芸術的な文字で彫られている。
「オルフさん、これは芸術品レベルです!」
「へっ、当然だろ」
オルフがドヤ顔。
「プラスチックじゃない温かみがありますね〜」
ミアも感動している。
「これなら長持ちするし、愛着も湧きそうっす」
ロウが木札を大切そうに撫でる。
『この世界らしい、温かみのあるポイントカード完成!』
「それで、特典はどうしましょう?」
◇◇◇
「10個貯まったら、好きな商品を一つサービス!」
私が太っ腹な特典内容を決める。
「え?どんな商品でもいいんですか?」
「基本的にはね。ただし、常識の範囲内で。まさか『店ごとください』とは言わないでしょ?」
『さすがにそれは無理』
「おでん一杯とか、おにぎり一個とか、肉まんでも大丈夫です」
「太っ腹っすね〜」
ロウが感心する。
「でも、顧客名簿も作りましょう。誰がどれくらい来店するか記録するの」
「顧客名簿?」
「そう!お客様のお名前、年齢、職業、来店時間、購入商品、好みまで全部記録するの!」
私が前世の店長経験を思い出しながら熱弁する。
『現代日本では当たり前の顧客管理だけど、この世界では革命的!』
「え、えーっと...そんなに詳しく聞いて大丈夫なんですか?」
ミアが心配そうに聞く。
「もちろん!『より良いサービスのため』って説明すれば、皆さん喜んで教えてくれるわよ。むしろ『自分のことを覚えてくれる特別な店』って感動してもらえる!」
「なるほど〜」
「データ分析に使えるから。前世の経験で言うと、顧客データは宝の山よ!」
◇◇◇
「データ分析って、具体的には?」
ミアが興味深そうに聞く。
「例えば、どの時間帯にどんなお客様が来るか。どの商品が人気か。常連客の好みは何か」
私の前世マーケティング知識が爆発する。
「それが分かると、何か良いことがあるんですか?」
ロウの純粋な質問。
「仕入れの最適化ができる!お客様の好みに合わせたサービスができる!新商品開発のヒントも得られる!」
「うおお〜、勉強になるっす」
『データドリブン経営、この世界に持ち込んでやる!』
◇◇◇
ポイントシステム導入初日の夜。
「皆さま、今日から革命的な新サービスを始めます!」
私が大袈裟に常連客に宣言する。
「革命的?」
ハンスが眉を上げる。
「ポイント札システムです!この美しい木札にスタンプを押していき、10個貯まったら好きな商品を一つプレゼント!」
木札を高々と掲げると、客たちがどよめく。
「それと!」
私が追加で宣言する。
「より良いサービスのため、簡単なアンケートにもご協力ください!お名前、お仕事、好きな商品など教えていただければ、もっと喜んでいただけるサービスを提供できます!」
『顧客名簿作成作戦開始!』
「アンケート?」
「はい!例えば、ハンスさんなら『衛兵』『夜勤』『おでん好き』って記録させていただいて、おでんの仕入れを増やしたり、夜勤向けのメニューを考えたり!」
「なるほど!俺のことを覚えてくれるのか!」
ハンスが感動している。
「もちろんです!一人一人のお客様を大切にしたいんです!」
『現代の顧客管理を、この世界の人には「特別扱い」として提供!完璧な戦略!』
「おお〜!」
「木札が温かみがあっていいな」
「面白そうじゃないか」
『導入初日から大好評!やったね!』
◇◇◇
「それでは、記念すべき第一号!」
ミアがハンスの木札にスタンプを押す。
「ポン!」
「おおお〜!記念すべき第一号だ!」
ハンスが子供のように喜ぶ。
「それでは、アンケートもお願いします〜」
ミアが準備していた羊皮紙を取り出す。
「ハンス・ブラウンさん、35歳、衛兵、夜勤担当、好きな商品はおでんとおにぎり、来店時間は午後10時頃...と」
私がせっせと記録していく。
『現代なら当たり前のことだけど、この世界の人には「VIP待遇」に見える!』
「すげぇ!俺のこと、そんなに詳しく覚えてくれるのか!」
ハンスが感激している。
「もちろんです!ハンスさんが来られたら、すぐにおでんを準備できるようにしますから!」
「これで9個貯めれば、何かもらえるのか。楽しみが増えた!」
「木札だから失くしにくいし、愛着も湧くな」
ベルトも満足そう。
『物理的なポイントカードの魅力、現代人が忘れかけてる感覚ね』
◇◇◇
一週間後、驚愕の効果が発生。
「リリアーナ様!大変です!」
ミアが興奮して駆け込んでくる。
「どうしたの?火事?盗賊?」
「違います!来店頻度が爆上がりしてます!」
「爆上がり?」
「常連客の来店頻度が平均20%向上!ポイント貯めるために毎日来るって言う人も続出です!」
『来店頻度20%UP!これは予想以上!』
「それに、客単価も上昇してるっす!」
ロウが追加報告。
「『あと一個買えばポイントが貯まる』って、追加購入する人が激増です!」
「完璧!心理的な効果が働いてる。ゲーミフィケーションの勝利ね!」
◇◇◇
「さらに面白い現象があります!」
ミアが続ける。
「新規のお客様も、ポイント札に興味津々なんです!」
「どういうこと?」
「『これは何ですか?』って聞かれて、説明すると『私にもください!』って。しかも、アンケートも『特別扱いしてもらえるなら』って、喜んで答えてくださるんです!」
「なるほど〜」
「つまり、新規客の常連化も促進されてるということね。一石二鳥どころか三鳥!」
『リピーター製造機と化したポイントシステム+顧客名簿!』
「お客様の情報が増えるたびに、より良いサービスができるようになってます!」
ロウが感心している。
「例えば、農家のトーマスさんは『朝5時に必ず来店、野菜スープが好み』って分かったので、朝5時前に野菜スープを準備するようにしたら、すごく喜ばれました!」
『顧客データベースの威力、発揮中!』
「その通りよ。単なる取引から、関係性のある交流に変化してる。これぞ顧客エンゲージメント!」
◇◇◇
二週間後、私は顧客データの分析に没頭していた。
「データを見ると、色々なことが分かってきました!」
私が分析結果を発表する場を設ける。
「まず、人気商品ランキング!1位:おでん、2位:肉まん、3位:新おにぎり!」
「やっぱり温かいものが人気ですね〜」
ミアが納得。
「次に、時間帯別の客層。深夜1-3時:衛兵中心、深夜3-5時:冒険者中心、朝5-7時:農家・職人中心!」
『客層の見える化!マーケティングの基本!』
「これは仕入れの参考になりそうっす」
ロウが実用性を理解している。
◇◇◇
「さらに詳しく分析すると、常連客の好みパターンも丸見え!」
私が得意顔で続ける。
「例えば、ハンスさんは必ずおでんとおにぎりのセット。ベルトさんは甘いものを必ず追加。冒険者のディランさんは肉まんを複数個購入する傾向!」
「すごく細かく分析してるんですね〜」
ミアが驚愕している。
「これが顧客データの力よ!データを制する者が商売を制す!」
『前世のマーケティング知識、フル活用!』
「一人一人の好みが分かれば、『いつものやつ』が自然に提供できる。これぞ究極の接客!」
◇◇◇
一ヶ月後、ついに記念すべき瞬間が到来。
「ついに10個貯まりました〜!」
ハンスが木札を嬉しそうに高々と掲げる。
「おめでとうございます!記念すべき第一号交換者です!」
私が大袈裟に祝福する。
「何を選ばれますか?」
「そうですね...いつものおでんをお願いします」
「かしこまりました〜!」
ミアが特別仕様のおでんを用意する。
『記念すべき第一号交換!感動の瞬間!』
「なんだか特別な気分だな〜」
ハンスが満足そう。
「また新しい木札でスタートですね」
「ああ、また頑張って貯めるよ!」
◇◇◇
その様子を見ていた他の客たちも大盛り上がり。
「俺もあと3個で10個だ!」
「私はまだ7個!負けてられない!」
「明日も来て、ポイント貯めよう!」
完全にゲーム化している。
『ゲーミフィケーション大成功!健全な競争心が生まれてる!』
「お客様同士で、ポイント数を競ってる人もいますね〜」
ミアが楽しそうに観察を報告。
「完璧!コミュニティの活性化にもつながってる。一石何鳥だこれ!」
◇◇◇
二ヶ月後、システムの効果を数値で確認してビックリ。
「売上:30%向上!来店頻度:平均25%向上!客単価:15%向上!新規客の常連化率:40%向上!顧客満足度:95%達成!」
私が数字を読み上げると、みんな口をポカーンと開けている。
「すべての指標で大幅改善!ポイントシステム恐るべし!」
『数字で殴る圧勝!これぞデータの力!』
「たった木札とスタンプなのに...」
ロウが感嘆している。
「シンプルなシステムほど、効果が高いのよ。複雑だと、お客様が面倒に感じちゃうから」
◇◇◇
「予想外の効果もありました〜」
ミアが嬉しそうに報告。
「木札を宝物みたいに大切にされる方が多いんです!」
「どういうこと?」
「『これは特別なものだから』って、財布の奥に大切にしまってくださる」
「木の温かみが愛着を生んでるのね。オルフさんの職人技のおかげでもある」
『物理的なポイントカードならではの効果!デジタルにはない魅力!』
◇◇◇
その夜、一人でデータとにらめっこしていた私。
顧客名簿を見ながら、一人一人の顔を思い浮かべる。
ハンスさん、毎日夜勤前に来店。ベルトさん、週4回で必ず甘いものを追加。ディランさん、冒険前にまとめ買い。
『データの向こうに人がいる』
数字だけじゃない。一人一人の生活パターン、好み、人生が見える。
それが分かると、もっともっと良いサービスができる。
◇◇◇
翌朝、衝撃のニュースが。
「リリアーナ様!隣村からポイントシステムの問い合わせが殺到してます!」
ミアが興奮して報告。
「問い合わせ?」
「同じようなシステムを導入したいって、5つの村から!」
「マジで?」
「評判が広まってるみたいです!『革命的な顧客管理システム』って!」
『他地域への影響!ポイントシステム伝道開始!』
「ノウハウは惜しみなく共有しましょう。良いシステムは、みんなで使ってこそ価値がある!」
◇◇◇
午後、なんと商業ギルドから正式な視察団が到着。
「顧客管理システムの成功事例として、全国的に注目されています」
視察団長が丁寧に説明する。
「そんな大げさなものじゃありませんが...」
「いえいえ!データに基づいた経営改善は画期的です!特に、アナログとデジタルの融合が革新的!」
『商業ギルド公認!これで権威のお墨付き!』
「木札という物理的なポイントカードと、データ分析の組み合わせ。これは新しい顧客管理のモデルケースです!」
「光栄です〜」
◇◇◇
その夜、スタッフと大成功を祝った。
「ポイントシステム、大・大・大成功ですね〜!」
ミアが満足そう。
「お客様も喜んでくださってるし、売上も上がってるし」
「データ分析も面白いっす!一人一人の好みが数字で見えるなんて」
ロウも完全にデータ分析にハマってる。
「でも、一番大切なのは数字じゃないのよ」
私が真面目な顔で付け加える。
『データの向こうにある人の想い』
「お客様との絆が深まったことが、最大の成果。これに勝る宝物はない」
◇◇◇
一人になった私は、木札の見本を手に取って眺めていた。
オルフが心を込めて作ってくれた、美しい木札。
シンプルだけど、そこには無限の可能性が込められている。
お客様への感謝。より良いサービスへの願い。データ分析による改善への情熱。
『ポイント札は正義!』
完全にそう確信した。
◇◇◇
窓の外を見ると、今夜も常連客が木札を大切そうに握りしめて来店している。
ポイントを貯める楽しみ。お気に入りの商品を選ぶ喜び。店との特別な絆を感じる安心感。
すべてが、この小さな木札から始まっている。
『顧客データは宝の山!でも、その宝の正体は数字じゃない』
お客様一人一人との信頼関係。
それこそが、最も価値のある宝物。
今夜も、木札とスタンプが新しい絆を育んでいく。
そして私は心の中で叫んだ。
『ポイントシステム、この世界に持ち込んで大正解!前世の知識、最高!』