第31話 町医者と薬棚
「リリアーナさん、少しご相談があります」
深夜1時頃、村の医師エルウィンが慌てた様子で来店した。
「エルウィン先生、どうされました?」
私が心配そうに迎える。
「実は、夜中に薬が必要な時があるんです」
「薬が?」
「はい。急な発熱や腹痛で、夜中に薬を求める人が時々います」
エルウィンが困った表情で説明する。
『夜間の医療アクセス問題』
「でも、私の診療所は夜は閉まっていますし...」
「緊急性の低い症状でも、本人やご家族は心配になりますからね」
私が共感する。
「そこで、ご相談なんですが」
◇◇◇
「安全な薬品なら、こちらで販売できるかもしれません」
私が提案する。
「本当ですか?」
エルウィンの目が輝く。
「ただし、条件があります」
「どのような?」
「まず、危険性の低いものに限定すること」
「そして、先生の専門的な指導のもとで行うこと」
『安全第一の方針』
「もちろんです。命に関わることですから」
エルウィンが真剣に答える。
「それでは、取り扱い薬品の選定から始めましょう」
◇◇◇
翌日、エルウィンと一緒に薬品の選定作業を行った。
「まず、解熱剤から始めましょう」
エルウィンが薬草を手に取る。
「これはウィローバークという薬草です」
「熱を下げる効果があり、副作用も少ない」
「ウィローバーク...」
私がメモを取る。
『前世でいうアスピリンの原料ね』
「次に、胃腸薬」
「こちらはペパーミントリーフ」
「消化不良や軽い胃痛に効果があります」
「使用方法は?」
「お湯で煎じて飲むだけです。簡単ですよ」
◇◇◇
「外用薬も必要ですね」
エルウィンが続ける。
「軽い擦り傷や切り傷用の軟膏」
「こちらは薬草オイルベースです」
「天然成分なので、アレルギーのリスクも低い」
私が興味深く聞く。
「でも、使用方法を間違えると危険ですよね?」
「その通りです。だから説明書が重要になります」
『説明書の重要性』
「でも、文字が読めない人もいます」
「それは問題ですね...」
エルウィンが困った顔をする。
「図解化しましょう」
私が提案する。
◇◇◇
「図解化?」
「はい。絵で説明するんです」
私が紙に簡単な絵を描いて見せる。
「お湯を沸かす絵、薬草を入れる絵、飲む絵」
「これなら文字が読めない人でも理解できます」
「素晴らしいアイデアです」
エルウィンが感動する。
「これで安全性が大幅に向上しますね」
『文字が読めない人でも理解できるように』
「それと、先生の信頼コメントも重要です」
「信頼コメント?」
「『この薬は安全です』という先生の保証があれば、お客様も安心できます」
◇◇◇
一週間後、薬棚コーナーが完成した。
「医療用品専用スペース」の看板が設置されている。
棚には、厳選された安全な薬品が並んでいる。
それぞれに詳細な図解説明書と、エルウィンのコメントが添えられている。
「『エルウィン医師推奨・安全確認済み』」
『専門家の保証』
「これで安心して販売できますね」
ミアが感心している。
「でも、責任も重大です」
私が身の引き締まる思いで言う。
「医療の一端を担う責任の重さ」
◇◇◇
初日の夜、さっそく需要があった。
「すみません、子供が熱を出してしまって...」
若い母親が慌てて来店した。
「お子さんの体調はいかがですか?」
私が心配そうに聞く。
「熱が38度くらいで、ぐったりしているんです」
「それは心配ですね」
『初の夜間薬品販売』
「解熱剤はございますが、まずお子さんの年齢を教えてください」
「3歳です」
「分かりました。3歳のお子さんに適した解熱剤をご用意します」
◇◇◇
「こちらがウィローバークの解熱剤です」
私が薬品を手に取る。
「エルウィン先生が安全性を確認済みです」
「使用方法は、この図解説明書をご覧ください」
母親が説明書を見る。
「絵で描いてあるから分かりやすいですね」
「お湯で煎じて、1日3回、食後に服用してください」
「ただし、症状が改善しない場合は、必ずエルウィン先生にご相談ください」
『誤用防止の徹底』
「ありがとうございます。これで安心できます」
母親が感謝の気持ちを表す。
◇◇◇
翌朝、エルウィンが効果確認に来てくれた。
「昨夜の患者さんの様子はいかがでしたか?」
私が聞く。
「素晴らしい結果でした」
エルウィンが満足そうに答える。
「熱は下がり、お子さんも元気になったそうです」
「それは良かったです」
「母親も『夜中に薬が手に入って本当に助かった』と感謝していました」
『アクセスが改善された』
「これまでは、朝まで我慢するしかありませんでしたからね」
「社会貢献の実感がありますね」
私が嬉しく思う。
◇◇◇
一週間後、薬棚の評判が村中に広まった。
「夜中でも薬が買えるなんて便利だ」
「図解説明書が分かりやすい」
「エルウィン先生のお墨付きだから安心」
口コミで利用者が増加している。
「でも、気をつけなければならないことがあります」
私がスタッフに注意を促す。
「薬品販売には細心の注意が必要」
「分からないことは、必ず医師に相談してもらう」
『安全性の徹底』
「了解です」
ミアとロウが真剣に答える。
◇◇◇
その夜、興味深い客が来店した。
「隣村から来ました」
中年の男性が言う。
「夜中に薬が買えると聞いて」
「どのような症状でしょうか?」
「慢性的な腰痛で、夜中に痛みがひどくなるんです」
『隣村からも注目されている』
「腰痛用の外用薬がございます」
私が薬棚を案内する。
「こちらは薬草オイルベースの軟膏です」
「エルウィン先生が安全性を確認済みです」
「図解説明書もありますので、使用方法をご確認ください」
◇◇◇
「本当に助かります」
男性が感謝する。
「うちの村には、夜中に薬が買える店がないんです」
「そうなんですか」
「ぜひ、私たちの村にも同じような仕組みを作ってもらえませんか?」
『他地域への展開要請』
「それは医師との連携が必要ですね」
私が説明する。
「まず、村の医師と相談してみてください」
「安全な薬品選定と、使用方法の指導が重要です」
「分かりました。相談してみます」
◇◇◇
翌日、エルウィンが嬉しい報告をしてくれた。
「急患の数が減りました」
「と言いますと?」
「軽症の夜間患者が、薬棚を利用するようになったんです」
「それは良いことですね」
「おかげで、私も重症患者に集中できます」
『医療リソースの最適化』
「医療アクセスの改善だけでなく、医療効率の向上にもつながっているんですね」
「その通りです。Win-Winの関係です」
エルウィンが満足そうに言う。
◇◇◇
一ヶ月後、王都の医師ギルドから視察の申し出があった。
「地方での医療アクセス改善事例として注目されています」
使者が説明する。
「そうなんですか」
「特に、図解説明書と医師連携システムが評価されています」
『王都からの注目』
「知識は共有すべきものです」
私が答える。
「ぜひ、見学していただいて、他の地域でも展開してください」
「ありがとうございます」
使者が感謝する。
「これで、より多くの人が恩恵を受けられます」
◇◇◇
視察当日、王都の医師たちが薬棚システムを詳しく調査した。
「薬品選定の基準が明確ですね」
「図解説明書も実用的です」
「医師との連携システムも参考になります」
次々と評価の声が上がる。
『専門家からの高評価』
「このシステムを王都でも導入したいと思います」
視察団長が言う。
「もちろんです。ノウハウは惜しみなく共有します」
私が快諾する。
「ただし、各地域の医師との連携は必須です」
「当然です。安全性が最優先ですから」
◇◇◇
その夜、エルウィンと成果を振り返った。
「薬棚システム、大成功ですね」
「あなたのおかげです」
エルウィンが感謝する。
「いえ、先生の専門知識があってこそです」
「でも、一番大切なのは患者さんの笑顔ですね」
私が同感する。
『医療の一端を担う責任』
「薬が必要な時に手に入る安心感」
「それが何より価値があります」
「これからも、安全第一で続けていきましょう」
◇◇◇
翌月、思わぬ副次効果が現れた。
「村の健康意識が向上しています」
エルウィンが報告する。
「どういうことですか?」
「薬棚を利用する過程で、健康に関する知識が普及しているんです」
「なるほど」
「図解説明書を読むことで、症状と対処法を学んでいる」
『健康教育の効果』
「予防意識も高まっています」
「それは素晴らしい副次効果ですね」
私が感動する。
「薬を売るだけでなく、健康教育にも貢献している」
◇◇◇
半年後、システムの成果を数値で確認した。
「夜間医療アクセス:100%改善」
「軽症患者の自己対処率:80%向上」
「医師の重症患者対応時間:30%増加」
「健康知識の普及率:90%向上」
『すべての指標で大幅改善』
「数字で見ると、社会貢献の大きさが分かりますね」
ミアが感心する。
「でも、一番大切なのは数字じゃない」
私が付け加える。
「困った時に助けを得られる安心感」
「それが何より価値がある」
◇◇◇
その夜、一人で薬棚を見つめていた。
小さな棚だが、そこには大きな責任が込められている。
人の健康と安全を預かる重み。
医師との信頼関係。
お客様からの期待。
『新たな役割への自覚』
でも同時に、大きなやりがいも感じている。
夜中に困った人を助けられる喜び。
医療アクセス改善への貢献。
健康知識の普及効果。
『社会インフラとしての店舗』
◇◇◇
翌朝、嬉しい手紙が届いた。
「薬棚のおかげで助かりました」
先月、子供の熱で困っていた母親からだった。
「あの夜、本当に心配でしたが、すぐに薬が手に入って安心できました」
「子供も元気になり、家族みんな感謝しています」
『お客様からの感謝』
こういう手紙をもらうと、すべての苦労が報われる。
責任の重さも、やりがいに変わる。
◇◇◇
その日の夕方、新しい展開があった。
「リリアーナさん、相談があります」
エルウィンが来店した。
「何でしょうか?」
「薬棚システムを、さらに発展させませんか?」
「発展?」
「健康相談コーナーの設置です」
『次なる挑戦』
「医師がいない時間でも、基本的な健康相談ができる仕組み」
「それは興味深いですね」
「一緒に考えてみましょう」
新しい挑戦への扉が開かれた。
◇◇◇
一人になった私は、今日一日を振り返っていた。
薬棚システムの成功。
医師との信頼関係。
お客様からの感謝。
王都への影響。
そして、新たな挑戦への道筋。
『医療の一端を担う責任の重さ』
でも、その責任は決して重荷ではない。
人の役に立てる喜び。
社会に貢献できる誇り。
信頼関係で結ばれた絆。
それらがすべて、私の原動力となっている。
今夜も、薬棚が誰かの助けとなりますように。
そんな願いを込めて、私は営業を続けるのだった。