第26話 夜が明るいと治安が良くなる件
「リリアーナさん、少しお時間をいただけますか?」
深夜の営業中、衛兵隊長のグリムが真剣な表情で来店した。
「もちろんです。何か問題でも?」
私が心配そうに聞く。
「いえ、むしろ良い話なんです」
グリムが安堵の表情を見せる。
「最近、夜間の事件が減っているんです」
「事件が減った?」
「はい。明らかに体感できるレベルで」
私が興味を示す。
『そういえば最近、トラブルらしいトラブルを聞かないわね』
「具体的には、どのような?」
◇◇◇
「窃盗、暴行、酔っ払いの騒動...そういった夜間犯罪が激減しています」
グリムが詳しく説明する。
「以前は一晩に2、3件は事件があったのですが」
「最近は週に1件あるかないか」
「それは凄い変化ですね」
私が驚く。
「それで、原因を調べてみたいのですが」
「原因?」
「実は、この変化が始まったのが、あなたの店が開店した時期と重なっているんです」
『店と治安改善の関連性?』
「興味深いですね。データで確認してみましょうか」
私の分析魂が燃え上がる。
◇◇◇
翌朝、グリムが詳細なデータを持参してくれた。
「過去6ヶ月分の犯罪記録です」
「ありがとうございます」
私がデータを受け取る。
「犯罪件数を月別で比較してみましょう」
私が表を作成し始める。
「開店前3ヶ月:7月20件、8月18件、9月22件」
「開店後3ヶ月:10月8件、11月6件、12月7件」
『これは...明確な改善ね』
「店ができてから、犯罪件数が3分の1に減少しています」
私がデータを示す。
「やはり関連があったんですね」
グリムが感心する。
◇◇◇
「でも、なぜ店の開店が治安改善につながるのでしょう?」
ミアが疑問を口にする。
「要因分析をしてみましょう」
私が考察を始める。
「まず第一に、明るい場所は犯罪の抑制効果があります」
「明るい場所?」
「はい。犯罪者は人目に付くことを嫌います」
前世の犯罪学知識が蘇る。
「店の魔灯による照明で、夜間でも明るい場所ができた」
「それが犯罪の抑制につながったのですね」
グリムが納得する。
「第二に、人の目があることです」
「人の目?」
「店に客が出入りすることで、常に人の目があります」
『天然の監視システム』
◇◇◇
「第三に、衛兵の皆さんの巡回パターンが変わったことも要因の一つでしょう」
私が分析を続ける。
「どういうことですか?」
「店を休憩地点として利用されることで、パトロールの頻度が上がりました」
「確かに」
グリムが頷く。
「以前は村の端まで巡回するのが大変でしたが」
「今は店で休憩しながら、効率的に巡回できるようになりました」
「パトロールルートの最適化ですね」
『店を拠点にした効率的な警備』
「結果的に、村全体の警備密度が向上した」
◇◇◇
「それに、灯台効果もありますね」
私が新しい観点を提示する。
「灯台効果?」
「店の明かりが、遠くからでも目印になるんです」
「ああ、確かに」
グリムが理解する。
「村のどこからでも、あの明かりが見える」
「迷子になりそうな時や、危険を感じた時に、あの明かりを目指せばいい」
「心理的な安心感につながるのですね」
『安全の象徴としての店』
「住民の方々も、夜道が怖くなくなったと言ってくださいます」
ミアが補足する。
◇◇◇
その日の夕方、興味深い来客があった。
「リリアーナさん、治安改善の件で話を聞きました」
村長のガレオが視察に来た。
「ガレオさん、いらっしゃいませ」
「グリムから報告を受けました。素晴らしい成果ですね」
「偶然の産物ですが...」
「いえいえ、偶然ではありません」
ガレオが否定する。
「君たちが真剣に村のことを考えて営業してくださったからです」
『嬉しい評価』
「君たちのおかげで村が安全になった」
ガレオが感謝を込めて言う。
◇◇◇
「実は、他の村からも注目されているんです」
ガレオが続ける。
「他の村?」
「はい。隣村の村長から『どうやって治安を改善したのか』と問い合わせがありました」
「そうなんですか」
「『夜営業の店を誘致すれば治安が良くなる』という話が広まっているようです」
『影響が他地域にも』
「商売だけでなく、社会貢献まで果たしているとは」
ガレオが感心している。
「こちらこそ、支えてくださる村の皆様のおかげです」
私が謙遜する。
◇◇◇
その夜、衛兵たちが大挙して来店した。
「今夜は何かあったんですか?」
私が心配になる。
「いえ、お礼を言いに来たんです」
ハンスが代表して答える。
「お礼?」
「はい。最近、夜勤が本当に楽になりました」
「事件が減って、パトロールも効率的になって」
ベルトが続ける。
「おまけに、温かい食事と休憩場所もある」
「衛兵隊として、本当に助かっています」
『衛兵の皆さんからの感謝』
「巡回の休憩地点としても最適なんです」
グリムが説明する。
◇◇◇
「具体的には、どのように?」
私が詳しく聞く。
「以前のパトロールは、村を一周するだけでした」
グリムが地図を描いて説明する。
「でも今は、店を中継地点として、より細かく巡回できる」
「北回りで店に戻り、南回りで店に戻る」
「1回のパトロールで2倍のエリアをカバーできるようになりました」
『店が警備システムのハブに』
「それに、店で情報交換もできます」
「あの地域で不審者を見た、といった情報を共有できる」
「情報の拠点としても機能しているのですね」
◇◇◇
翌日、住民の方々からも感謝の声をいただいた。
「夜道が怖くなくなりました」
主婦の一人が嬉しそうに言う。
「以前は暗くなったら外出を控えていたのですが」
「今は安心して夜の散歩もできます」
「それは良かったです」
私が微笑む。
「特に女性にとって、夜の安全は重要ですからね」
『女性の夜間行動の自由度向上』
「お店の明かりが見えると、本当に安心するんです」
別の住民も続ける。
「『ああ、あそこまで行けば安全』という気持ちになります」
◇◇◇
一週間後、グリムが更に詳しいデータを持参してくれた。
「より細かい分析をしてみました」
「どのような結果でしょう?」
「時間帯別の犯罪発生率です」
グリムがグラフを見せる。
「午後8時から午前6時までの犯罪発生件数」
「開店前は深夜2時頃がピークでした」
「開店後は、全時間帯で件数が減少」
「特に店の営業時間中は、ほぼゼロです」
『営業時間と治安の相関関係』
「店の効果がはっきりと数字に現れていますね」
私が満足そうに言う。
◇◇◇
「それと、興味深い現象があります」
グリムが続ける。
「何でしょう?」
「店の周辺だけでなく、村全体の治安が改善されているんです」
「村全体?」
「はい。店から離れた場所でも、犯罪件数が減少している」
『波及効果』
「これは『割れ窓理論』の逆パターンですね」
私が分析する。
「割れ窓理論?」
「一箇所がきれいになると、他の場所もきれいになる現象です」
「店周辺の治安改善が、村全体に良い影響を与えている」
◇◇◇
その夜、一人でデータを見直していた私。
『商売だけじゃない、社会への貢献も実感できる』
誇らしい気持ちが胸に込み上げる。
前世のコンビニでも、地域の安全に貢献していたことはあった。
でも、ここまで明確に数字で効果が見えることはなかった。
『夜が明るいと治安が良くなる』
それは単純な原理だが、その効果は絶大だった。
◇◇◇
翌朝、オルフが興味深い提案をしてくれた。
「リリアーナ、外灯を増やしてみないか?」
「外灯を?」
「ああ。店の前だけでなく、街道沿いにも魔灯を設置する」
「それは良いアイデアですね」
「材料費は俺が出そう」
オルフが申し出る。
「村の安全のためだ」
『住民からの自発的な協力』
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
「よし、さっそく取りかかろう」
◇◇◇
一週間後、街道沿いに5基の外灯が設置された。
「すごく明るくなりましたね」
ミアが感心している。
「本当ね。まるで昼間みたい」
私も満足している。
夜になると、街道が明々と照らされる。
「これで更に安全になるでしょう」
『明るさによる安全の拡大』
その夜、早速効果が現れた。
「あの明かりのおかげで、道に迷わずに済んだよ」
旅商人が感謝している。
「暗闇で道を見失うところだった」
◇◇◇
一ヶ月後、グリムが最終報告を持参してくれた。
「外灯設置後の効果です」
「どうでしょうか?」
「驚異的です。犯罪発生率がさらに半減しました」
「半減?」
「はい。開店前と比べると、6分の1まで減少しています」
『劇的な改善』
「これはもう、統計的に有意な差ですね」
私が感動する。
「リリアーナさんの功績です」
「いえ、村の皆さんの協力があってこそです」
◇◇◇
その日の夕方、村議会からの表彰状を受け取った。
「治安改善への貢献に対し、村として正式に表彰いたします」
ガレオが読み上げる。
「光栄です」
私が深々とお辞儀をする。
「数字で証明された社会貢献は、村にとって宝です」
「これからも、この功績を誇りに思ってください」
『データで証明された社会貢献』
表彰状には、具体的な数字も記載されていた。
「犯罪発生率83%減少」「住民満足度95%向上」「夜間外出率200%増加」
◇◇◇
その夜、スタッフと成果を振り返った。
「治安改善、本当に凄い成果ですね」
ミアが嬉しそうに言う。
「俺たちが村を安全にしてるって、すげー達成感っす」
ロウも興奮している。
「みんなのおかげよ」
私が感謝を込めて答える。
「でも、これで満足してはダメ」
「まだまだできることがある」
『継続的な改善』
「次は何をするんですか?」
「もっと根本的な治安対策を考えましょう」
私の頭の中で、また新しいアイデアが湧き始めていた。
◇◇◇
一人になった私は、窓の外を見つめていた。
明々と照らされた街道を、住民が安心して歩いている。
子供たちが夜遅くまで外で遊んでいる。
女性が一人で夜道を歩いている。
『この光景こそが、私の目指していたもの』
数字で証明できる社会貢献。
それは商売の成功以上に価値があるものだった。
『夜が明るいと治安が良くなる』
それは単純な真理だが、その真理を実現できた誇らしさ。
◇◇◇
翌朝、隣村の村長から視察の申し出があった。
「治安改善の手法を学ばせてもらいたい」
「もちろんです。ノウハウは惜しみなく共有します」
私が快諾する。
「良い取り組みは、どんどん広まるべきですからね」
『知識の共有による社会全体の向上』
「ありがとうございます」
「安全な村が増えることは、みんなの幸せにつながります」
私が信念を語る。
◇◇◇
その日の夜営業で、常連の冒険者ディランが興味深いことを言った。
「この村、他の場所と全然違うよな」
「どのように?」
「夜でも安心して歩ける」
「女性の冒険者も、一人で宿まで帰れる」
「他の村じゃ考えられないことだ」
『外部からの客観的評価』
「それって、すごく価値のあることだと思う」
ディランが続ける。
「安全って、お金で買えない価値だからな」
私の胸が熱くなった。
『本当の価値を理解してもらえた』
◇◇◇
夜更け、最後の客を見送った後、私は深い満足感に包まれていた。
商売の成功だけでなく、社会への貢献まで果たせた。
しかも、それが数字で明確に証明できた。
『これ以上ない達成感』
窓の外では、明るい街道を村人が安心して歩いている。
その光景を見ながら、私は次なる目標を心に誓った。
『この安全を、もっと多くの場所に広めよう』
治安改善のノウハウを他の村にも展開し、世界をより安全な場所にしたい。
それが私の新しい使命だった。
『夜の明かりが、世界を照らす』
そんな未来を夢見ながら、私は今夜も店の灯りを点し続けるのだった。