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第11話 初クレーム、価値で黙らせる

夜営業を始めて3日目、午後10時。


 私は厨房で、おにぎりの壁に囲まれていた。


 右を見ても米。


 左を見ても米。


 夢にまで米粒が1粒ずつ整列して出てきそうである。


「おにぎり40個。スープ20杯分。初日のちょうど2倍ですね!」


 ミアが嬉しそうに数える。


「2倍……なんて景気のいい響き。売上も2倍、借金返済も2倍速、私の睡眠時間は半分――って、最後だけおかしいわ!」


「まだ誰も睡眠を半分にするとは言っておりません」


 アンナが包み紙を折りながら、冷静に切り捨てた。


「むしろ、そうならないために前半と後半へ分けて作るのでしょう?」


「そうよ。40個全部を最初から並べない。米は2回に分けて炊き、売れ方が鈍ければ後半分は作らない。廃棄まで2倍にしたら、笑い話にもならないもの」


「初日は足りなくて悔しがり、今日は余るかもしれないと悔しがるんですね」


「商売とは、未来の悔しさを予想して先回りする戦いなのよ」


「格好よく言っても、ずっと悔しがっています」


「ミア、そこは聞き流して!」


 ミアがクスクス笑いながら、前半分の棚へ札をつける。


 午前2時ごろに来る人の分まで残す。


 初日の欠品を見て増やした量だが、「完売したから全部倍」で賭けに出たわけではない。


 増やすのは商品だけでなく、作る手順と休める時間も一緒だ。


「それと、今夜はもう1つ確認しておきたいことがあるわ」


「売り切れ以外にも、何かありそうですか?」


 ミアの笑顔が、わずかに曇る。


「値段や商品について不満を言われたら、まず私かアンナを呼んで。自分だけで何とかしようとしないこと」


「不満……ですか? 昨日まで、皆さん喜んでくださったのに」


「同じ商品でも、同じ価値になるとは限らないのよ」


 おにぎり1個15銅貨。スープ1杯20銅貨。飴は1個2銅貨。


 村で売られる安い握り飯なら、5銅貨ほどだ。


 具材、夜間の人件費、魔石、安全設備、少量ずつ作る手間を含むとはいえ、3倍という差は決して軽くない。


「怒られたら、すぐ謝ればいいのでしょうか」


「こちらに落ち度があれば謝る。でも、怒鳴られたから何でも言うとおりにする、では駄目。何と比べて、何に困っているのかを聞くの」


「もし、ずっと怒鳴り続けたら?」


「話を打ち切るわ。脅す、差別する、物を投げる、武器へ手を掛ける。そこまで行ったら接客ではなく危険だから、距離を取って衛兵を呼ぶ」


「お客様でも、ですか?」


「お客様だからこそ、店員を傷つけていいなんて絶対にしない。あなたを雇ったのは、怒鳴られる的にするためじゃないもの」


 ミアは少し驚いたあと、胸元で両手を握った。


「分かりました。怖かったら、怖いと言ってもいいんですね」


「もちろん。私だって怖いわよ」


「リリアーナ様も?」


「元王女の肩書きに、怒鳴り声を跳ね返す魔法障壁はついていないの!」


 午前0時の鐘が鳴る。


 不安を隠して完璧な店主を演じるより、怖くても手順を守れる3人でいよう。


 そう決めて、3日目の扉を開いた。


◇◇◇


「今夜は売り切れる前に来たぞ!」


 ハンスが、開店と同時に意気揚々と入ってきた。


「初日、1時過ぎに来た同僚がスープを買えなくてな。戻ってから恨めしそうに俺の杯を見てたんだ」


「分けてあげなかったんですか?」


 ミアが尋ねる。


「一口は分けた」


「残りは?」


「俺も寒かった」


「正直ですね!」


 後ろのベルトが、飴の棚へ一直線に向かう。


「今夜も3つですか?」


「いや、今日は4つだ。別の同僚にも頼まれた」


「ご自分の分が増えただけでは?」


「ミア。人には聞かない方が平和なこともある」


 いつもの掛け合いに、店内がフワッと和らいだ。


 その後ろから、見覚えのない中年男性が入ってくる。


 厚い外套には乾いた泥。肩には、鉄の工具が入った袋。靴の縁まで土が固まり、日中ずっと街道の補修に出ていたように見えた。


「いらっしゃいませ」


 ミアが声をかける。


 男性は返事をせず、値札を1枚ずつ覗き込んだ。


「おにぎり1個、15銅貨……」


 隣へ移る。


「スープ1杯、20銅貨。飴が1個で2銅貨……?」


 低かった声が、最後だけグッと上がった。


 嫌な予感が、背中をゾワッと駆ける。


 お願い、今のうちに落ち着いて。


 せめて鍋をひっくり返すのだけは勘弁して。20杯分のスープが床へ消えたら、私の心も一緒に流れ落ちる。


「なんで、こんなに高いんだ!」


 ドン!


 男性の掌が棚の縁を叩いた。


 店内の会話が、シン……と止まる。


「普通の握り飯なら5銅貨もあれば買えるぞ! 夜だからって3倍取るのか。元王女様は、銅貨10枚の重さも分からんのか!」


 ミアの肩がビクッと跳ねた。


 私は会計台をアンナへ任せ、男性から腕1本分の距離を空けて立つ。


 喉がカラカラだった。


 今すぐ「材料も人件費もあるのよ!」と言い返したい。胸の中では反論の軍勢が槍を構えている。


 けれど先に殴り合うのは、言葉でも駄目だ。


「高いと感じられたのですね」


「感じたんじゃない。高いんだ!」


「では、何と比べて、どこが一番高いと感じたか教えていただけますか」


「今、言っただろう! 5銅貨の握り飯なら2つ、いや3つ買える。この店の1個へ同じ金を払う理由なんてない!」


「量を一番に考えるなら、おっしゃる選び方が正しいと思います」


「……は?」


 男性だけでなく、周囲の客まで目を丸くした。


「じゃあ、ぼったくりだと認めるんだな?」


「いいえ。この15銅貨にも理由があります。でも、その理由がすべてのお客様に必要だとは限らない、と申し上げています」


 声はどうにか震えなかった。


 膝はちょっと笑っている。そこ、今は笑う場面じゃないわよ!


◇◇◇


 私は値札を外し、男性にも見えるよう会計台へ置いた。


「このおにぎりには、村で仕入れた米と具材の代金だけでなく、夜に働く人の賃金、冷却箱の魔石、安全設備の維持費も含まれています」


「そんなのは、店の都合だろう」


「はい。店の都合でもあります」


 言い訳で押し切らないため、そこで一度息を置く。


「ですが、古くなった物を翌日も売り、働く人の賃金を削れば、もっと安くできます。私は、それをしません」


「元王女の道楽へ、俺たちが金を払えってことか?」


 ズキリと胸へ刺さった。


 道楽。


 王宮でも、私の提案は何度もそう呼ばれた。


 前世の記憶など誰にも証明できない。この店が失敗すれば、「追放された王女が珍しいことをして遊んだ」で終わるのかもしれない。


 怖い。


 悔しい。


 それでも、目の前の男性まで王宮の誰かと重ねて怒るのは違う。


「道楽かどうかは、続けた結果で判断してください。ただし、ミアや仕入れ先へ負担を押しつけて安く見せる商売はしません」


 ミアが息を呑んだ。


「夜に買えること。具を選べること。販売時刻を記し、期限を過ぎた物は出さないこと。その全部を含めた価格です」


「言葉なら、いくらでも立派に言える」


「そのとおりです。ですから、味と温かさも判断したいのであれば、少量の試食をお出しします」


「無料か?」


「無料です。食べても、買う必要はありません」


「後から代金を足すんじゃないだろうな」


「足しません。アンナ、試食と帳簿へ記録を」


「承知しました」


 おにぎりを小さく切り、スープも試食用の杯へ少量だけ注ぐ。


 男性は疑うように匂いを確かめてから、口へ運んだ。


 すぐに「うまい!」とは叫ばない。


 ゆっくり噛み、断面を見て、もう一口分を確かめる。


「……いつもの握り飯より柔らかいな」


「塩加減はどうですか?」


「最初は薄いと思った。だが、鮭と食えばこのくらいでいい。米の甘さも残る」


「量は?」


「5銅貨のを3つ買う方が腹は膨れる。それは変わらん」


「はい。そこは誤魔化しません」


 次にスープを飲む。


 男性の指が、温かな杯を包んだまま止まった。


「……温かい物は、ありがたい。今日は朝から、雨の中で道を直してた」


 外套についた泥が、何の仕事をしてきた人なのかをようやく言葉にした。


「でもな、銅貨10枚あれば、家の灯りを1晩増やせる。安い黒パンなら、子供2人の朝飯になる。俺1人が夜にうまい物を食うために使ったとは、女房へ言いにくい額なんだ」


 店内の誰も口を挟まなかった。


 銅貨10枚。


 帳簿の上では小さな差でも、この人の家では灯りか、子供の朝食になる。


 王宮にいた頃の私は、銅貨10枚で何が買えるか考えたことすらなかった。


 冬の燃料が高騰したとき、「不要な灯りを消すように」と民へ告げる文書へ署名したことがある。


 自分の部屋では、一晩中魔道灯がついていたのに。


 うわぁぁぁ……過去の私、今すぐその羽根ペンを置け!


 恥ずかしさで床へめり込みたい。


 けれど私が沈んでも、値段も暮らしも良くならない。


「その10銅貨の重さを、私は知りませんでした。教えてくださって、ありがとうございます」


 男性の眉が、わずかに動く。


「だから5銅貨にするのか?」


「いいえ。今の大きさ、具、保存管理のまま5銅貨にすれば、材料を作るロバートさんか、夜に働くミアの賃金を削ることになります。それはできません」


「結局、下げないんじゃないか」


「この商品は下げません。でも、量と具を変え、手間を減らした別の商品なら計算できます」


「別の商品?」


「具のない小さな塩むすびです。安全や賃金を削らず、毎日選びやすい値段へ近づけられるか試します」


 男性は棚と値札、それから私の顔を見比べた。


「15銅貨の方は、毎日買える値段ではない。それでいいのか?」


「よくはありません。だから選べる物を増やします。ただ、今夜ある物を無理に安く見せる嘘はつきません」


 長い沈黙のあと、男性は鮭のおにぎりを1個取った。


「今日はこれと、スープをくれ。毎日は無理だが……雨の日くらいなら、温かい物が欲しい」


「ありがとうございます」


 硬貨を受け取る手が、ほんの少し震えた。


 勝った、とは思わなかった。


 でも互いに黙らず、最後まで話せた。


 それが今夜の、最初の答えだった。


◇◇◇


 会計を終えた男性は、店内を見回した。


「大声を出したのは悪かった。怖がらせるつもりはなかった」


 視線がミアの手元で止まる。


「すまなかったな。だが、高いと思ったのは本当だ」


「はい。びっくりしました。でも、理由を話してくださってありがとうございます」


 ミアの声には、まだ硬さが残っていた。


 それでいい。


 怖かった直後に、満面の笑顔へ戻る必要なんてない。


「値段の理由を、値札だけで伝えられていなかったのは私たちの不足です。こちらも直します」


 男性が去ると、止まっていた会話が少しずつ戻った。


「俺は夜中に買えるだけで助かっていたけど、15銅貨が高い人もいるよな」


 ハンスが値札を見る。


「衛兵の給金でも毎晩2個は厳しい。だから俺は1個とスープにしてる」


「旅の途中だけ買う俺たちは、保存の手間や時間へ払っている感じだな」


 冒険者が続けた。


 同じ商品でも、価値の感じ方は違う。


 高くても買う人が上等で、安さを求める人が下等なのではない。


 買わない自由まで含めて、自分に合う物を選べる店にしたい。


「リリアーナ様」


 ミアが私の袖を引く。


「私、あの人へ帰ってほしいって思いました。話を聞く前から。そんな自分は、店員失格でしょうか」


「失格じゃないわ。怖い声から離れたいのは自然よ。私だって、背中を向けて厨房へ逃げたかったもの」


「でも、逃げませんでした」


「足が固まって動かなかった可能性もあるわね」


「そんなに膝が震えていたのですか?」


「卓の陰で小刻みにね! 元王女の威厳、下半身までは届かなかった!」


 ミアがプッと吹き出した。


 ようやく肩から力が抜ける。


「次に同じことを言われたら、私も説明できますか?」


「全部を1人で答えなくていい。まず、どの商品を何と比べて高いと感じたか聞く。それから私かアンナを呼ぶ。怒鳴り続けたら、対応を止める」


「話を聞くことと、傷つけられ続けることは違うんですね」


「そうよ。そこだけは、絶対に混ぜないで」


◇◇◇


 営業終了後、3人で価格表を作り直した。


 おにぎり15銅貨の下へ、内容量、具、製造時刻、販売期限を記す。


 スープには主な材料と量。夜間の賃金と魔石費を、どの商品へいくら分けたかも帳簿へ残す。


「小さな塩むすびなら、8銅貨で試せそうです」


 アンナが計算盤を弾く。


「具なしで、通常の3分の2の大きさ。包みは簡素にします。ただし米の質と賃金は下げません」


「15銅貨のおにぎりを値下げするのではなく、別の選択肢を作るんですね」


「そうよ。量が欲しい人、具を選びたい人、温かさが欲しい人。全員が同じ買い方をする必要はないもの」


 実際に3分の2の量を量り、握ってみる。


「……小さいですね」


 ミアが掌の丸い塊を見つめる。


「小さいわね」


「とても小さいです」


「2回言わなくても分かるわ!」


 大きな掌の人なら、一口で消えそうだ。


 丸型では頼りなく見えるため、細長い俵型へ変える。包み紙も半分に切るのではなく、食べる部分だけ開けられる折り方にした。


「胡麻を混ぜたら、香りが出ます!」


 ミアが提案する。


「胡麻を入れると9銅貨です」


 アンナの計算が容赦なく飛んだ。


「たった一摘みなのに……」


「一摘みも40個集まれば、立派な原価です」


「原価、細かすぎる! でも無視すると借金が笑顔で追いかけてくる!」


 基本は塩だけ。胡麻は追加1銅貨。


 1枚の紙、一摘みの塩、1回の手の動きを見直し、それでも安全と賃金は残す。


 3人で1時間かけ、ようやく8銅貨で続けられる形が決まった。


 反省記録には男性の大声だけでなく、こちらの表示不足も書いた。


 苦情は、すべてが店への期待とは限らない。


 八つ当たりも、無理な要求もあるだろう。誠意を尽くせば必ず理解される、なんて都合のいい魔法もない。


 それでも、聞ける言葉を聞き、直せるところを直すことはできる。


◇◇◇


 翌夜、昨日の男性が3人の友人を連れてきた。


「こんばんは。昨日はどうも」


「いらっしゃいませ」


「ここの飯は高い。だが、夜の温かさまで含めた値段だと話したら、こいつらが試したいと言ってな」


「本当に温かい物が出るのか?」


「俺は腹へ入れば何でもいい。安い方はあるか?」


「鮭の具は気になるな」


 3人が、いきなり別々のことを言う。


「皆さん、順番にお願いします! お店も店員の耳も、3倍速では動きません!」


 ミアが両手を広げると、男性たちがドッと笑った。


 私は15銅貨の具入りおにぎりと、今日から試す8銅貨の小さな塩むすびを並べ、量と中身の違いを説明した。


 1人は鮭入り。


 1人は塩むすびを2つ。


 もう1人はスープだけを選ぶ。


 全員が同じ物を買わなかったことが、昨日より嬉しかった。


「小さい方があるなら、仕事帰りに寄りやすい」


 昨日の男性も塩むすびへ手を伸ばした。


「教えていただいたおかげです」


「俺が値下げさせたみたいに言うなよ。量も具も違うんだから」


「ええ。無理な値下げではなく、選択肢が1つ増えました」


 男性は照れたように鼻をこすり、友人たちと会計を済ませた。


 その次の夜には、妻も一緒に来た。


「この人が、『値段の理由を隠さない店だ』って何度も話すものですから。日用品も見てみたくなって」


「何度もは言ってないぞ」


「夕食の間に3回は言いました」


「十分、何度もですね」


 私が口を挟むと、男性が気まずそうに咳払いした。


 夫婦は雑貨屋と同じ値段であることを確認し、石鹸とタオルを1つずつ選んだ。


「昼に買い忘れても、夜に思い出したとき買えるのは助かります。仕事から遅く帰った日にも寄れますし」


 昼の通常営業を始めなくても、夜だから届く客はいる。


 怒鳴り声で始まった会話が、4人の友人と、夫婦の買い物へつながった。


 胸の奥が、ジワリと温かくなった。


◇◇◇


 数日後、ガレオ村長が月次報告の様式を確認しに来た。


「価格が高いという声があったそうですね」


「はい。大声になりましたが、怪我や物損はありません。対応と改善を記録しました」


 15銅貨の原価、8銅貨の商品を追加した理由、それぞれの販売数、既存の握り飯との違いを見せる。


「値下げして黙らせたわけでも、客を言い負かしたわけでもないのですね」


「どちらも、一晩なら静かになるでしょう。でも長く続く信頼にはなりません」


「では、よい話だけでなく、こうした声も月の報告へ含めてください。村の人が何に困り、店がどう変えたか。それが試験営業を続ける判断材料になります」


「承知しました」


 夜の仕込みで、ミアが新しい値札を棚へ置いた。


「また苦情は来るでしょうか」


「きっと来るわ。価格だけじゃない。味、待ち時間、接客、安全。店を続けるほど、違う声が増える」


「まだ、少し怖いです」


「私もよ」


「今日も膝が笑いますか?」


「そこまで覚えなくていいの!」


 笑ったあと、私は店内を見回した。


 15銅貨の具入りおにぎりと、8銅貨の小さな塩むすび。


 2枚の値札は、どちらが正しいかを決めるものではない。


 店の事情を伝え、客の事情を聞き、その間に選べる道を増やした結果だ。


「では、5分だけ落ち込みます」


 私は椅子へ座り、卓へベタッと突っ伏した。


「今からですか?」


「元王女だって怒鳴られたらへこむのよ! 店主の顔をしている間、ずっと我慢してたの!」


 アンナが砂時計を置き、ミアが黙って温かい茶を差し出す。


「5分たったら起こしてください。優しく。ものすごく優しく」


「承知しました」


 砂が半分落ちたところで、私はガバッと顔を上げた。


「塩むすびの包み、もう少し開けやすくできるかも!」


「まだ2分ほど残っています」


「改善案を思いついたら、落ち込んでいる方が難しいのよ!」


「では、残りは次回へ繰り越しますか?」


「落ち込み時間に繰り越し制度を作らないで!」


 ミアが声を立てて笑い、砂時計をクルリと返した。


 怒鳴られた悔しさは、消えない。


 でも、その声をただ飲み込まず、明日選べる商品へ変えられた。


 私は温かい茶を一気に飲み――熱さに舌を押さえた。


「あっつぅぅぅ!」


「落ち着いてお飲みください」


「最後くらい格好よく締めさせて!」


「こちらはまだ営業準備中です」


 アンナの正論が、今夜も容赦なく刺さった。

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