表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/102

第48話 深夜の作業通話

 帰宅後、諸々済ませて机に向かったのは二十一時。


 勉強道具を広げ、スマホにイヤホンマイクを接続して準備万端。

 夏鈴にメッセージを送ろうとアプリを開くと、十分ほど前に夏鈴から『いつでも大丈夫だから準備ができたら掛けて♪』とメッセージが送られてきていた。

 さっそく掛けるとゼロコールで夏鈴が出た。


「お待たせ。遅くなってごめんな」

『ううん。あたしもさっきお風呂上がったとこ』

「じゃあ、さっそく始めるか」

『………』


 なぜか黙り込む夏鈴。


「夏鈴?」

『あ、ごめん……ちょっと聞き入っちゃった』

「聞き入っちゃった?」

『水着を買いに行こうって通話した時も思ったけど、あたし、りっくんのスマホ越しの声が好きみたい。聞いてると落ち着く……これなら勉強に集中できそう』

「それならよかったよ」


 改めて言われるとやっぱり照れる。

 だけど夏鈴の勉強が捗るなら嬉しい。


 こうして俺たちは通話をしながら勉強を始める。

 正直勉強になるのか半信半疑だったけど、いざ始めてみると悪くない。

 イヤホンから聞こえてくる夏鈴の息遣いや悩ましそうな独り言。他にもアーモンドチョコを食べるポリポリした音が聞こえてくると一人じゃないと実感する。

 確かに、作業通話が流行る理由もわからなくない。

 思いのほか集中していたんだろう。

 気づけば二時間が過ぎていた。


「夏鈴、ちょっと休憩しようか」

『え? 噓、もうこんな時間なんだ』


 夏鈴も時間を忘れて集中していたらしい。

 ペンを置いて飲み物を片手にひと息を吐く。


「俺のことは気にせず好きに息抜きしてくれよ」

『うん。でも、せっかく通話してるんだしなにか話そうよ』

「いいのか?」

『りっくんとお話する以上の息抜きなんてないから』


 確かに、俺も夏鈴と話している方が気晴らしになる。


「とはいえ、なにを話したもんかな……」

『なんでもいいよ。りっくんが話したいこととか聞きたいこととか』

「聞きたいことか……」


 だったら一つだけある。

 誕生日の夜以来、聞きそびれていたことが。


「もし答えにくいことだったら言わなくていいし、嫌な気分にさせたら謝る……夏鈴のお母さん、男の人を信用してないみたいだったけど、なにかあったのか?」


 一瞬、時がとまったかのように静寂が訪れた。

 夏鈴は『そりゃ気づくよね』と前置きして続ける。


『ちょっと重い話になるけど……聞いてくれる?』

「ああ。俺でよければ聞かせてほしい」

『……りっくんの言う通り、お母さんは男性に対して強い嫌悪感を抱いてる。いわゆる男性不信ってやつなのかな。理由は……離婚したお父さんだった』


 二人のやりとりから薄々そんな気はしていた。


『お父さんは、一言で言うならクズ男。ろくでなしとか、甲斐性なしとか、そんな風に呼ばれる人だった。仕事は長続きしないし、ギャンブルはするし、機嫌が悪いとお母さんに当たることもあった。両親が離婚したのは小学校三年生の時だったけど、物心ついた頃から不仲でさ……幼心にお父さんのことは最低な人だと思ってたっけ』


 自分のことじゃないのに複雑な感情が湧き上がる。

 気づけば手にしているペットボトルが歪んでいた。


『離婚するのも大変で、離婚してからは女手一つであたしを育ててくれて……お母さんが男性不振になる気持ちも、教育熱心になる気持ちも理解できるの。片親を理由に勉強ができないと思われたくなかったんだろうけど、それだってあたしが恥をかかないようにって親心。だから、お母さんの言いつけを守って勉強を頑張ってきたんだけど……』


 夏鈴もいいお年頃。

 勉強漬けの生活に耐えられなかったんだろう。


『でもね、思うんだ……両親はそんな感じだったけど、お母さんもお父さんのことを大切に思ってた時があったんじゃないかって。じゃなきゃ結婚なんてしないし、あたしが生まれることもなかったはずでしょ?』

「ああ。そうだと思う」


 結果的に酷い別れ方をしたとしても幸せな瞬間はあったはず。


『だから、あたしが結果を出すことでお母さんにも思い出してほしいの。男の人みんながとは言わないけど、信頼できる人もいるって。全部が全部とはいわないけど、大切な人が傍にいるから頑張れることもあるって』

「ああ。二人で一緒に証明しよう」


 そう答えると夏鈴は『うん……』と呟いた。


『聞いてくれてありがと。今まで誰にも言えなかったから、聞いてもらえてすっきりしちゃった。おかげでもっと勉強に集中できそうな気がする』

「これからも、なにかあれば遠慮なく相談してくれ」

『うん。じゃあ、勉強の続きしよっか!』


 こうして俺たちは勉強を再開。

 休憩前と同じようにお互いの作業音を聞きながら勉強を続ける。

 すると日を跨いだころ頃、イヤホンから静かな呼吸が聞こえてきた。


「……夏鈴?」

『ううん……』


 勉強疲れが溜まっていたんだろうな。

 睡魔に耐えられず寝落ちしてしまったらしい。


 俺は夏鈴を起こさないよう静かにしながら勉強を続ける。

 これじゃ作業通話じゃなくて寝落ちもしもしだけど、これはこれで夏鈴の寝息が心地よくて勉強が捗る。これ以上に最高な作業用BGMは存在しないだろう。

 夏鈴の寝息をお供に勉強を続けること二時間弱。


『ん……?』


 深夜の二時を回った頃、ようやく夏鈴が目を覚ました。


『あれ……あたし寝ちゃってた?』

「疲れてたんだろうな。ぐっすり寝てたぞ」

『やだ……あたし変な寝言言ってなかった?』

「それなら大丈夫。可愛い寝息を立ててただけだから」

『か、可愛いって……ううっ、恥ずいよぉ……』


 もじもじしながら言葉を濁す夏鈴が可愛らしい。

 顔を真っ赤にしている姿が頭に浮かんだ。


『じゃあ、りっくんはずっと勉強してたの?』

「ああ。おかげで捗ったよ」


 夏鈴の寝息のおかげだけじゃない。

 自分で言うのもなんだけど、夏鈴と一緒に勉強をしているおかげで学力の向上を実感している。このままいけば、俺も学年三十位以内に入れるかもしれない。


『ねぇ、りっくん……あたしも一つ聞いていい?』

「ああ」

『なんでりっくんは、そんなに頑張れるの?』


 それは、いずれ聞かれるだろうと思っていたこと。


『りっくんも三十位以内を目指す必要はないと思うし、お母さんもそんな条件は出さなかったはず。それなのに……なんで、あたしのためにそこまでしてくれるの』

「それは……」


 頭に浮かんだのは一つの答え。

 でも、それは夏鈴が期待している答えじゃない。

 むしろ真逆……力になりたいと思う一番の理由は罪悪感だった。


 夏鈴との恋に未練はない。

 だけど、夏鈴を傷つけた罪悪感は未だ晴れない。

 むしろ再会して以来、夏鈴が俺と仲良くしてくれるほどに、夏鈴が俺に笑顔を向けてくる度に、口の中に広がる苦みとともに罪悪感は大きくなるばかり。


 もちろん、こんなことで罪滅ぼしになるとは思っていない。

 それでも力になろうと強く思うのは——。


「俺も夏鈴と一緒なんだ」

『あたしと一緒?』

「俺にとって夏鈴が大切な人だから」


 罪悪感はあっても大切に思う気持ちに嘘はない。


「最近よく、夏鈴と二人でパンケーキを食べた時のことを思いだすんだ」

『パンケーキって……水着を買いに行った後のこと?』

「あの時、夏鈴は一人で食べるより誰かと半分こした方が美味しいって言ったよな。海で花火をした時も、みんな一緒の方が楽しいって言ってた。よく大切な人と一緒なら幸せは二倍に、悲しみは半分になるなんて言うけど、同じように頑張る力も二倍になるんじゃないかってさ……だから、俺が頑張れるのは夏鈴が一緒だからだと思う」

『りっくん……』


 こんなこと恥ずかしくて人には言えないけど、大切な人と過ごす時間は無限の可能性を秘めている実感している。


「それにさ、大切な人がいるから頑張れることもあるって証明するなら、夏鈴だけじゃなく、俺も同じ条件をクリアしてみせた方がお母さんを説得できるだろ?」

『そっか……りっくんにとっても、あたしは大切な人なんだ』


 夏鈴がどんな顔をしているかわからない。

 でも、その声音から笑みを浮かべているような気がした。


「テストまであと少し、一緒に頑張ろうな」

『うん。超頑張る!』


 その日を境に、夏鈴は目に見えて勉強に集中して取り組むようになった。

 まるでスイッチが入ったかのように、驚異的な集中力を発揮して勉強に取り組む。その証拠にアーモンドチョコの消費量が二倍をはるかに上回る。

 集中している分、脳が欲する糖分の量も増えているんだろうな。


 もちろん集中力に比例するのはチョコの量だけじゃない。

 苦手だった国語も目に見えて学力が上がっていく。

 これなら三十位以内も見えてくるかもしれない。

 そんな希望を持ち始めたのはテスト五日前。

 いよいよ勉強もラストスパート。

 こうして中間テストに突入した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ