第47話 彼女のためにできること
「そんなわけで、悠香と莉乃さんにも協力してほしいんだ」
翌日の午前中、俺は二人を呼び出して事の経緯を説明していた。
夏鈴の抱えていた問題や母親のこと。色々あって中間テストで三十位以内に入らないといけないこと。それまでは再建よりも夏鈴の勉強を優先したいこと。
そのための協力をお願いすると二つ返事で承諾してくれたんだけど。
「私たちが夏鈴に勉強を教えられるかな……?」
悠香が心配するのも無理はない。
この中で一番勉強ができるのは夏鈴だから。
「それなら心配しなくても大丈夫だと思う。夏鈴の苦手教科の国語は俺が得意だから教えてやれるし、誰かが一緒にいるだけでサボり防止になる。土日は猫まみれで勉強するつもりなんだけど、みんなが一緒にいてくれるだけで心強いと思うんだ」
「りっくんの言う通り、一人だとサボっちゃうから……」
夏鈴は申し訳なさそうに肩をすくめる。
もっと言えばサボり防止になるだけじゃない。
前に夏鈴と図書館でテスト勉強をした時、ほとんど俺が教えてもらっていたんだけど、夏鈴は人に教えることで自分の理解が深まると言っていた。
みんなで夏鈴に教えてもらうのもいいと思う。
「そのくらいなら力になれると思う。むしろ私も一緒に勉強したい」
「わたしもできる限り協力させていただきます。ただ……」
莉乃さんは協力的な姿勢から一転して心配そうな表情を浮かべる。
「三十位以内に入るのは現実的なのでしょうか?」
「それは……」
思わず言葉を濁す夏鈴。
夏鈴の学力を知らない莉乃さんが疑問に思うのは当然のこと。
隠しても仕方がないと思い、前回のテスト結果を伝えつつ続ける。
「正直かなり難しいのは事実です。でも、不可能ってわけでもないと思ってます。夏鈴の場合、苦手な国語の点数を上げるだけで相当順位が上がるはずですから」
「ちなみに夏鈴さん、前回のテスト、国語は何点だったんでしょう?」
「花女は四十点未満が赤点なんですけど……その、三十八点です」
「「「…………」」」
想像を下回る結果に三人揃って思わず絶句。
「な、なるほど……確かに伸ばす余地はありますね!」
落ち込む夏鈴を優しく励ます莉乃さん。
「莉乃さんの言う通りです。今から勉強を始めれば時間的な余裕もある。テスト前だけ勉強してた一学期とは違い、他の教科も充分な底上げが可能だと思う」
むしろ上げる余地しかないってことでポジティブに行こう。
「わかりました。少しでも勉強に集中できるようサポートします」
「私も、できることがあればなんでも言ってね」
「二人共……ありがとう」
夏鈴は深々と頭を下げる。
やっぱり持つべきものは友達だよな。
「そうと決まれば、さっそく今日から勉強を始めよう!」
「「「うん!」」」
こうして俺たちの無謀ともいえるチャレンジが始まった。
*
それからの日々は、言葉の通り勉強漬けの日々だった。
平日は放課後に中央図書館に足を運び、週末は猫まみれに集まって勉強三昧。
みんなで夏鈴がサボらないように見張ったり、悠香が大量のアーモンドチョコを差し入れしてくれたり、莉乃さんが美味しいお昼ご飯を作ってくれたり。
そんな俺たちの様子を見て察したのか、あげぱんも自分を吸えと言わんばかりに夏鈴の前でお腹を差し出し、お言葉に甘えて猫吸いをしてリフレッシュ。
時にはみんな一緒に勉強すること一ヶ月、中間テストの二週間前。
いつものように朝から猫まみれで勉強をしていた土曜日。
「今日はこのくらいにしておこう」
「……もうこんな時間なんだ」
気づけば時計の針は十九時を過ぎていた。
ちなみに悠香と莉乃さんは少し前に帰宅済み。
「続きは明日にして帰ろう」
だけど夏鈴は帰り支度をしようとしない。
まだ続けたいと言わんばかりにペンを握ったまま。
「ねぇ、りっくん」
「ん? どうかしたか?」
「今日の夜、通話しながら勉強しない?」
「通話しながら?」
「家で勉強してると一人だから、ついつい休憩を多めにとっちゃって。もう時間もあんまりないし、りっくんと通話しながらなら集中して勉強できると思うんだ」
つまり、俗にいう作業通話みたいなものだろう。
一人だと怠けがちだけど、お互いの作業環境音を聞きくことで孤独感を解消し、休憩時間には雑談をしてリフレッシュ&モチベーションの維持を図ることができる。
俺はしたことがないけど意外と効率が良いらしい。
「りっくんが眠くなるまででいいから……ダメかな?」
……正直、とめようと思った。
最近の夏鈴は明らかに勉強のしすぎだから。
土日は猫まみれで朝から晩まで勉強をしているし、夜くらいは早く寝て明日に備えた方が効率は良くなると思うけど、そんな正論を言う気にはなれなかった。
なぜなら、これは夏鈴の熱意以上に焦りの表れに他ならない。
やる気とは裏腹に学力が伸び悩んでいる自覚があるんだろうな。
今ままじゃ三十位以内は難しいと思い少しでも勉強したいんだと思う。
「わかった。夕食とお風呂を済ませた後でいいか?」
「うん。ありがとう!」
無理をさせたくないと思いながらもとめられなかった。




