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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第49話 テストの結果

 中間テストを終えて結果が戻ってきた十月中旬。


 週末の土曜日、俺はスマホを片手に夏鈴の家に向かっていた。

 理由は言うまでもなく、夏鈴の母親にテストの結果を伝えるため。


「この辺りだと思うけど……」


 花崎問屋町駅から歩いて十分の場所にある閑静な住宅街。

 地図アプリを頼りに辺りを探していると、夏鈴から聞いた特徴と一致する五階建てのマンションを発見。階段で三階へ上り、聞いていた部屋番号の前で立ちどまる。


「ここか……」


 母親と会うのは夏鈴の誕生日以来、約二ヶ月ぶり

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせてからインターホンを押す。

 するとドアが開き、夏鈴が出迎えてくれた。


「いらっしゃい」

「お母さんは?」

「中で待ってる。どうぞ」

「お邪魔します」


 母親にも届くように大きめの声で挨拶をして部屋に上がる。

 リビングに通されると、ソファーに座っている母親の姿があった。


「こんにちは」

「どうぞ。座ってちょうだい」


 母親に促され、俺は夏鈴と並んで向かいのソファーに腰を掛けた。


「お母さん。これ」


 夏鈴は中間テストの結果表を取り出して母親に差し出す。

 母親は結果表に視線を落とした瞬間、驚いた表情を浮かべた。


「……二十八位?」


 そう——夏鈴の全教科合計の順位は二十八位。

 結果は一学期の期末テストから百位上げる快挙だった。


「まさか本当に三十位以内に入るなんて……頑張ったのね」


 母親は素直に努力を認めてねぎらいの言葉を掛ける。

 だけど、なぜかその表情には悲しみの色が滲んでいた。


「これだけの結果を出したなら認めなくちゃダメね……それだけ夏鈴にとって天崎君が大切だってことを。つまり、私よりも彼の方が夏鈴の力になれるってことを——」

「それは違う!」


 夏鈴は母親の言葉に被せて否定する。


「確かに、あたしが三十位以内に入れたのはりっくんのおかげ。でも、りっくんだけじゃない。大切な友達がいたからと、なによりお母さんが応援してくれたから」


 夏鈴の声がわずかに震え出す


「嘘を吐いて怒らせたのに、変わらずご飯を作ってくれて、遅くまで勉強してる時は夜食を作ってくれたり、あたしが寝るまで起きててくれたり……寝落ちしちゃった時は背中に毛布を掛けてくれた……。今回だけじゃない。花女を受けた理由はりっくんだけど、合格できたのはお母さんの協力があったから!」


 実は夏鈴から聞いていた。

 テスト勉強中、母親が支え続けてくれていたことを。

 だけど、それは別に不思議なことでも驚くことでもない。

 教育に熱心すぎるところも、激しく怒ったことも、娘を心から思えばこそ。男を信じるなと頑なに言っていたのも、娘に同じ思いをさせたくないという親心から。

 不器用だけど、それは確かに愛情だった。


「あたしもりっくと同じ。大切な人がいるから頑張れることはあると思う。今回の結果も大切な人がいたおかげ。でも……大切な人には、お母さんも含まれてるの」

「夏鈴……」

「今まで、あたしにとって大切な人はお母さんだけだった。どれだけ厳しくても、たった一人の家族だもん……お母さんの期待に応えたいと思う気持ちに嘘はないんだ。でも、りっくんと再会して、友達もできて、あたしにも大切な人が増えたの」


 夏鈴は俺に視線を向けてくる。

 俺は答えるように頷いて返した。


「これからは友達と過ごす時間も大切にしたい。今までみたいに勉強だけってわけにはいかないかもしれないけど、できるだけお母さんの期待に応えられるように勉強も頑張るから、猫まみれの再建活動を続けさせてほしい」


 母親は夏鈴を真っすぐに見つめる。

 その瞳は穏やかで、以前のような頑なさは感じない。

 だけど、答えを出してもらう前に伝えないといけないことがある。


「お母さん。もう一つ見てもらいたい物があります」


 俺はポケットから自分の結果表を取り出して母親に渡す。

 そこに記されているのは、残念ながら五十七位という結果だった。


「夏鈴は約束を果たしました。でも……俺は三十位以内にはいれませんでした」


 あれだけ大口を叩いておいてこのありさま。

 なにが『大切な人がいるから頑張れる』だ……頑張って約束を果たした夏鈴の足を引っ張る形になってしまい、結果が出てから罪悪感で吐き気が収まらない。

 約束を守れなかった以上、なにを言われても仕方がない。


「すみませんでした」


 ただ頭を下げることしかできずにいると。


「あなた、前回のテスト結果は?」

「……二百八十人中、百九十位くらいです」

「そう。順位だけでいえば夏鈴よりも上げたのね」


 確かに母親の言う通りだけど、花女とうちじゃレベルが違う。


「あの時、私は『夏鈴の成績が上がればそれでいい』って言ったわ。それに『あなたの成績に興味はない』とも。別にあなたの結果をどうこう言うつもりない」

「でも『自分の言葉には責任を持ちなさい』とも言いました」

「……子供のくせに妙に固いことを言うわね」


 母親は呆れ半分、面倒くさそうに言葉を漏らす。

 すると含みのある笑みを浮かべた。


「じゃあ責任を持って、これからも夏鈴の勉強に協力してあげて。夏鈴にとって大切な人でいてあげて。夏鈴と付き合うなら、それくらいの責任は取ってよね」

「「か、彼氏——!?」」


 夏鈴と揃って悲鳴にも似た声を上げる。

 すると、母親は不思議そうに首を傾げた。

 思い出すのは夏休み前、悠香の家を訪ねた時のこと。


「えっと……俺たち、付き合ってるわけじゃないんです」


 悠香の両親と同じく、付き合っていると思われていたらしい……まぁ恋人同士みたいなことを散々してきた自覚はあるから否定する方が難しいんだけど。

 母親は驚いた様子で夏鈴に確認の視線を向ける。


「お友達って感じかな……今のところは」


 すると母親は大きな溜め息を吐いた。


「どっちでもいいわ。責任さえ取ってくれれば」

「はい……それはもう、お約束します」


 ちょっと不機嫌そうなのは気のせいだと思いたい。


「それと……叩いて悪かったわ。本当にごめんなさい」

「済んだことです。気にしないでください」

「……ありがとう」


 なにはともあれ、無事に母親の理解を得られた俺たち。

 こうして今後も変わらず再建活動に参加する許可が下りたのだった。


 *


「みんな、ありがとう」


 夏鈴の母親と話をした翌日の日曜日。

 猫まみれの店内に、夏鈴の感謝の言葉が響いた。


「おかげで三十位以内に入れて、お母さんからも猫まみれの活動を許可してもらえた。みんなの協力がなかったら、絶対に無理だったと思う……本当にありがとう」

「お礼なんていいよ。私も一緒に勉強したおかげで成績上がったから」

「わたしも、みなさんと一緒にお勉強できて楽しかったです」


 二人に続き、あげぱんも『うにゃうにゃ』同意。


「あげぱんも、たくさん吸わせてくれてありがとね」


 夏鈴は二匹にもお礼を伝えながらお腹を撫でる。


「確かに、夏鈴は勉強の合間に猫吸いしまくってたよな」

「自分で言うのもなんだけど、猫の手も借りてリラックスしてたよね」


 すると夏鈴は『猫の手も借りて……?』と自分の言葉を繰り返す。

 その直後、なにかを思い出したような表情を浮かべた。


「そうだ。猫の手を借りようと思ってたんだ!」

「「「………?」」」


 何事かと思い首を傾げる俺たち。


「莉乃さん、相談したいことがあるです」

「相談ですか? わたしでよければ乗りますよ」

「ありがとうございます。じゃあ、後でお願いします」


 やんわりと漂う内緒話感。

 気にならないわけじゃないけどまぁいいか。


「さて、少し久しぶりな気もするけど掃除の続きをするか」

「うん。みんなで猫まみれ再建に向けて頑張ろうね♪」


 ムードメーカーの夏鈴が元気よく場を盛り上げる。

 こうして猫まみれに日常が戻ってくるのは二ヶ月ぶり。

 なんだか妙に懐かしい気がする中、俺たちは掃除を始めた。

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