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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第45話 二人きりの誕生日

「そっか……二人が準備してくれたんだ」


 事情を伝え終えると夏鈴は嬉しそうに呟いた。


「こんなに盛大な準備をしてくれてるとは思わなかったけどな。でも、おかしいな……悠香と莉乃さんも一緒にお祝いしてくれるはずだったんだけど」


 どこにも二人の姿がない。

 電気が消えているのを見た時から変だとは思っていたんだけど……なんて思いながら店内を見回すと、テーブルの上に料理と一緒に手紙が置いてあることに気づく。

 手に取った瞬間、思わず笑みが零れた。


「夏鈴。悠香から」


 差し出した手紙を受け取る夏鈴。

 視線を落とすと同時に声が漏れた。


「悠香……」


 そこには『これで貸し借りなしだからね!』と書かれていた。

 貸し借りがなにを意味しているか、俺も夏鈴もわからないはずがない。

 悠香が再建メンバーを抜け、その後に戻って来た時のこと。もう一度仲間に入れてほしいと言う悠香に、夏鈴がツンデレ全開で掛けた冷たくも優しさに溢れた言葉。

 照れくさそうに『貸し一つだからね!』と言っていたのを思い出す。


 もちろん夏鈴は本気で貸しにしたわけじゃないし、悠香もそれが夏鈴の優しさだとわかっている。それでも貸しを返すとしたのは気を使わせないための配慮だろう。

 つまり、悠香は夏鈴のためにあえて二人きりにしてくれた。

 どっちもツンデレすぎて微笑ましい。


「さあ、座ってくれ」

「うん!」


 俺は夏鈴に席に着かせ、キッチンにある冷蔵庫へ向かう。

 中からケーキを取り出し、ロウソクを載せて火を着けると店内の照明を落とす。暗闇の中、足元に気を付けながら夏鈴のもとへ戻りテーブルの上にケーキを置いた。


「…………」


 暗闇の中、夏鈴はじっとケーキを見つめる。

 火の揺らめきを映す夏鈴の瞳は滲んで見えるのは気のせいだろうか。

 しばらく見つめると、夏鈴はそっとロウソクの火を吹き消した。

 店内の照明をつけ、俺は夏鈴の隣に腰を下ろす。


「お誕生日おめでとう」

「ありがとう!」


 そう答える瞳から涙は消えていた。


「まずはケーキからだな」

「うん!」


 俺はナイフでホールケーキを四等分に切り分ける。

 ちなみに用意したのはチョコとオレンジをあわせたケーキ。

 チョコとココアを使ったスポンジの間に、オレンジムースとフレッシュオレンジを一緒にサンドした、濃厚なチョコと爽やかなオレンジが相性ぴったりなケーキ。


「めっちゃ美味しそう!」


 取り分けたお皿を差し出すと、夏鈴はフォークに手を伸ばす。

 食べた瞬間、頬に手を添えて幸せそうに目を細めた。


「んふふっ……甘くて美味しい♪」


 お気に召したようでひと安心。

 だけど、味とは別に心配なことが一つある。

 本当は四人でお祝いするつもりだったし、超甘党の夏鈴が多めに食べることを見越して大き目のサイズを注文しだんだけど、さすがに二人で食べるには大きすぎる。

 余った分は冷蔵庫に入れておこうと思ったんだけど。


「このくらい余裕でしょ!」


 俺の心配をよそに、夏鈴はぺろりと一切れ食べきる。

 どうやら俺の心配は完全に杞憂だったらしい。

 夏鈴は二切れ目を飲み込むように平らげると、最後の一切れもみるみるうちに夏鈴の胃袋の中へ消えていく。なるほど……夏鈴にとってケーキは飲み物らしい。

 見事な食べっぷりに見惚れていた時だった。


「……どうかしたか?」


 不意に夏鈴が手をとめた。

「なんだろう……美味しいのはもちろんだけど、なんか懐かしい感じがする。前にも食べたことがあるっていうか、記憶は曖昧だけど舌が覚えてるっていうか」


 さすが夏鈴、超甘党なだけじゃなく味覚も優れているらしい。


「実はこれ、アンデスのケーキなんだ」

「アンデスって、あのアンデス?」


 アンデスとは、前に夏鈴とパンケーキを食べながら話した洋菓子店。

 俺たちが子供の頃にあった、地元で唯一のケーキ屋さん。

 猫まみれに通っていた子供たちの誕生日になると、おばあちゃんがアンデスのケーキを買ってきて誕生日のお祝いをしてくれていた思い出の味。


「夏鈴から閉店したって聞いてたけど、ダメ元で作ってもらえないか相談したんだ。そうしたら、俺たちが猫まみれの再建を目指してるのを知ってくれててさ」


 事情を話すと応援の意味も込めて作ってくれた。


「そっか……みんな応援してくれてるんだね」


 改めて、夏鈴は味わうようにケーキを口に運ぶ。


「あの時も、りっくんがアンデスのケーキを買ってきてくれたんだよね」


 あの時——それは六年前の夏鈴の誕生日。

 さっきも話した通り、猫まみれでは誕生日をお祝いする習慣があった。

 だけど当時、夏鈴は教育熱心な母親の言いつけで勉強ばかりしていて友達が少なかったから、おじいちゃんとおばあちゃんにお祝いはしなくていいと断った。


 たぶん……本当はお祝いしてほしかったんだと思う。


 その時の寂しそうな表情は六年が経った今も忘れられない。

 そんな夏鈴を放っておけず、俺はおじいちゃんとおばあちゃんに二人きりでお祝いしたいと相談したら、誕生日の午後、猫まみれを貸し切りにすると言ってくれた。

 大喜びした俺はお小遣いを握り締めてアンデスに行った。

 ただ、好きな女の子に喜んでほしい一心で。


「またりっくんと二人きりで誕生日を過ごせるなんて思わなかったな」

「俺も、こうして夏鈴の誕生日をお祝いできるなんて思わなかったよ」


 不思議だよな……再会した当初はあんなに気まずく思っていたのに、今は誕生日を祝えることを嬉しいと思っていた。


 それから俺たちは思い出話に花を咲かせながら誕生日を過ごした。

 ケーキを食べ終えると、悠香と莉乃さんの作ってくれた料理を味わい、気づけば時刻は八時半。宴もたけなわ、楽しい時間は本当に早く過ぎてしまう。

 そろそろ帰る時間を意識しないといけない時間帯。

 だけど、猫まみれを後にするにはまだ早い。

 お互いにやり残していることがあった。


「夏鈴、渡したい物があるんだ」


 俺は一日バッグの中に忍ばせていた物を取り出す。

 それは綺麗にラッピングされた小さな箱。


「これ、誕生日プレゼント。受け取ってほしい」

「ありがとう……開けてもいい?」

「もちろん」


 夏鈴は箱を受け取ると丁寧にラッピングを剥がす。

 ゆっくりと箱を開けると、驚きに目を開いて息を呑む。

 次の瞬間、夏鈴の瞳に涙が滲むと同時に頬を伝った。


「うううっ……」


 まさか泣き出すとは思わず慌てふためく俺。


「ご、ごめん。泣くほど気に入らなかったか?」

「違うよ……嬉しくて涙が出ちゃう」

「嬉しくて?」


 夏鈴は涙を拭いながら頷く。


「だってこれ……あたしが欲しいって言ってたピアスじゃん」


 箱に入っていたのは、二人で水着を買いに行った時に夏鈴が見ていたピアス。

 しばらく雑貨屋の前で悩んだ後、学生が気軽に購入するには高めの金額ということもあって諦めたもの。確かに高いけど誕生日プレゼンならベストな価格。

 一昨日、悠香と夏鈴に誕生日の準備を頼んだ後、アンデスでケーキを注文した足でショッピングモールに行ったんだけど、まだ残っていて本当によかった。


「ほんとに貰っていいの?」

「もちろん。きっと夏鈴に似合うと思う」


 夏鈴は今まで付けていたピアスを外してテーブルの上に置く。

 代わりに俺がプレゼントしたピアスを着けてみせた。


「……どうかな?」


 はにかみながら尋ねてくる夏鈴。


「ああ。すごく似合ってる」

「えへへ……ありがと」


 夏鈴はバッグから手鏡を取り出して自分の姿を確認する。

 嬉しそうにしている姿を見ていると俺の方まで嬉しくなる。


「ほんとにありがと。りっくんの誕生日も楽しみにしててね」

「俺の誕生日、覚えてるのか?」

「もちろん。一度聞いたら忘れられないでしょ」


 夏鈴は含みを持たせた感じで口にする。

 それもそのはず、なにを隠そう——。


「二月十四日、バレンタインデーだもんね?」


 俺の誕生日は思春期の男女にとって一大イベントのバレンタイン。

 おかげで昔から誕生日を聞かれる度に微妙に気まずい思いをしてきた。

 さすがにもう慣れたけど。


「あの頃、りっくんの誕生日が来る前に転校しちゃったからお祝いしてあげられなかったんだよね。来年の誕生日はチョコと一緒にプレゼントをあげるから期待してて」

「まるでなにをくれるのか決まってるような口ぶりだな」

「もちろん。あたしがあげられるもので一番大切なもの。この前はあげそこねちゃったけど、今度こそ受け取ってもらえると嬉しいなぁ……なんてね♪」

「それって……」


 夏鈴は顔を真っ赤にしながら意味深な台詞を口にする。

 その言葉の意味に気づかないはずがなく、気づかない振りをするわけにもいかない。もう思わせぶりとかのレベルを超え、疑いようのない好意を口にする夏鈴。

 デート中も思った通り、俺に夏鈴から想われる資格があるとは思えない。


 それでもいつか、もし本当に貰えるのだとしたら、俺たちには明らかにしないといけないことがいくつかある——その一つが、ここ数日の夏鈴の様子について。

 俺は甘い空気を払い夏鈴と向き合う。


「夏鈴……」

「うん……わかってる」


 夏鈴もそのつもりなんだろう。

 笑顔から一転して難しい表情を浮かべる。


「あたしの我儘に付き合ってくれたんだもん。約束通り全部——」


 そう言い掛けた時だった。

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