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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第44話 一年に一度の記念日

 草津を後にして花崎駅に帰ってきたのは十八時半頃。


 いつものバスに乗り、車窓から茜色の空を眺めながら目的地へ向かう。

 こうしている間にも太陽は徐々に沈み、西の空にわずかな残光を残すのみ。空は燃えるような茜色から深い藍色へと色合いを変え、もうすぐ夜が訪れる。

 目的地に着いた頃、辺りは夜の暗闇に包まれていた。


「最後に行きたいところって……猫まみれ?」


 夏鈴が言った通り、最後に訪れた場所は猫まみれ。

 俺は夏鈴の疑問の声に答えず玄関のカギを開けて戸を開く。


「さぁ、どうぞ」


 先に店内へ入るように促す。

 暗闇の中、夏鈴が踏み入れてから電気をつけた。


「えっ——?」


 瞬間、夏鈴は驚きの声を漏らす。


「これって……」


 ホールの壁一面に張られた『お誕生日おめでとう!』の文字。

 プリントした文字を色画用紙に貼って作ったお祝いの言葉と、花飾りをあしらった華やかなデコレーション。他にも部屋中にお誕生会らしい飾り付けが施してある。

 中央にあるテーブルの上には美味しそうな料理が並べられていた。


「今日は夏鈴の誕生日だろ?」

「嘘……覚えててくれたの?」

「忘れるわけないだろって——言いたいところだけど、夏鈴に『明日まででいいから一緒にいさせてほしい』って言われて思い出したんだ」

「そっか……嬉しい……」


 夏鈴は小さく鼻を啜りながら声を詰まらせる。


「でも、いつの間に準備したの?」


 夏鈴が不思議に思うのは当然のこと。

 朝からずっと一緒にいた俺に準備はできない。

 それを説明するため、俺は二日前のことを思い出す。


 *


 夏鈴がうちに泊まった翌日。

 二人で朝食を食べた後、俺はグループメッセージに『今日明日は再建活動を休みにしたい』とメッセージを送った。理由は言うまでもなく夏鈴と一緒に過ごすため。

 悠香と莉乃さんはなにも聞かずに了承してくれたんだけど。


「ごめん。急に呼び出したりして」

「ううん。個別に連絡が来た時は驚いたけど大丈夫」

「特に予定はなかったので、気にしないでください」


 その裏で、俺は二人に『折り入って頼みたいことがある』とメッセージを送り猫まみれに呼び出していた。


「……夏鈴は?」

「夏鈴は呼んでない」


 その一言で察してくれたんだろう。


「夏鈴には秘密の話ってことだよね?」

「ああ。その前に伝えておきたいことがあるんだ」

「伝えておきたいこと?」

「夏鈴について」


 すると悠香は心配そうな表情を浮かべる。

 その表情から察するに——。


「悠香も夏鈴の様子に気づいてたのか?」

「うん……どうしたんだろうなって」

「じゃあ、莉乃さんも?」

「はい。陰ながら心配していました」


 俺が気づいたくらいだから二人も気づいて当然だよな。

 夏鈴は普段から突き抜けて明るくポジティブで、俺たちにとって絶対的なムードメーカー。そんな夏鈴の様子がおかしければ気づかない方が難しい。

 でも、そういうことなら話が早くて助かる。


「実は——」


 さっそく本題を切り出そうとする。

 だけど、どこまで話すべきか迷って口を噤んだ。

 まだ詳細は知らないといえ、間違いなく夏鈴のプライベートに関わる話。

 それを本人の了承なしに話すのはよくないと思ったけど、逆に考えれば詳細がわからないからこそ、夏鈴にとって言われて困るような話にはならないはず。

 それに、二人なら絶対に口外しないと信じられる。


「今、夏鈴がうちにいるんだ」

「凛久の家に——?」


 さすがに驚いた様子を浮かべる二人。

 特に悠香は言葉にし難い表情をしていた。


「昨日、駅で解散した後、夏鈴に泊めてほしいって言われてさ。夏鈴のことが心配で断れなかった。一応断っておくけど、やましいことはないから信じてほしい」


 寸止めとはいえ充分やましいと言う人もいるかもしれない。

 でも踏みとどまったんだからギリセーフってことにしてほしい。


「夏鈴になにがあったのか聞こうとしたら『明日まででいいから、なにも聞かずに一緒にいさせてほしい』って頼まれてさ」

「明日……なにかあるんですか?」


 莉乃さんが疑問符を浮かべるのは当然のこと。

 俺も夏鈴から言われるまで忘れていたんだけど。


「二十日は夏鈴の誕生日なんだ」

「「誕生日——?」」

「だから、その準備を二人にお願いしたい」


 今から準備をするんじゃ時間が足りないのはわかってる。

 本来なら俺が率先してやらないといけないんだけど、俺には他にもやらないといけないことがある。ギリギリのスケジュールで頼れるのは悠香と莉乃さんだけ。

 特に悠香にとっては複雑だろうけど他に頼める相手はいない。


「協力してもらえないか?」

「うん——わかった」


 意外なことに悠香は嫌な顔一つせずに即答する。

 その隣で莉乃さんも深く頷いていた。


「……いいのか?」

「友達のためだもん。当然でしょ?」

「悠香……」


 俺に告白をしてくれた悠香にとって、俺が他の女の子の力になろうとしているのは気持ちのいいものじゃないと思っていたけど、どうやら杞憂だったらしい。

 そんなことは関係なく、悠香にとって夏鈴は大切な友達。

 ちょっと自惚れすぎだったかもな。


「そうと決まれば時間がありません。さっそく相談しましょう」

「はいって、言いたいところなんですけど……」

「わかっています。こちらは悠香さんとわたしに任せてください」

「凛久が準備をお願いしたいって言った時点でわかってる。凛久には他にやらなきゃいけないことがあるんでしょ?」

「二人共……ありがとう」


 俺は二人にお礼を伝えて猫まみれを後にする。

 その足で前に夏鈴と行ったョッピングモールへ向かった。

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