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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第43話 裏草津

 そんなこんなで、いざ裏草津へ。


 西の河原通りを引き返して湯畑へ戻る。

 小路の先にある階段を上り、高台を抜けるとネットで見た景色が広がっていた。

 石畳が敷かれた空間に佇む複数の木造施設。どれも同じ色合いの白木を使い、壁の色も白で統一しているあたり、景観に拘って開発されたのが見て取れる。

 同じ草津内とは思えないお洒落な光景が広がっていた。


「りっくん、顔湯ってあれかな?」


 夏鈴の視線の先に目を向けると、箱の中を覗いている女性の姿があった。

 お友達同士で観光に来ている女子大生だろうか。代わる代わる覗いてはキャッキャしながら感想を言い合っている。

 しばらくすると女性たちは去り、俺と夏鈴は顔湯の前へ。


「りっくん、先にやってみて」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 さっそく蓋を開けて箱の中を覗き込む。

 すると箱の下を流れる温泉から立ち昇る湯気が頬を撫でた。

 ほのかに香る温泉の匂いを嗅ぎながら、湯気を顔に浴びること数分。顔を上げて頬を手で撫でてみると、心なしか肌がつるつるになっているような気がした。


「どんな感じ?」

「ああ。肌によさそうな気がする」

「ほんと? あたしもやる!」


 さっそく夏鈴も箱を覗き込む。


「……どうだ?」

「うん。いい感じ♪」


 夏鈴は上機嫌で顔に蒸気を浴び続ける。


「でもこれ、お化粧してない方が効果あると思うな」

「この後、温泉に入るつもりだから落としてからやるか?」

「さすがにノーメイクで歩き回るのはあれだし、お化粧し直すのも大変だから我慢する。お泊りで来てるなら、夜にお風呂で落としてから浴びにくるといいかもね」

「確かに。いつか泊まりで来た時のお楽しみだな」


 なんて、なんの気なしに同意したんだけど。


「……それって、今度はお泊まりで連れてきてくれるってこと?」

「あ、いや。そういうつもりじゃ——」


 期待の眼差しを向けられて思わず狼狽える。

 そういうつもりじゃないと言おうとしたんだけど。


「まぁ……可能性がゼロってわけでもないよな」

「ふふふっ。じゃあ、期待しておこっと♪」


 あまりの恥ずかしさに言葉を濁すのが精一杯。

 なんだろう……からかわれたような気がする。


「じゃあ温泉に入ろうか」

「うん!」


 こうして隣にある共同浴場へ。


「じゃあ、また後でな」

「うん。上がったら外で待ち合わせね」


 小さく手を振りながら女湯へ入っていく夏鈴。

 その姿を見送った後、俺も男湯の戸を開けて中へ入る。


「おお……こういう感じなのか」


 思わず声を漏らしたのはイメージしていたものと違ったから。

 湯船は手狭で、脱衣所と浴室の間に仕切りはなく、荷物を置く棚と湯船が同じ空間にある作り。今は他に人がいないからいいけど着替えが湯船から丸見え状態。

 洗い場はなく、掛け湯をする桶が置いてあるだけ。

 もちろん鍵付きのロッカーもなく、いかにも昔ながらの共同浴場といった感じ。

 さっそく服を脱ぎ、桶を手に掛け湯をしてから湯船に浸かる。


「はぁぁ~……」


 あまりの気持ちよさに声が漏らさずにはいられない。

 いかにも温泉らしい硫黄臭が漂う中、わずかに青みがかった濁り湯に全身を包まれるような感覚。湯加減も絶妙で、温くはないけど熱すぎもしないベストな温度。

 まさに極楽、他の言葉が見当たらずにいると。


「なにこれ!」


 壁の向こうというか、天井の向こうから夏鈴の声が聞こえてきた。

 たぶん俺と同じでイメージと違い驚いているんだろうけど……。


「洗い場がなくてウケるんだけど!」


 気持ちはわかるけど、さすがに笑い声が大きすぎ。

 他のお客さんの迷惑になると思って心配したんだけど。


「夏鈴、もしかしてそっちも貸し切り状態か?」

「え? りっくん——!?」


 びっくりしてさらに大きい声を上げる夏鈴。


「りっくんの方も貸し切り?」

「ああ。俺しかいない」

「それならよかった。洗い場がないんだけど、どうすればいいの?」

「石鹸は使えないから、しっかり身体にお湯を掛けて汚れを落として入るんだよ。もし身体の汚れが気になるなら、タオルで擦ってから掛け湯すればいい」

「そっか。わかった!」


 バシャバシャと湯を掛ける音が響く浴室内。

 この状況で想像せずにはいられる男子高生なんていないだろう。

 壁一枚を隔てた先で一糸まとわぬ姿の夏鈴が掛け湯をしている姿が目に浮かぶ。

 長い金髪を塗れないようにアップにすることで覗くうなじ。真っ白な肌と湯を浴びることでほのかに赤く染まる肌のコントラストに、色味を増す艶やかな唇。

 健全に不健全な思春期男子の妄想は時に現実を上回る。

 脳内に浮かぶR指定映像を楽しんでいた時だった。


「はぁ~……さいっこう♪」


 夏鈴も湯船に浸かったらしい。

 なんともリラックスした声が聞こえて我に返った。


「いいお湯だろ?」

「うん。肌あたりが柔らかくていい感じ。お肌によさそう♪」


 よほど気に入ったのか、夏鈴は鼻歌交じりに上機嫌。

 しばらく壁越しに雑談をしながら温泉を満喫していると。


「でもさ、あたしたちだけしかいないなら一緒に入ればよかったね」


 夏鈴がとんでもないことを言い出した。


「いや、さすがにそれはダメだろ。ここは前に貸し切り風呂を借りた時みたいに湯あみ着は着ちゃダメだからな。一緒に入るなら裸にならないといけないだろ?」

「二人きりだし、別に裸でもいいんじゃない?」

「ちょ、なに言って——」

「ていうか、自分で言うのも恥ずいけど今さらじゃない?」


 今さら——その言葉の意味に気づかないはずがない。

 それは昨夜、俺のベッドで事に及び掛けたことを言っている。

 未遂で終わったとはいえ致していた可能性はあった。夏鈴にとって覚悟の上での行動だったわけで、それに比べたら裸を見られるくらい平気ってことなんだろう。


 それに……いい加減、俺だって気づいている。


 それが夏鈴の好意の表れだってことくらい。

 好意がない相手と行為に及ぼうなんて思わない。

 鈍感ではいられないくらい何度も真っすぐな想いを向けてくれた。

 でも、わからないんだ……あんな風に傷つけた俺を想ってくれる理由が。


「今さらだとしても、いつ他の人が入ってくるかわからないだろ? もし見つかったら怒られるどころか逮捕案件。今日のところは大人しくしておこう」

「むぅ……仕方ないか」


 不満そうに頬を膨らませている表情が想像できた。


「さて、俺はそろそろ上がるよ」

「あたしも。お化粧を直すから少し待ってて」

「ああ。急がなくていいからな」

「うん。ありがと」


 湯船から上がり身体を拭いて支度を整える。

 外に出てベンチに腰を掛け、夏鈴を待ちながら思うこと——夏鈴と一緒に温泉に入ることがあるとすれば、少なくとも俺を想ってくれる理由がわかった後だろう。

 だけど……正直、それを知るのを怖いと思っている自分がいる。


「お待たせ♪」


 なんて考えていると女湯から出てくる夏鈴。

 慌てて笑顔を浮かべ直して夏鈴と向き合う。


「さて、次はどこに連れてってくれるのかな?」

「そうだな……」


 スマホで時間を確認すると気づけば十六時過ぎ。

 ついでに確認すると、一通のメッセージが届いていた。

 その内容を確認してからスマホをポケットにしまい歩き出す。


「そろそろ帰ろう」

「え……ちょっと早くない?」


 夏鈴は残念そうに声のトーンを落とす。


「そう悲しそうな顔をするなって」

「でも……まだ時間に余裕あるもん」

「誰もデートが終わりとは言ってないだろ?」

「どういう意味?」

「最後に行きたいところがあるんだ。少し早いけど花崎市に帰ろう」

「そういうことは先に言ってよ。じゃあバスターミナルに向かお!」


 夏鈴はわかりやすく機嫌を直して俺の腕にしがみ付く。

 時間的にはデート終盤だけど、ここからが本番だった。

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