第42話 足湯でまったり
その後、俺たちは心ゆくまで食べ歩きを満喫した。
群馬名物の焼きまんじゅうを味わい、温泉卵を食べ、気づけば食べ歩きだけでお腹がいっぱい。口直しついでに喫茶店で喉を潤しながらひと休み。
休憩を終えると、俺たちは西の河原通りを抜けてその先へ。
向かったのは草津の人気の観光名所の一つこと西の河原公園だった。
「緑がいっぱいで癒されるところね」
「この辺りは国立公園の特別地域に指定されてる場所だから、きちんと自然が保護されているんだよ。草津の中でも四季折々の自然が楽しめるスポットなんだ」
「秋の紅葉シーズンに来たら綺麗だろうね」
「確かに、また違った景色が楽しめそうだよな」
そんな話をしながら川沿いの散策路を歩く。
「でも……なんでこの川、湯気が昇ってるの?」
夏鈴が疑問を漏らした通り、川からは湯気が昇っている。
それもそのはず。
「この川、温泉なんだよ」
「え——この川の水が全部?」
「広い河原のいたるところから湧き出す温泉の総量は毎分千四百リットル。それがあつまって一つの川になってるんだ。もう少し先に行くと池とか滝もあるらしい」
「すごいね!」
心なしか早足になる夏鈴。
しばらく進むと視線の先に音を立てて流れ落ちる温泉の滝が現れ、その下には丸型の足湯があり、大自然の中で足湯を楽しんでいる観光客の姿が目に留まった。
「りっくん、あたしも足湯入りたい!」
「ああ。せっかくだから入ろう」
空いている場所に座り、靴と靴下を脱いで裾を捲る。
「「はあぁぁ……」」
足を入れた瞬間、二人揃って息が漏れた。
「あったかいねぇ……」
「足湯ってまったりするよな」
「うん。ちょっと歩き疲れてたから気持ちいい」
季節は夏真っ盛りだけど、ここは標高千二百メートルにある温泉地。
七月から八月の平均気温は二十度弱で、二十五度を超えることは滅多にない。ほどよく風も吹くから体感的にはもっと涼しく、夏でも快適な温泉ライフを楽しめる。
足元から温まった血流が全身を巡りポカポカして気持ちいい。
青空を眺めながらまったりしていると。
「……ん?」
不意に肩に重みを感じて視線を向ける。
すると夏鈴が俺の肩に頭をもたげながら寝息を立てていた。
「……色々、疲れてたんだろうな」
二泊三日の海水浴旅行で遊び疲れただけじゃない。
未だになにがあったかは聞けていないけど、肉体的な疲れ以上に精神的に疲れていたのは明らか。足湯に浸かり、張り詰めていた緊張の糸が切れたんだろう。
俺は夏鈴を起こさないよう支えながら考える。
夏鈴が悩んでいる理由がなにか……薄々気づいている。
なぜなら、夏鈴が見せている表情が子供の頃と同じだから。
もし想像通りだとしても違うとしても、俺は力になりたいと思っている。
だけど、それは友達の力になりたいとか、悠香の時のような一度は好きになった女の子の力にならなきゃ男が廃るとか、そんな前向きで格好のいい理由じゃない。
むしろ真逆で後ろ向き……夏鈴を傷つけた償いのような想いから。
あの日、夏鈴が見せた悲しそうな表情が頭をよぎる。
————私と真逆のタイプが好みなの?
夏鈴が俺を慕ってくれる理由はわからない。
嫌われて当然のことをした俺に仲良くしてもらう資格はない。
そうわかっているからこそ、夏鈴の笑顔を見る度に罪悪感に苛まれる。
だけど……だからといって夏鈴と距離を置くことは許されない。夏鈴が望んでくれる以上、俺は夏鈴の傍にいることがせめてもの罪滅ぼしだと思っている。
これは善意ではなく償いのようなものだった。
「……ん?」
しばらくすると夏鈴が目を覚ます。
辺りを見渡しながらぽつりと零した。
「ごめん……寝ちゃってたみたい」
「気にしなくていいさ」
それだけリラックスできたってことだろう。
「もう少し休んでいくか?」
「ううん。もう充分!」
少し寝て元気になったんだろう。
夏鈴はいつものテンションで足湯から上がる。
「この後はどうする感じ?」
「裏草津に行こうと思ってる」
「うらくさつ?」
裏草津とは、草津のシンボルである湯畑から徒歩五分。
湯畑の脇にある小路を抜けた先に作られた新しい観光エリア。
元々は六つある源泉の一つが湧き出ている場所だったんだけど、二〇二一年に複数の新施設がオープンすると同時に『裏草津』と呼ばれるようになった。
共同浴場や足湯の他、一万冊の漫画を取り揃えた漫画堂やお洒落なカフェ。
中でも珍しいのは、ここにしかない顔湯というもの。
胸の高さほどある箱型の台の上に覗き箱があり、中を覗くと下を流れている温泉の蒸気が顔を撫でる仕組みになっている、いわば天然のスチーマーみたいなやつ。
肌を引き締める美肌効果があるとのことで女性に大人気。
意外と知られていない穴場のスポットらしい。
「へぇ。なんだか楽しそうな場所だね!」
「若い人に人気らしいから行ってみよう」
「うん!」
こうして俺たちは裏草津へ向かった。




