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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第40話 八月二十日

 そして翌日、八月二十日の朝九時。


 俺は花崎駅の改札前で夏鈴が来るのを待っていた。

 学生にとっては夏休み中でも平日のど真ん中。社会人にとっては通勤のピークタイムだからだろう。スーツ姿の大人たちがせわしなく改札を行き来している。

 人の流れに目を向けていると、不意に夏鈴の姿を見つけた。

 夏鈴も俺に気づき笑みを浮かべて駆け寄ってくる。


「お待たせ。遅くなってごめんね」

「時間ぴったりだから謝ることないさ」

「もうちょっと早く着くつもりだったんだけど、洋服選びに手間取っちゃって」


 そういう今日の夏鈴は白のトップスにパンツ姿のコーディネート。

 肩回りとお腹を開けたオフショルタイプのブラウスに、目の覚めるような鮮やかな青色のデニムを合わせた、見るからに涼しそうな夏らしいスタイル。

 いつものギャルっぽい服装もいいけど、大人っぽい姿もよく似合う。

 メイクも服装に合わせて落ち着いた感じで好印象。


「でもさ、りっくん」

「ん? どうした?」


 新たな魅力を前に見惚れていると、夏鈴が疑問の声を漏らす。


「出掛けるなら一緒に家を出てもよかったんじゃない?」


 確かに夏鈴の言う通り。

 うちに泊まっているんだから、わざわざ別々に家を出ることもない。今朝だって一緒に朝食を食べたのに、俺だけ先に家を出て駅で夏鈴が来るのを待っていた。

 でも、そうしたのには理由があって。


「デートといえば待ち合わせだと思ってさ」

「えっ——?」


 俺が口にした単語に驚いて一瞬言葉を失う夏鈴。

 だけど、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべて俺の腕にしがみ付いた。


「じゃあ今日は、りっくんのエスコートを期待していいのかな?」

「あまり自信はないけど満足してもらえるように頑張るよ」

「やった! 楽しみだな♪」


 夏鈴は喜びの声を上げながら、いつもより強く俺の腕に抱き付く。

 いつもなら離れてくれと言うところだけど、今日だけは特別。

 こうして夏鈴との三度目のデートが始まった。



 花崎駅から電車に乗って揺られること一時間半。

 最寄り駅に到着してからバスに乗り換え、山道を登ること三十分。

 俺たちがやって来たのは数々のランキングで一位を獲得する温泉地。日本三名泉の一つにして、日本三大薬湯の一つにも選ばれている天下の名湯、草津温泉だった。


 ちなみに草津温泉が日本三名泉に選ばれているのは有名な話。

 でも、三大薬湯にも選ばれているのは意外と知られていない。

 前に遊んだ上毛かるたでも『草津よいとこ薬の温泉』と歌われているだけあり、古くから薬湯としての評価も高く、恋の病以外は全て効くと言い伝えられている。

 むしろ恋にこそ効いて欲しいけど無理な話。


 なんて冗談はさておき、なんでそんなに詳しいかって?

 夏鈴に楽しんでもらおうと事前にリサーチしておいたからだよ。


「ほんのりくさーい!」


 バスを降りると、幼い子供みたいなテンションで感想を口にする夏鈴。

 それもそのはず、バスターミナルは温泉街の中心地から少し離れているにも拘わらず独特の香りが街中に漂っていた。俗に言う卵の腐った匂いってやつ。


「温泉地に来たって感じだね!」

「確かに、こんなに匂うとは思わなかったな」

「りっくんも草津温泉に来るの初めて?」

「ああ。俺もってことは夏鈴もか?」

「うん。でも、なんでデート場所を草津温泉にしたの?」

「海に着いた時に『温泉もあったら最高なんだけど』って言ってたろ?」

「え……あんな何気ない一言を覚えてくれてたの?」

「夏鈴が温泉にはまってるのも知ってたからな」

「そっか……ありがと!」


 夏鈴は嬉しそうに俺の手を握る。


「早く行こ♪」

「ああ」


 俺たちは他の観光客の流れに続いて道を行く。

 お土産屋や飲食店が建ち並ぶ入り組んだ道を下っていくと、次第に温泉の匂いが強くなってくる。いよいよ傍まで来たと思った直後、不意に視界が開けた。


「すごーい!」


 目の前に広がっていたのは草津温泉のシンボルこと湯畑。

 こんこんと湧き出るエメラルドグリーンの温泉が、整然と並べられた七本の湯桶を通る光景は圧巻の一言。湯けむりが温泉街を漂う様子も相まって雰囲気は抜群。

 夜には青色と紫色のライトで照らされ幻想的な光景が広がるらしい。


「写真では見たことはあるけど、実際に見ると迫力あるね」

「まさに想像以上って言葉が相応しい感じだな」

「でも、なんで湯畑っていうんだろ?」


 それは多くの人が一度は思った疑問かもしれない。


「湯の花を採取する場所って意味らしいぞ」

「ゆのはな?」

「固形化した温泉成分のことを湯の花っていうんだよ。こうして温泉を長い桶に通すことで凝縮した成分を溜めて、それを採取する畑だから湯畑。ちなみに採取した湯の花は入浴剤としても売られていて、人気のお土産の一つなんだってさ」

「へぇ……りっくんって物知りなんだね!」

「エスコートする上で調べただけだよ」

「ふふ。ありがとね♪」


 こんなことで喜んでくれるなら調べた甲斐がある。


「ねぇ、りっくん。あれ撮ってほしい!」


 夏鈴はなにかを見つけたらしく指を差す。

 その先に視線を向けると、観光地で見かける顔だしパネルが置いてあった。

 記念撮影用に用意された現地の文化やキャラクターに扮するパネルなんだけど、これは草津の温泉文化として有名な『湯もみ』をしている女性のパネル。

 夏鈴はさっそく顔をはめて笑みを浮かべる。


「じゃあ、撮るぞ」

「うん。お願い!」


 普通の人は周りの目が気になって遠慮するところだけど、そんなことは一ミリも気にせず全力で楽しもうとしているところが夏鈴らしい。


「りっくんも撮ってあげる」

「せっかくだから頼もうかな」


 少し恥ずかしいけど夏鈴を見習って俺も楽しむ。

 撮り終えると写真を送り合って映りを確認。


「うん。いい感じだね!」

「これも思い出だよな」

「せっかくだから湯畑をバッグに撮っておこ」


 夏鈴は俺に寄り添いスマホを掲げる。


「りっくん、もうちょっと寄って」

「充分寄ってるだろ?」

「身体だけじゃなくて顔も近づけるの」


 顔もって……これ以上寄せると頬がくっつきそうだけど。

 なんて思っていると、痺れを切らしたのか夏鈴の方から寄ってきた。

 案の定、頬と頬が触れ、夏鈴の温もりを意識してしまい体温が急上昇。


「はい。チーズ♪」


 俺の照れているのなんてお構いないしシャッターを切る夏鈴。

 思った通り、写真に映っている俺の顔は真っ赤になっていた。


「うん。満足♪」


 夏鈴は言葉の通りご満悦。 

 まだデートは始まったばかりなのに照れすぎて心拍数がヤバい。俺がデートと明言したからか、夏鈴は全く遠慮がない……このペースでいくと恥ずか死するかも。

 そんな心配をよそに、夏鈴はさらに距離感近く俺の手を握る。


「えへへっ」

「…………」


 男女のデートは手を繋ぐものだからダメとはいえないんだけど……夏鈴とは腕を組むことは多々あったけど、こうして手を繋ぐのは実は初めてだったりする。

 正直、腕を組むより手を繋ぐ方が何倍も恥ずかしい。


 ……どうか緊張が伝わりませんように。


「この後はどこに連れてってくれるの?」

「お昼も近いし、食べ歩きなんてどうだ?」

「いいね。温泉地で食べ歩きって憧れだったんだ!」

「決まりだな」


 こうして俺たちは湯畑を後にした。

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