第32話 美少女たちと花火
グランピング施設に戻ったのは十九時頃。
夕食を済ませた後、順番にシャワーを浴びることに。
ちなみに余談だけど、菫さんの参加した恋活イベントの結果について。
やっぱりというか案の定というか、あまり芳しい成果はなかったらしい。今夜もやけ酒に付き合わされ、当人は二日連続で酔いつぶれて先にベッドで爆睡中。
シャワーを済ませ、独りテラスで夜風に当たっていると。
「凛久」
俺の次にシャワーを済ませた悠香がアイスを手に戻ってきた。
濡れた艶やかな髪と、わずかに紅潮した頬。薄手の白いTシャツにショートパンツというラフな格好で、首からタオルを掛けている無防備な姿に目を奪われた。
「凛久、どうかした?」
「ああ、いや——なんでもない」
シャツに透ける黄色い下着をチラ見していたなんて言えない。
本人は気づいていないようだから黙って堪能させてもらうとして、図らずも目にしている透けブラは、男子高校生厳選・夏の三大風物詩の一つ。
今年はショッピングモールで夏鈴のへそチラを覗き、ビーチでうなじを拝み、こうして悠香の透けブラを目にすることで無事にコンプリート。
それにしても……ちょっと透けすぎじゃない?
Tシャツの上からなのにカップやベルトに施された花柄の詩集や、レースになっている部分が丸わかり。胸元に添えられている大き目なリボンも浮かんでいる。
なんとも可愛らしいデザインが俺好みでドキドキする。
「はい。凛久の分のアイス」
「ああ。ありがとうな」
悠香は俺にアイスを渡すと隣の椅子に腰を掛ける。
夜風に当たりながらアイスでクールダウンしていると。
「明日のお昼には、もう帰らないといけないだよね……」
悠香は名残惜しそうに言葉を漏らす。
その気持ちは大いに共感できた。
「もう一泊か二泊したいくらいだよな」
「うん……すごく楽しかったから帰りたくないな」
しんみりとした空気が漂い始めた直後だった。
「二人共なに言ってんの?」
空気を変えるような明るい声が響く。
振り返ると、そこにはお風呂上りの夏鈴の姿。
「まだまだ夜は長いんだから、帰りの話をするのは早いでしょ!」
そう言う手に持っていたのは大量の花火。
「そんなにたくさんの花火、いつの間に買ったんだ?」
「海浜公園の帰りに寄ったコンビニで売ってたの。みんなが買い物をしてる間に買って、車の後ろに隠しておいたんだ。莉乃さんがシャワーから戻ってきたらやろ♪」
「よし。そういうことならバケツと水を用意しないとな」
「私、フロントで火を借りられないか聞いてくる!」
「そんなことより悠香、ちょっと待って」
フロントへ向かおうとする悠香を夏鈴が引き留める。
「あんた、上着を羽織りなさいよ」
「なんで? 別に寒くないけど?」
「ふーん……悠香も姑息な手を使うようになったわね」
「姑息な手?」
「透けブラでりっくんを誘惑しようなんて」
「なっ——違う。そんなこと思ってないもん!」
悠香は頬を紅く染めながら両手で胸元を隠す。
「凛久だって、そんなつもりで見てないもんね!」
「えっと、まぁ、なんていうか……」
全力でそんなつもりだったから否定できない。
「やれやれ、これだからお子様は……」
言い訳を考える俺の隣で夏鈴が溜め息を漏らす。
「男の子が女の子の透けブラを見るのは息をするより自然なこと。下心があってもなくても透けていたら無意識に見るものなの。見せるつもりがないなら、もっと地味な色にすることね。ちなみにりっくん、さっきからめっちゃガン見してるから」
「ちょっ、夏鈴さん——!?」
夏鈴は動揺する俺の耳元で『ちなみにあたしはピンク色♪』と甘く囁く
自ら下着の色を教えてくれるのは悠香に張り合っているからか、それとも相変わらず男心手玉に取るほど理解しているからか、できれば毎日教えてほしい。
そんな俺の願いはさておき、悠香は頬を膨らませながら俺を見つめる。
なんだろう……女の子の羞恥に満ちたジト目って興奮しちゃう。
「……凛久のエッチ」
そう言って悠香はフロントへ走っていった。
「ああは言ってたけど、絶対そのつもりだったはず」
「いやいや、さすがにないだろ……なんでそう思うんだ?」
「見せるつもりながいなら、あんな透ける色の下着付けないから」
男の俺にはわからないけど夏鈴は強めに断言する。
「夏場に透けやすい色を避けるのは女子高生のライフハック。見られたくない子はベージュとか暗めの色にして、キャミソールを着込んで透けないようにするの。白いTシャツに黄色のブラを付けている時点で、見せるっていうか魅せる気満々でしょ」
中には見せブラなんてものもあり、魅せるのもお洒落の一つらしい。
なるほど、奥が深いぜ女子高生の透けブラ事情!
「それに悠香とは再建活動の時によく一緒に着替えてるけど、あんなフリフリの可愛い下着は持ってなかったはず。りっくんを誘惑するために水着と一緒に買ったんだろうね。初心な悠香が積極的になるなんて……いったいなにがあったんだろうねぇ」
「…………」
怪しむような視線を向けられて咄嗟に目を逸らす。
そうこうしているうちに莉乃さんも戻ってきて全員集合。
俺たちは花火と水の入ったバケツを手にして夜の海へと繰り出す。
砂浜にはいくつも花火の明かりが灯っていて、他の人の邪魔にならないよう離れた場所を確保。備え付けてのロウソクを砂浜に立ててライターで火を着ける。
「よし。始めるか」
隣でスタンバっていた夏鈴が花火の先を火にかざす。
瞬間、弾ける音と同時に華やかな火花が辺りを照らした。
「めっちゃ綺麗!」
「夏鈴、私にも火を分けて」
「莉乃さんも花火をこっちに向けてください」
「はい。ありがとうございます」
夏鈴は悠香と莉乃さんの手にしている花火に火を分けていく。
全員の花火に火が着くと、三人の笑顔が見て取れるくらいの明るさが広がった。
夜の砂浜に滲む色鮮やかな明かりと立ち込める煙。潮風の香りと混ざる火薬の匂いに、頬を撫でる生ぬるい風。まさに夏を代表する風物詩の詰め合わせパック。
花火の楽しみ方も三者三様、性格の違いが出るらしい。
夏鈴は花火を両手に持って踊っているし、悠香は打ち上げタイプの花火を並べ、莉乃さんはロウソクの前にしゃがみ込んで線香花火を楽しんでいる。
そんな美少女たちに見惚れながらふと思う。
「……我ながら自分の好みがわからないよな」
幼い頃、俺はこの三人の女の子たちが好きだった。
みんな性格も容姿も違いすぎて自分の女の子の好みがわからない。まぁ好きになった人が好みのタイプなんて言葉も聞くし、人の好みなんてそんなものなのかもな。
なんて思いながら見惚れていると、夏鈴が俺のもとへやってきた。
「なんでりっくんは花火しないの?」
「俺は火の始末をしてるから気にせず楽しんできな」
「ダメ。こういうのはみんな一緒の方が楽しいんだから!」
夏鈴は俺の腕を掴んで強引に立ち上がらせる。
すると、花火をおもむろに掴んで俺に握らせた。
「ちょっと待て。さすがに本数が多すぎる!」
「えいえーい!」
俺の制止も聞かずに自分の花火で火を着ける。
瞬間、軽く火事かと心配するほどの火花と煙が立ち込めた。
「さすがにやりすぎだろ!」
「やばーい♪」
こうして俺たちは花火が尽きるまで二日目の夜を謳歌する。
夜の砂浜を照らす花火は疑うべくもなく美しいけど、それ以上に花火を楽しむ夏鈴の弾ける笑顔が綺麗で、俺は時間も忘れてその笑顔を見惚れていた。




