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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
二章 一色夏鈴

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第30話 ささやかな夢

「……莉乃さん、どうかしましたか?」

「実はわたし……自転車に乗れないんです」

「「「えっ——?」」」


 まさかの一言に驚きを隠せない俺たち。


「子供の頃、乗る練習をしていた時に派手に転んで以来、トラウマで……」


 言われてみれば、昔から莉乃さんが自転車に乗っている姿を見た覚えがない。

 当時、中学生だった莉乃さんが少し離れている中学校まで徒歩で通っていたのは知っていたけど、まさか自転車に乗れないからだとは知らなかった。


「わたしのことは構わず、みなさんは自転車で移動してください」

「いやいや、そういうわけにもいかないですよ」


 莉乃さんだけ別行動させるくらいなら徒歩でいい。

 自転車は諦めて歩いて回ろうと思った時だった。


「……あれは?」


 自転車置き場の端に変わった自転車を発見。

 ハンドルとサドルとペダルが前後に二つ並んでいる変わった一台。

 スタッフさんに尋ねると、二人乗り用のタンデム自転車だと教えてくれた。これなら自転車に乗れない人でも前の人に任せて後ろに乗っていられるらしい。


「莉乃さん、俺と一緒に乗りませんか?」

「りっちゃんと……ですか?」

「最初は少し怖いかもしれませんけど、俺がしっかりバランスを取るので大丈夫だと思います。もちろん、莉乃さんが俺を信じて任せてくれるならですけど」


 それでも怖いなら仕方がない。


「お言葉に甘えてもいいですか?」

「もちろんです」


 そんなわけで、俺と莉乃さんはタンデム自転車を借りることに。

 俺が先に跨って自転車を支え、続いて莉乃さんが後ろに乗り込む。


「しっかりハンドルに掴まってくださいね」

「はい。わかりました」


 いざ出発しようとしたペダルに足を掛けた時だった。

 ハンドルに置いている手にわずかな振動を感じて振り返ると、莉乃さんが不安そうな表情を浮かべながら手を震わせていた。


 そうだよな……。

 二人乗りとはいえ怖くないはずがない。


「最初はゆっくりいきましょう」

「……はい。お願いします」


 そんな俺たちを少し先で待っていてくれる夏鈴と悠香。

 なんだか少し羨ましそうに見えるのは気のせいだと思いたい。


「じゃあ、行きますよ」


 莉乃さんを落ち着かせるように優しく声を掛けてからゆっくり漕ぎ出す。

 しばらくすると、ハンドル越しに莉乃さんの身体から力みが緩むのを感じた。背中に感じていた緊張に満ちた息遣いも次第に落ち着きを取り戻していく。


「りっちゃん——」

「はい」

「自転車というのは、こんなにも気持ちがいいものなんですね」


 その声音に恐怖や緊張の色はない。

 むしろ言葉の通り爽快感に満ちていた。


「知りませんでした……風を切る気持ちよさも、頬を撫でる風の滑らかさも。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、わたしは今、新しい世界の扉を開いた気分です」


 前を向いている俺には、どんな表情を浮かべているかはわからない。

 でも、きっと嬉しそうな笑みを浮かべているはず。


「もう少しスピードを出しても大丈夫ですか?」

「はい。お願いします!」


 こうして俺たちは木漏れ日を浴びながら自転車を走らせる。

 自転車に乗っているからもあるんだろうけど、辺りが木々に覆われて日影になっているおかげで夏とは思えないほど涼しく、滲んでいた汗が嘘みたいに引いていく。

 途中、湧水地にある散策路を歩いて森林浴を満喫する俺たち。


 その後、次に向かったのは見晴らしエリアだった。


「すごーい!」


 樹林エリアを抜けて景色が開けた直後。

 先頭を走っていた夏鈴が不意に歓声を上げた。

 どうしたのか思いながら後に続き、すぐに理由を理解する。


「確かに、これはすごいな……」


 目の前には丘の裾野に広がる広大なひまわり畑。

 身長くらいあるひまわりが辺り一面を埋め尽くしていた。

 隣にはかやぶき屋根の古民家があり、郷愁溢れる田舎を思わせる風景。

 駐輪スペースに自転車を置くと、夏鈴と悠香は待ちきれないといった様子で駆けていく。俺と莉乃さんはのんびり歩きながら二人の後に続いてひまわり畑へ。

 散策路に足を踏み入れると、さながら迷路のようだった。


「まるで映画のワンシーンに出てきそうな景色ですね」


 莉乃さんはひまわりに顔を近づけて香りを楽しむ。

 それこそ映画のヒロインのような姿を前に思わず見惚れる。

 だからだろう——綺麗な横顔を写真に収めずにはいられなかった。


「……もしかして、わたしを撮りましたか?」


 シャッターを切る音で気づいたんだろう。

 やましい気持ちはないのに反射的にスマホを隠す俺。


「えっと、その……すみません」


 いや、見惚れた時点でやましい気持ちが全くないと言えば嘘になる。

 それに謝ったということは認めたようなもので、こうなるとなにを言っても言い訳にしかならない。勝手に写真を撮られて気持ちのいい女性なんていないよな。

 写真を消して謝ろうと思った時だった。


「綺麗に撮れていますか?」

「えっ……?」


 怒られると思いきや、まさかの一言に疑問の声が漏れた。

 尋ねられるままにフォルダを開き二人で写真を確認する。


「恥ずかしいですけど、上手に撮ってもらえて嬉しいです」


 そこには我ながら見事な一枚が収められていた。


「その写真、いただいてもいいですか?」

「も、もちろんです」


 すぐさまメッセージアプリで写真を送信。

 莉乃さんは満足そうに写真を眺めると。


「りっちゃんに一つお願いがあるんです」

「なんでしょう?」

「一緒に自撮りをしてもらえませんか?」

「自撮り?」


 すると莉乃さんは俺の横に並んで立つ。

 肩が触れるほどの距離に心臓が跳ねた。


「よく同級生たちがお友達と自撮りをしているのを見かけるんですけど、わたしには一緒に撮るほど仲の良いお友達がいなくて……こうして撮るのが夢だったんです」

「もちろん……でも、初めての相手が俺でいいんですか?」

「はい。初めてはりっちゃんがいいです」


 そんなに真っすぐな瞳を向けられると照れてしまう。


「では、撮りますよ」


 さらに身を寄せながらスマホを掲げる莉乃さん。

 身を寄せるというか頬と頬がくっつきそうなほどの近さ。

 顔が赤くなっていたらどうしようと心配する間もなくシャッターを切る。画面にはひまわり畑をバックに仲良く並んで微笑んでいる二人の姿が映っていた。


「ありがとうございます。夢が一つ叶いました」


 なんて謙虚でささやかな夢だろう。

 満足そうに微笑む姿にほっこりしていると。


「二人共ずるい。あたしも一緒に撮る!」


 遠目に見ていた夏鈴が不満の声を上げながら駆け寄ってきた。

 当然、悠香だけ写真を撮らないなんてことがあるはずもなく、急遽ひまわり畑で開催される美少女たちとの撮影会。その数なんと三人合わせて五十枚を上回る。

 こうして美少女に囲まれながら写真を取っていれば周りの注目を集めないはずがなく、傍で見ていた男性たちから嫉妬に満ちた視線を向けられて気まずさ爆発。

 この日、俺のスマホに美少女フォルダが作られたのは秘密。

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