第29話 みんなで海浜公園
「ひろーい!」
菫さんが二日酔いから復活した十時過ぎ。
俺たちは車で三十分の場所にある海浜公園に足を運んでいた。
ここは海の傍にある、東京ドーム四十個分以上の面積を誇る国営公園。
海を楽しむだけじゃなく花の名所でもあり、四月にはスイセンやチューリップが見頃を迎え、五月にはネモフィラ。十月には丘を赤一色に染まるコキアで有名。
他にも観覧車などの遊園施設もあり子供も楽しめる人気のスポット。
その証拠に、今日も大勢の家族連れやカップルで賑わっていた。
「自然が豊かで素敵なところですね」
莉乃さんの言葉にみんな揃って深く頷く。
今日も海で遊ぶものだと思っていたから、菫さんが『海浜公園に行くぞ!』と言い出した時は驚いたけど、こういう場所でのんびり過ごすのも悪くない。
菫さんは意外と自然が好きなんだろうかと思っていると。
「今日はここでナンパをしようと思う!」
全くもって俺の勘違い。
菫さんは肉食系女子よろしく逆ナン宣言。
「昨日、凛久に言われて気づいたんだ……確かに私は新しい恋を求めるあまり、ロールキャベツ男子ならぬロールキャベツ女子、清楚な大和撫子を演じて声を掛けられるのを待っていた。だが、本心を隠して待っているだけではなにも始まらない。であれば受けではなく攻め。こちらから積極的にアプローチするべきだろう!」
菫さんは決意表明のように声高らかに続ける。
「それに現役女子高生を撒き餌に男を集めても、年上の私はどうしたって年増に見られてしまう。だから今日は単独行動をすることに決めた。そう気づかせてくれたのは凛久、おまえに他ならない。昨晩は的確なアドバイスをありがとう!」
「えっとぉ……」
違う、そうじゃない。
大切なのはそこじゃなく、その後に話したことなんだけど……どうやら酔い潰れていたせいで覚えていないらしい。
まぁ本人はやる気みたいだから別にいいけど。
「でも、どうして海じゃなくて海浜公園なんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。これを見てくれ!」
菫さんはスマホでとあるサイトを表示する。
そこには『潮の香り漂う海浜公園で恋活イベント開催中~花と緑に囲まれた公園で、楽しくお散歩しながら恋人や友達を探しましょう~』と書かれていた。
つまり、海浜公園を舞台にした街コンのようなもの。
なんでも外部のイベント会社が主催しているイベントで、春休みやゴールデンウィークの他、夏休みなどの長期休みを利用して定期的に実施しているらしい。
よく見るとイベント案内を手にしている人たちの姿もある。
「では行ってくる。おまえたちも楽しんでくるんだぞ!」
そう言って菫さんは入場ゲートを越えていった。
「菫さん、大丈夫かな?」
「空回りしなきゃいいんだけど」
「良い結果になるようお祈りしましょう」
みんな揃って心配せずにはいられない。
「なるようになるだろ。せっかく来たんだ、俺たちも楽しもう」
気を取り直し、入場ゲートを抜けて公園内へ。
最初に目についたのは広い池と、その前に広がる野外ステージだった。
パンフレットによると一万人を収容できるこのステージは、行楽シーズンになると大規模なコンサートやフェスティバルなど多彩なイベントが開催されるらしい。
池の中央には噴水があり野鳥が涼しそうに泳いでいた。
「さて、まずはどこに行こうか」
公園内は主に五つのエリアに分かれている。
様々な樹木や遊水地など貴重な動植物が残る樹林エリアに、広大な丘を四季折々の花が埋め尽くす見晴らしエリア。開放感溢れる芝生敷きの広場やアスレチックコースのある草原エリアや、公園内で最も海の近くにあり砂丘に覆われた砂丘エリア。
そして遊園施設や飲食店、お土産屋のあるガーデンエリア。
「悩ましいところだねぇ」
「さすがに全部は回れないか」
「あまりにも広すぎますからね」
前と左右から俺のパンフレットを覗き込む女子三人。
どこも魅力的なだけに行き先に迷う俺たち。とてもじゃないけど歩いて回るには広大すぎて、一日で全部を見て回るのはもちろん半分すら無理だと思う。
目ぼしい場所だけ足を運ぼうかと相談していると。
「ねぇ凛久、ここで自転車を借りられるみたいだよ」
悠香がパンフレット上を指し示す。
そこにはサイクルセンターと書いてあった。
「自転車のレンタルか……借りた方がよさそうだな」
「うん。自転車があれば一日で全部回れるでしょ♪」
さっそくサイクルセンターへ向かう俺たち。
すると、開園して間もないにも拘わらず受付には長蛇の列ができていた。
「みんな考えることは一緒だね」
「徒歩と自転車じゃ効率が違うからな」
券売機でチケットを買い、列に並んで待つこと十五分。
スタッフさんに案内され、借りる上でのルールや注意事項の説明を受ける。
ひと通り話を聞いた後、人数分の自転車を借りていざ出発。
「りっくん、まずはどこから行く?」
「樹林エリアに行ってみよう。そこから見晴らしエリアまでが、森の中を抜けるサイクリングロードになってるらしいから、森林浴を楽しみながら走る感じで」
「オッケー♪」
目的地も決まり出発しようとした時だった。
莉乃さんだけが自転車の横に立ち尽くしていた。




