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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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36話 叶わなかった恋の答え合わせ

 約束の二日後、三月二十七日。

 もう春なのに真冬に逆戻りしたような寒波に襲われた朝。


 俺はクリスマスのプレゼント交換で当たったマフラーを巻き、莉乃さんと一緒に猫まみれから歩いて十五分の場所にあるお寺に来ていた。

 ここは古くからある地元の人たちがお世話なっているお寺で、俺の母親が亡くなった時もここの住職にお世話になり、今も法事なんかで付き合いが続いている。


 でも、今日は俺の母親の件で来たわけじゃない

 莉乃さんの祖父——つまり、おじいちゃんの命日でお墓参りに来ていた。


「お水を汲んでいきましょう」

「はい。桶は俺が持ちます」


 水汲み場で備え付けの桶に水を汲んで境内を進む。

 すると莉乃さんはひときわ立派なお墓の前で足をとめる。

 顔を上げると、石碑には『七々咲家之墓』と刻まれていた。


「お墓の掃除を手伝ってもらえますか?」

「もちろんです」


 季節外れの風のせいか落ち葉や汚れが目立つ。

 二人でお墓を綺麗し、花立てに水を注いでから持参した花を供える。

 お線香に火をつけて煙が落ち着くのを待ってから香炉に置くと、お墓の前に二人並んで立って手を合わせ、俺は心の中で今までのことを報告する。


 二人が亡くなっていたと知った時は驚いたこと。

 みんなで力を合わせて猫まみれを再建しようとしていること。俺たち以外にも萩原さんをはじめ、猫まみれを大切に思う人たちが手伝ってくれることになったこと。

 まだまだ前途多難だけど、俺が二人の遺志を継いで再建すると約束。

 一方的な報告だけど不思議と懐かしい気持ちだった。


 どれくらい手を合わせていただろう。

 目を開けると、莉乃さんは凛とした表情でお墓を見つめていた。


「お話は済みましたか?」

「はい。もう大丈夫です」

「祖父母とは、どんなお話を?」

「近況報告です。必ず猫まみれを再建してみせますって」

「きっと喜んでいると思います」

「莉乃さんは、なにを話したんですか?」

「わたしは四ノ宮家との破談の件を報告していました」


 そうか……両家にとって家族になることが長年の願いだった。

 莉乃さんが責任を感じる必要は全くないと思うけど、本人としては祖父母も望んでいたことを果たせなくなった以上、きちんと報告したい気持ちもあるだろう。

 きっと二人も理解してくれるはず。


「それと、もう一つ」

「もう一つ?」

「少しだけ勇気を分けてくださいとお願いしました」


 勇気——?


「今日りっちゃんをお誘いしたのは、一緒にお墓参りがしたかったからだけではありません。あの日のことを……わたしの口からきちんと説明するためです」


 あの日のことがなにを意味しているかなんて聞くまでもない。

 莉乃さんは風になびく髪を押さえながら『すでにご存じのこともあると思いますが改めて——』と前置きをしてから続ける。


「あの日、りっちゃんに別れを告げたのは、樹君から脅されていたからでした」


 それはすでに四ノ宮樹の口から語られた真実。


「今さら庇うつもりはありませんが、幼い頃の彼は優しい男の子で、いつもわたしのことを気にかけてくれていました。好意を持つことはなくても信用のできる人ではあったんです。でも、わたしが猫まみれを手伝うようになってから変わりました」


 莉乃さんは少し悲しそうに目を伏せる。


「他の男の子と仲良くすることを快く思ってなかったんでしょう。遠回しに猫まみれの手伝いをやめるように言われましたが、わたしは聞く耳を持ちませんでした。そんなある日、りっちゃんとハグをしているところを見られてしまったんです」


 それが引き金になったんだろう。


「その後、樹君に言われたんです——『天崎凛久と仲良くするなら、彼がどうなっても知らない』と。家族にも相談するなと脅されました。りっちゃんに本当のことを話すわけにはいかず、わたしに身を引くことしかできませんでした」


 でも、こうして莉乃さんから聞かされた改めて理解する。

 莉乃さんが俺を拒絶したのは、俺のもとを去ったのは、嫌いになったからなんかじゃなくて、むしろ真逆——。


「俺を守るためだったんですね」


 莉乃さんの瞳から涙が零れ頬をつたう。


「守ったなんて、聞こえのいい言葉で許されることではありません。自分の気持ちに嘘をついて一方的に突き放し、何度も会いに来てくれたのに無視をして、どれだけ傷つけたことでしょう。今日までの四年間……後悔しなかった日はありません」


 これが菫さんへの言葉を自分のことのように受けとめた理由。

 海浜公園の観覧車の中で言っていた後悔の答えだった。


「本当に……ごめんなさい」


 溢れる悲しみは涙だけでは留まらず、肩を震わせ嗚咽を漏らし始める。

 そんな莉乃さんを抱きしめられずにはいられなかった。

 幼い頃、俺がそうしてもらっていたように。


「莉乃さん、謝らないでください」


 むしろ謝らなくちゃいけないのは俺の方だ。


「莉乃さんの気持ちも覚悟も知らずに距離を置かれた後も付きまとって、莉乃さんも辛かったですよね。守られていたことも知らずに……すみませんでした」

「そんな……りっちゃんは悪くないんです」

「それでも、莉乃さんだけが悪いわけじゃない」

「りっちゃん……」

「お互いに子供でしたね」


 そう、当時の俺たちが子供だっただけ。

 幼くも必死で、本気だったけど、どうしようもなかった。


「だから、もう謝らないでください」

「はい……ありがとうございます」


 莉乃さんは俺の腕の中ですすり泣く。

 小さく震える肩を抱きしめながらわかったこと。

 どうやら俺は四年間、ずっと勘違いをしていたらしい。


 あの日——俺は失恋なんてしていなかった。


 これが最後の叶わなかった恋の答えだった。

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