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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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33話 暴かれた本性

 そして迎えた三月十四日。

 七々咲家と四ノ宮家の会食日にして正式に二人が婚約する日。

 俺たちは菫さんの運転する車に乗り、莉乃さんの家の近くで待機していた。


「……出てきたな」

「じゃあ、お願いします」


 視線の先には莉乃さんの家から出発した一台の車。

 後部座席に座っている莉乃さんの姿を確認してから車を出す。

 こうして尾行をしているのは会食場所まで後をつけるため。本当は事前に場所と時間を調べておきたかったんだけど、さすがにそこまでの情報は得られなかった。

 尾行がバレるリスクはあるけど仕方がない。

 念のため菫さんの車は避けてレンタカーにしておいた。


「それにしても、大胆な作戦に出たものだな」


 菫さんはハンドルを握りながら呆れ半分で口にする。


「我ながら無茶なことをしようとしている自覚はあります」

「教師としてはとめたいところだが……しかしどうして、本来であればとっくに警察のお世話になっていた案件。そうしなかったのは自らの手で解決するためだろう」


 さすが菫さん、俺の考えなんてお見通し。

 ここまでされて他の誰かになんて任せられない。


「すみません……菫さんまで巻き込んでしまって」

「気にするな。大人の出番が必要な時は頼れと言ったのは私だ。今は教師という立場を忘れ、おまえたちを昔から知るお姉さんとして背中を押そう。あえてチンピラたちに殴られてやったんだ。自分の手で決着をつけてこい」

「はい!」


 莉乃さんを乗せた車は花崎駅方面へ向かう。

 市街地を走ること数分、着いたのは地元でも有名な老舗料亭だった。

 車から降りてくる莉乃さんの両親と、その後に続く着物姿の莉乃さん。しばらくするともう一台の車が店舗の前に着き、中からスーツ姿の四ノ宮樹が降りてきた。

 軽く挨拶を交わすと両家は揃って店内へ入っていく。


「では、行くとしよう」

「はい。お願いします」

「凛久、頑張ってね」

「ファイトだよ!」


 路上に車を停め、俺と菫さんは車を降りる。

 外から店内を覗くと受付には女性スタッフの姿があった。

 問題はどうやって受付を突破して莉乃さんたちのいる部屋にたどり着くかだけど、部外者が聞いたところで教えてもらえるとも通してもらえるとも思えない。

 だから俺はとある方法を考えて準備していた。


「これでダメなら強硬突破だな」

「ですね……上手くいくことを願います」


 そう答えながらトランクから花束を取り出す。

 それを手に菫さんと一緒に店内に入って受付へ。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」


 こういう時は堂々としていた方が怪しまれない。

 そうわかってはいても緊張する俺の隣で菫さんが凛とした笑みを浮かべる。


「花崎高校で教師をしている片品菫と申します。こちらで七々咲家と四ノ宮家の会食があると伺いました。七々咲さんは私の教え子なのですが、今日は両家にとって大切な日だと聞き、クラスを代表して彼と一緒にお祝いの花束を届けに来たんです」

「そうですか。確認しますので少々お待ちください」


 そう言って女性は手元の受話器に手を伸ばす。


「待ってください」

「……どうかされましたか?」

「サプライズでお祝いをしたいと思い事前に伝えていないんです。花束を渡して挨拶を済ませたらすぐに帰りますので、お部屋の場所だけ教えていただけませんか?」


 受付の女性は一瞬考えるように目を伏せる。


「……わかりました。そういうことでしたらお通りください。通路を真っすぐ進んだ突き当り、右に曲がった先にある滝の間というお部屋です」

「ありがとうございます。では行ってきなさい」

「はい」


 快く部屋を教えてもらい無事に受付を突破。

 菫さんは受付に残り、俺は通路を進みながら安堵に胸を撫で下ろす。

 これが事前に考えておいた方法。これなら通してもらえる可能性が高いとは思っていたけど、上手くいったのは教師という社会的信用度の高い大人がいたからだろう。

 心の中で菫さんにお礼を言いながら教えられた通りに廊下を進む。

 すると滝の間と書かれた札が掲げられている部屋を見つけた。


「ここか……」


 中から聞こえてくる談笑。

 本題に入る前の世間話と言った様子。

 突撃するなら今しかない。


「失礼します!」


 勢いよく襖を瞬間、一斉に向けられる視線。

 部屋の中には四ノ宮樹と、その両親と思われる男性と女性の姿。

 そして猫まみれの再建を許可してもらった後、お礼を言いに莉乃さんの家を訪ねた際に会ったことのある莉乃さんの両親と、両家の親族と思われる人が数人。

 そして手前の席に莉乃さんが座っていた。


「……りっちゃん?」


 静まり返る室内に俺の名前を呼ぶ声が響く。

 その声で名前を呼んでもらうのはいつ以来だろう。


「誰だね、君は」


 真っ先に尋ねてきたのは莉乃さんの父親の向かいに座る男性。

 おそらくこの人が四ノ宮樹の父親だろう。春名神社でアルバイトをした時は会えなかったけど、新職に使えているだけあってこの状況でも落ち着いていた。


「どこの誰かは知らないが、ここは部外者が——」

「四ノ宮さん、待ってください」


 間に割って入ったのは莉乃さんの父親だった。


「君は確か……天崎君だったね」

「はい。ご無沙汰してます」


 さすがに莉乃さんの父親も驚いた様子。


「七々咲さん、この少年はお知り合いですか?」

「彼は私の両親が経営していた喫茶店を再建しようとしてくれているんです。再び地域の人たちが集まる場を作ろうと、莉乃と一緒に頑張ってくれています」

「猫まみれを再建ですか……それは素晴らしい。あの場所は美里町に住む人たちにとって憩いの場だった。今は亡きご両親はもちろん、地元の方々もさぞ喜んでおられることでしょう。ですが——そんな若者が、なにをしにここへ?」


 穏やかな口調から一転、その声音に静かな怒気がこもる。

 そりゃそうだろう……大事な一人息子の晴れ舞台に横槍を入れられたんだ。

 返答次第では今すぐ叩き出すと言わんばかりの視線を向けてくるのは四ノ宮樹の父親だけじゃない。この場にいる誰もが不信感に満ちた目で俺を見ている。

 だからといって怯むわけにも引くわけにはいかない。


「俺は……二人の婚約をとめに来ました!」


 まさかの宣言に誰もが驚く中、俺は間髪入れずに畳みかける。


「みなさんは知らないかもしれませんが、今年になってから何度も猫まみれで事件が起きています。窓ガラスを割られたり、店内を荒らされたり、テーブルや椅子も壊されました……とてもじゃありませんが、再建を続けられる状況じゃありません」

「猫まみれが? そんな話、莉乃からは聞いていないが」


 莉乃さんの父親は隣に座る莉乃さんに視線を向ける。

 すると莉乃さんは気まずそうに視線を逸らした。


「言えなかったんです……いえ、家族のことを思えば言えるはずもありません。自分や家族にとっても大切な場所を、自分の婚約者が壊しているなんて」

「自分の婚約者——?」


 この場にいる全員が四ノ宮樹に視線を向ける。


「猫まみれを襲撃した犯人は……四ノ宮樹さんだったんです!」


 ついに暴かれた四ノ宮樹の悪事。

 だけど当の本人は涼しい顔をしていた。


「にわかに信じがたいが……どうして樹くんがそんなことを?」

「理由は俺への嫌がらせです。自分の婚約者と仲良くする俺が気に入らなくて、街の不良たちに指示して猫まみれを襲撃させた。そうすれば莉乃さんが責任を感じて俺と距離を置くとわかっていたから。結果、莉乃さんは一ヶ月前に再建メンバーを抜けました」

「莉乃……本当かい?」


 莉乃さんは沈痛な面持ちで視線を伏せる。

 その様子を母親が心配そうに見つめていた。


「それだけなら、二人の婚約をとめようとは思いませんでした。自分の好きな子の傍に知らない男がいれば嫉妬する気持ちは理解できます。俺が同じ立場でもいい気はしない……話し合いで解決するなら、それに越したことはないと思っていたんです」


 でも——。


「こいつは莉乃さんのことを好きじゃなかった!」


 それまで俺を無視していた四ノ宮樹が初めて俺と視線を合わせる。


「こいつの目的は莉乃さんと結婚して七々咲家を乗っ取ること。莉乃さんのことなんて好きじゃないくせに、そのために莉乃さんを利用しようとしていたんです!」


 全てを暴露して静まり返る室内。


「みなさん、落ち着いてください」


 誰もが戸惑いを隠せない中、不意に四ノ宮樹が口を開く。

 その表情には焦りの色一つ滲んでいなかった。


「花束を手に現れたので、お祝いの言葉をいただけるのかと思えば口から出まかせばかり。僕と莉乃にとって大切な日に、こんな邪魔が入るとは思いませんでした」


 感情的な俺とは対照的にいたって冷静な口調。

 俺の暴露なんて意にも介さない様子。


「君がなにを根拠に言っているかはわからないけど完全な言いがかり。猫まみれが荒らされたのは気の毒に思うけど僕は関係ない。それに、僕は莉乃を愛しています」

「ふざけるな!」


 歯の浮くような台詞が感情を逆なでする。

 心にもない言葉を前に我慢していた感情が弾けた。


「なにが気の毒に思うだ……莉乃さんを愛してるだ。愛してるなら、なんで莉乃さんを脅すような真似をした。今回だけじゃない、四年前も莉乃さんを脅して俺と莉乃さんの仲を引き裂いたじゃないか……おまえが莉乃さんに対して愛を語るな!」


 瞬間、騒ぎを聞きつけた店員が駆け付ける。


「みなさま、どうかされましたか?」

「部外者が紛れ込んだようです。連れ出してください」


 四ノ宮樹がそう言うと店員が二人掛かりで俺の腕を掴む。


「なにをしているんだ。早く出なさい」

「待って——離してください!」


 大人二人を相手に抵抗できるはずもない。

 もう悠長に悪事を暴いている時間はなかった。


「莉乃さん、これを——!」


 俺はスマホを取り出し、動画の再生ボタンを押して莉乃さんに投げる。

 四ノ宮樹は俺がなにをしようとしていのるか気づいたんだろうけど遅い。


「待て——!」


 焦った様子でスマホに手を伸ばすが手は届かない。

 莉乃さんがキャッチすると最大ボリュームで音声が流れ始める。

 それは、あの廃墟物件でのやり取りを収めた動画——。 

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