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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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26話 二人の優しさ

 週明けの月曜日、俺は生まれて初めて学校をサボった。

 理由は言うまでもなく……また莉乃さんに拒絶されたショックから。

 なにをしていても誕生日の夜のことが頭から離れず、まるで寄せては返す波のような胸の痛みに耐え続けている今も別れ際の莉乃さんの顔が瞼に浮かぶ。


 ——もう、りっちゃんとは一緒にいられません。


 一語一句違わず告げられた拒絶の言葉。

 もちろん、あの日に覚えた悲しみを忘れたわけじゃない。

 拒絶された事実を忘れたわけでもないけど、莉乃さんと再会してから昔のように仲良く過ごしていたから、一緒にいることを許してもらえたんだと思っていた。


 だからこそ二度目の拒絶が眠っていたトラウマを呼び起こす。

 まるで高解像度の映像を再生するかの如く鮮明に。


 無理だ……この悲しみは耐えられない……。

 二日ほど体調不良と嘘をついて学校をサボった水曜日。

 いつまでも嘘を吐くわけにもいかず、学校をサボり続けるわけにもいかず、重い足を引きずりながら学校に行くと、すでに登校していた悠香に声を掛けられた。


「凛久、二日も休んでどうしたの?」

「……ちょっと具合が悪くてさ」


 悠香に嘘を吐くことに罪悪感がないわけじゃない。

 だけど嘘を吐く罪悪感を喪失感が上回る。


「そっか。大丈夫?」

「ああ……」


 今は誰かと話すことすらおっくうで仕方がない。

 放っておいてほしくて素っ気ない態度を取るけど悠香は引かない。


「具合が悪い時に申し訳ないんだけど、凛久に聞きたいことがあるの。莉乃さんが猫まみれのグループメッセージから抜けてるんだけど……なにか聞いてない?」

「え……?」


 スマホを取り出してメッセージアプリ立ち上げる。

 悠香の言う通り誕生日の翌朝に莉乃さんがグループから退室していた。


「莉乃さんのクラスまで会いに行ったんだけど、なにも教えてくれなくて……夏鈴も個別にメッセージしてくれたんだけど返事はないらしいの……なにか知ってる?」


 踏んだり蹴ったりというべきか、泣きっ面に蜂というべきか。

 追い打つような悲しみに黙って首を横に振る。


「そんなの……俺が聞きたいくらいだ」


 吐き捨てるように呟いて席を立つ。


「凛久、どこにいくの?」

「……保健室で休んでくる」


 ダメだ……本当に具合が悪くなってきた。

 胸が痛すぎて吐き気が込み上げて仕方がない。


「じゃあ、保健室まで付き添うよ」

「大丈夫だ。一人で行ける」

「でも——」

「大丈夫だって言ってるだろ!」


 苛立ちを抑えきれずに叫んだ瞬間、クラスメイトの視線が集まる。

 悲しそうな表情を浮かべる悠香を見て我に返った。


「ごめん……でも、しばらく放っておいてくれ」


 そう告げて逃げるように教室を後にする。

 この日も結局、早退して学校をサボったんだけど……精神的に弱っていたから、それとも冬で風邪が流行っていたからか、家に帰って熱を測ると三十八℃越え。

 具合が悪いと思ったのは気のせいじゃなかったらしい。

 結局、翌日からも学校を休み続ける。


 こうして高熱にうなされ続けること数日。

 ようやく平熱に戻ったのは誕生日から一週間が過ぎた日曜日だった。


 まだ気怠さは残るものの、だいぶ体調は良いのにベッドで横になったまま。

 今日は父親も仕事が休みで家にいるから、余計な心配をかけないように起きようと思うものの、体調が回復しても心は弱ったままで立ち上がる気力が湧いてこない。

 むしろ元気になったことで考える余裕ができたからだろう。

 思い出すように誕生日の夜のことを考えてしまう。

 布団と喪失感に包まれていた時だった。


「……?」


 枕元に置いてあるスマホから通知音が響く。

 片目を開けて画面を覗くと夏鈴の名前が目に留まった。

 この一週間、夏鈴から何度もメッセージが送られてきたけど返していない。それどころか、最初の数件は目を通したけど最近は風邪もあり既読すらつけていない。

 そろそろ返事をしようとは思っているけど。


「今さらなんて返せば……ん?」


 そんなことを思っていた時だった。

 一階から玄関のドアの開く音が響いた。

 おそらく父親が買い物にでも出かけたんだろう。

 もう少し寝ていられる言い訳ができたと安堵していると、なぜか階段を上る足跡が響いてくる。もしかして知らぬ間に外出していて今帰ってきたんだろうか?

 だけど気のせいか、足跡は一つではなく複数聞こえる。

 疑問に思っていると部屋のドアが開く。


「父さん。ノックくらい——」


 言うより早く布団を引っぺがされる。

 瞬間、驚きのあまり自分の目を疑った。


「夏鈴と……悠香?」


 ベッドの横には険しい顔で布団を手にしている夏鈴。

 その隣には心配そうな表情で俺を見つめる悠香の姿があった。


「ど……どうして二人が俺の部屋に?」

「りっくんが返事をくれないから会いに来たんでしょ!」


 夏鈴は声を震わせながら大声で怒りを露わにする。

 理由はともかく、俺は二人に家の場所を教えた覚えはない。


「菫さんに教えてもらったの」


 そんな疑問が顔に出ていたのか悠香が答える。


「夏鈴はああ言ったけど、本当は凛久が心配でお見舞いに来たの。突然お邪魔するのも悪いと思って夏鈴がメッセージしてくれたんだけど、返事がなくて……困ってたら凛久のお父さんが出てきてね。事情を話したら『私は出掛けるけど、凛久は二階にいるから遠慮せず上がっていい』って言ってくれたの」

「そうか……」

「なんでメッセージを無視したの!」


 夏鈴は俺のシャツに掴み掛かりながら声を荒げる。


「猫まみれが大変な時に莉乃さんが突然いなくなって、連絡しても二人とも返事をくれないし、萩原さんからも水道工事を手伝えなくなったって連絡がくるし……りっくんまでいなくなっちゃうんじゃないかと思ったんだから……!」

「夏鈴、気持ちはわかるけど病み上がりだから」


 感情を露わにする夏鈴を優しく宥める悠香。


「……ごめんなさい」


 瞳には涙が浮かび、シャツを握る手から力が抜ける。

 下唇を噛みながら鼻をすする夏鈴の姿を見てようやく気づく。

 そうか……夏鈴の第一声が震えていたのは怒りじゃなくて悲しみと不安。

 花女に通う夏鈴は俺たちの中で唯一通う高校が違う。俺の返事がないだけじゃなく、悠香のように会うこともできないから不安は募るばかりだろう。

 一度ネガティブなことを考えると際限なく悪いことを考え続けてしまうのは、過去の失恋を何年も引きずった俺自身よくわかっていたはずなのに……。

 夏鈴にも同じ思いをさせてしまっていた。


「夏鈴……ごめん」


 夏鈴は俺の胸に顔を埋めながら首を振る。


「悠香も、心配かけて悪かった」


 悠香も理解を示すように首を横に振った。


「いつも前向きだった凛久が誕生日の翌日から落ち込んでるんだもん……なにか辛いことがあったのはわかってる。それと、なんとなく理由も察してる」

「……莉乃さんと、なにかあったんだよね?」

「私たちが力になるから話を聞かせて」

「…………」


 思わず自分の顔を両手で覆う。

 吐く息と一緒に漏れたのは自分への嫌悪感だった。

 最低だろ……自分で猫まみれの再建を言い出したくせに、手伝ってくれた女の子を無視して、再建活動も投げ出して心配かけて、さらに家まで来させるなんて。

 呆れられても仕方がないのに寄り添ってくれる二人。

 その優しさに少しだけ心が軽くなった気がした。


「わかった……でも、その前に」

「「その前に?」」

「シャワー浴びてきていいか?」


 ずっと寝込んでいたから顔も頭も洗っていない。

 我ながら酷い顔をしている自覚がある。


「「うん!」」


 たぶん、めちゃくちゃぎこちなかったと思う。

 それでも笑みを浮かべて伝えると二人も笑顔を見せてくれた。


「なるべく早く戻るから部屋でゆっくりしててくれ」


 俺は二人に断りを入れると着替えを持ってお風呂場へ。

 シャワーを浴びて身だしなみを整えると、その足でキッチンへ向かい三人分の紅茶を淹れる。お茶菓子も一緒にトレイに載せ、部屋に戻ってドアを開けると。


「……二人共、なにしてるんだ?」


 なぜか悠香と夏鈴が俺の部屋を物色中。

 二人はクローゼットを開けて頭隠して尻隠さず。

 言葉の使い方は全く違うけど絵面的にはそんな感じ。


「ち、違うの——別に部屋を漁ってるわけじゃなくて!」

「私はとめたんだよ。でも夏鈴が勝手に開けて——」

「はぁ!? ちょっと悠香、自分だけ良い子ぶらないでよ!」

「夏鈴が『男子の部屋に来たらエッチな本がないか探すものよ!』って言うから!」


 その後もやいのやいの、お互いに罪を擦り付け合う二人。

 見慣れた光景を前に自然と笑みが零れていた。


「「ごめんなさい……」」

「別に見られて困るものはないから気にしないいいよ」


 困るものは別の場所に隠してあるから心配ない。


「お茶を淹れたから一緒に飲もう」

「うん!」

「ありがと♪」


 二人にカップを渡してひと息つく。

 すっきりとした紅茶の甘さが身体に染み渡り、お茶菓子の糖分で血糖値が上がって思考能力を取り戻す。すると最初に頭をよぎったのは謝罪の言葉だった。


「悠香、夏鈴……ごめんな。二人共、俺を心配してくれてたのに……」

「いいの。凛久になにかあったのは明らかだったし、いつもの凛久じゃないのもわかってたから気にしてない。怒ってるわけじゃないから、そんなに謝らないで」

「あたしも一緒。その代わり、なにがあったか教えてほしい」

「莉乃さんと……なにかあったんだよね?」


 今さら隠そうとも隠し通せるとも思ってない。

 全ては俺の誕生日の翌日から始まったんだから、あの夜——悠香と夏鈴が猫まみれを去った後に、俺と莉乃さんになにかがあったと察するのは当然だろう。

 だとすれば、どこから話すべきかだけ。


「少し長くなるけど聞いてくれ」


 悩んだ末、俺は全てを伝える覚悟を決める。

 俺は四年前、莉乃さんとの出会いから話し始める——。

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