21話 特別な才能
「凛久、どうしたの?」
そんな様子を見て察したんだろう。
悠香が心配そうに声を掛けてきた。
「……最近、気づいたことがあるんだ」
「気づいたこと?」
「みんなと違って……俺にはなにもない」
今にして思えば、それは再建直後から感じていたこと。
「俺は悠香ほど接客を上手くできないし、夏鈴みたいに周りを巻き込むような交渉力もない。莉乃さんみたいに料理が得意なわけでもないし、萩原さんみたいに特別な技術がはずもない……俺だけが、なんの役にも立ってないなってさ」
自分から再建を言い出したくせにみんなを頼ってばかり。
みんなに感謝をすればするほど不甲斐なさは募っていく。
「猫まみれの再建は俺が言い出したこと。みんなには俺のわがままに付き合ってもらってるのにこのありさまじゃ、そのうち愛想をつかされるんじゃないかって——」
「ちょっとりっくん、さすがに心外なんだけど」
怒るように声を上げたのは夏鈴だった。
「ごめん……そりゃ嫌にもなるよな」
「そうじゃなくって!」
夏鈴はもどかしそうに声を上げながら俺の頬を摘まむ。
「まるであたしたちが無理して付き合ってるみたいな言い方だけど、それは違うよ。そりゃりっちゃんの想いに乗っからせてもらって始めたことだけど、猫まみれを大切に思う気持ちに嘘はないもん。ね、悠香」
「うん。凛久を手伝いたくて始めたことだけど、今はもう凛久のためだけじゃない。私たち自身が猫まみれを再建したくてやってること。凛久のわがままに付き合ってるなんて思ってない。ですよね、莉乃さん」
「お二人のおっしゃる通りです」
莉乃さんは深く頷きながら同意する。
「でも、りっちゃんがそう思う気持ちもわかるんです」
その表情は全てを甘受するような優しさに満ちていた。
「再建を提案した当人として、みんなを引っ張っていかなければいけない。誰よりも一生懸命に頑張らなければいけない——だけど、自分よりも仲間の優れているところが目についてしまう。自分にないものが輝かしく見えて、自分の至らなさを痛感してしまう」
莉乃さんは俺の気持ちを過不足なく言葉にしてくれる。
まるで心の中を覗かれているかのように。
「でも大丈夫。りっちゃんは他の人にはない特別なものを持っています」
「他の人にはない……特別なもの?」
「それは、心のままに一歩を踏み出す行動力です」
莉乃さんは力強く言葉にして続ける。
「生前、祖父がこんなことを言っていました——今の時代、成功する人とそうでない人との差は『行動するかしないか』だと。昔は成功する人とそうでない人の差は、情報を持っているかいないかだったそうです。情報を持っていれば成功する可能性は高く、だからこそ誰も知り得ない情報に価値があった。ですがインターネットが普及され、スマホ一つで誰もが等しく情報得られるようになった今、行動できる人だけが成功する」
逆を言えば行動しない人は絶対に成功しない。
「ですが不思議なもので、人は成功するための情報を手にしても踏み出せないんです。情報を得られるからこそ現実を知り、自分には無理だと思い二の足を踏む」
……確かに、それはあるかもしれない。
アイドルになりたい、芸能人になりたい、歌手になりたい。
なにも知らなければ盲目的に追いかけられる夢も、なるための方法や情報を知れば知るほど狭き門だと知り、自分には不可能だと決めつけて行動する前に諦める。
それはたぶん、この情報が溢れすぎた時代の弊害だろう。
むしろなにも知らないからこそ踏み出せた。
そんなことは往々にしてあるはず。
「わたしも同じでした。わたしや両親でさえ、猫まみれをなんとかしたいと思いながらも無理だと諦め、地元の人たちも再建なんて無理だと思っていたんです。誰もが諦めていた時、りっちゃんが帰ってきて再建しようと言ってくれた」
莉乃さんは優しく俺の手を握る。
「誰もが大切に思い、でも諦めていたこと。りっちゃんは二の足を踏み続ける私たちの前で旗を掲げ道を示してくれた。だからこそ、アンデスのご夫婦も萩原さんも協力すると言ってくれたんです。最初の一歩を踏み出すことは誰にでもできることではありません。それだけで、もうどうしようもないほどに特別な才能なんです」
莉乃さんの言葉に悠香と夏鈴も頷く。
「みんな……」
そんなふうに考えたことなんてなかった。
みんながそう思ってくれていたなんて知らなかった。
「これからも、わたしたちを引っ張っていってくださいね」
「そうだよ。凛久がいなきゃ再建なんて無理なんだから」
「りっくんが困った時はみんなで支えるからさ♪」
なんていうか……言葉がない。
「みんな、ありがとう」
これ以上喋ると感情が溢れてしまいそう。
俺はバレないように振り返って背中を向ける。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「凛久、このあとなにか用事があるの?」
「アルバイトの面接があるんだ」
前に言った通り、リフォーム費用を稼ぐための長期アルバイト。
数日前に応募して今日の午後に面接をしてもらう約束になっていた。
「言った傍から行動力を見せつけてくれるじゃん♪」
「応援しています。頑張ってきてください」
「はい。ありがとうございます」
俺はみんなに見送られながら猫まみれを後にする。
おかげで自信をもって面接を受けられそう。
いや、もう受かる自信しかなかった。




