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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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20話 リフォーム開始

「そろそろ来られる頃だと思います」


 冬休みが終わり、三学期が始まってすぐの週末。

 俺たちは地元の水道設備業者に水回りの様子を見てもらうことにした。

 年末年始はどこも休みだから学校が始まったら業者を探そうと思っていたんだけど、莉乃さんが両親に相談したところ、付き合いのある業者に頼んでくれたらしい。

 さすが七々咲家は地元の地主だけあって顔が広い。


「どんな人が来てくれるんだろうね!」


 悠香が期待に目を輝かせていると一台の車が敷地内に停車する。

 車から降りてきたのは作業着に身を包んだ女性だった。


「すみません。お待たせしました!」


 正直に言って驚いた。

 偏見かもしれないけど業者といえば男性のイメージがあったから。女性の年齢を詮索するのは失礼だと思いつつ、おそらく三十代半ばくらいだと思う。

 渡された名刺には萩原水道設備と書いてあった。


「今日はご足労いただきありがとうございます」

「こちらこそ、いつもありがとうございます。さっそく見てみますね!」


 萩原さんは勝手知ったる感じで敷地内の水道を点検し始める。

 邪魔しちゃ悪いと思い、少し遠めに見守ること三十分。


「うーん……」


 萩原さんは難しい表情を浮かべていた。


「かなり酷い状態ですか?」

「原因は水道管の経年劣化ですね。赤サビや詰まってる箇所もある程度は特定できますから、その部分の水道管を交換すれば症状は治まると思うんですけど……」


 懸念を意味する言葉が続いて嫌な予感を覚える。


「問題のある個所だけ交換しても、他の場所も似たような症状が出るのは時間の問題だと思います。猫まみれは古い建物ですし、二年以上も放置されていましたから」


 案の定、萩原さんの口から語られたのは悪い結果。

 よく家は人が住まなくなると急速に傷むなんて話を聞くけど、萩原さん曰く水道管も同じらしく、今回のような赤サビの他にも様々な問題を引き起こすらしい。

 それにしても萩原さん、猫まみれのことに詳しいな。

 水道の場所も知っている感じだった。


「つまり、できる限り交換した方がいいってことですか?」

「はい。少なくとも給水管は全て交換でもいいくらいです」

「そうですか……」


 概ねウェブで調べていた通りの結果。

 あとは金額も調べていた通りかどうか。


「交換費用はどのくらいかかりそうですか?」


 萩原さんは難しい表情を浮かべて『そうですね……』と呟く。


「俺たちがすぐに用意いできるのは三十万円くらいです。それ以上かかるようなら、一括払いじゃなくて分割でお願いできると嬉しいんですけど……」

「正確な金額は見積もりをしてからですが……」


 萩原さんは少し考えるように視線を伏せた後。


「わかりました。三十万円で請け負います」

「「「「え——?」」」」


 まさかの一言にみんなの声が重なる。


「三十万円で給水管を全部交換してもらえるんですか!?」

「給水管以外にも給湯管、排水管の交換もやります」

「いや、それは……」


 喜びから一転、さすがに疑念を抱いてしまった。

 なぜなら、それだけの作業をすれば確実に三十万円を超える。

 いくら俺たちが素人とはいえ、色々なサイトで修理費用や見積もりのサンプルを見てきたから、その金額がありえないほど安いことくらいわかる。

 それで受けたら赤字じゃないにしても利益はないはず。


「俺たちは助かりますけど……でも、どうして?」

「これは私にとって恩返しなんです」

「……恩返し?」

「七々咲さんには生前、とてもお世話になっていたんです」


 萩原さんは思い出を懐かしむように儚げな瞳を浮かべて続ける。


「同業だった夫と離婚を機に独立したばかりの頃、仕事柄、女性というだけで仕事が取れなかったんです。そんな私に色々と仕事をくれて、お客様も紹介してもらって……猫まみれの水回りの修理が必要な時は必ず私に仕事をさせてくれたんです」


 だから猫まみれに詳しかったのか。


「仕事が忙しい時は子供を預かってもらったこともありますし、食べるのに困るほど仕事がなかった時は、ここで子供と一緒に夕食をご馳走になったこともある……感謝してもしきれません。少しずつお客様の信頼を得られるようになって、ようやく自分の力で食べていけるようになって、これから恩返しって時に……」


 萩原さんは下唇を噛み締める。

 その想いは想像に難くない。

 なぜなら俺たちと同じだったから。


「連絡をもらった時は驚きました。猫まみれのお世話になっていた子供たちが再建しようとしていると聞いて、久しぶりに胸が熱くなる思いでした。だから採算なんて度外視でいいんです。この仕事だけは、私が責任を持ってやり遂げたい」


 なんていうか……言葉がない。

 胸が熱くなるのなんて俺たちの方だ。

 俺たち以外にも猫まみれを大切に思う人がいてくれたことが嬉しくて仕方がない。だけど嬉しく思う気持ちがある反面、もどかしさも似た感情が湧き上がる。

 それは最近、心の片隅で思い続けていた複雑なもの。


「ただ、三十万円でいい代わりに条件があります」

「条件?」

「利益が出せない分、人手は割けないのでみなさんに手伝ってほしいんです。それと、他の仕事の空き時間に作業をすることになるので時間が掛かると思います。それでもよければ……私に任せてもらえませんか?」


 そんなの是非もない。


「もちろんです。よろしくお願いします」


 その後、みんなで今後の打ち合わせをしてから現地確認は終了。

 萩原さんを見送った後、俺は自分の不甲斐なさと向き合っていた。

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