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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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18話 莉乃の婚約者

 それ後、俺たちは激務に忙殺される時間を過ごした。


 初めて目の回る忙しさという言葉の意味を正しく理解した気がする。

 年始の神社が忙しいのはわかっていたけど、いざ神社側に立ってみると想像をはるかに超える忙しさで、途切れることのない参拝客の列に眩暈を覚えるほど。


 そんな中、群を抜いて活躍していたのは悠香だった。


 愛嬌いっぱい、にこやかな接客スマイルでお客さんを魅了する。

 参拝客一人一人と目を合わせて笑顔で挨拶をして、心地よい声のトーンとリズムで会話し、お守りを渡す時はきちんと両手を添えて最高の笑顔でお礼を伝える。

 接客業をしている人からすれば当たり前のことかもしれない。

 でも、当たり前のことを当たり前にできるのも才能。

 気づけば笑顔に魅了された男性の列が悠香の前にできる始末。

 しかも『健康祈願のお守りの他に、交通安全のお守りも一緒にいかがですか?』とお勧めし、笑顔に釣られた男性全員が二つ三つと追加でお守りを買っていく。

 お守りを添付販売する巫女さんなんて初めて見たんだけど……。


 特に神がかっていたのは子供への対応だった。

 子供に目線を合わせ、優しく接し、手を振って見送る姿は見ていてほっこり。

 まさに老若男女問わず接客で魅了する悠香を見ていて思う。


 ——猫まみれの接客担当は悠香以外に考えられない。


 こうしてお守りを売り続け、休憩を挟んで働き続けること八時間。

 定時の十七時まで残り一時間を切った十六時ちょっと過ぎ。

 ようやく参拝客の足が引き始めた。


「やっと落ち着いたね……」

「ほんと……まさに戦場って感じ」

「この忙しさが、あと三日も続くのか……」


 あまりの激務に虚無顔で零す俺たち。

 口から魂が出そうなほど疲弊しきっていた。


「預かった御朱印帳、担当の人に持っていかないと……」


 さすがの夏鈴も疲労の色を隠せない。

 御朱印長を手にふらふらしながら立ち上がる。


「俺が届けてくるから夏鈴は休んでな」

「うん……ありがと」


 夏鈴から御朱印帳の束を受け取って窓口を離れる。

 二人が疲れるのも無理はないよな……悠香はもちろん、夏鈴もお客さんに対して愛嬌いっぱい、全力で接客してれば肉体的には疲れなくても精神的に疲弊する。

 二人の疲労は適性が高すぎるが故にといったところ。


「みんなそれぞれ、強みがあるよな……」


 いつか猫まみれがオープンした時のことを思い描く。

 大勢のお客さんで賑わう店内で笑顔を振りまきながら注文を取る悠香。

 キッチンでは莉乃さんが腕によりをかけた料理を作り、夏鈴は持ち前の交渉力で地元の人たちや取引先を巻き込んで裏に表に猫まみれを切り盛りする。

 まさに適材適所、理想的な光景を想像しながらふと思う。


 ——俺にできることは、なにがあるんだろうって。


 ……わずかに胸が軋む音が聞こえた気がした。


「莉乃さん、御朱印帳の追加分です」

「はい。お預かりします」


 ちょうど手の空いていた莉乃さんに依頼する。

 せっかくなので書いているところを見せてもらうことに。


「見られていると緊張しますね」


 莉乃さんは御朱印帳を開いてページの中央に朱印を押すと筆を執り、流れるような筆さばきで社寺名である『春名神社』の文字と今日の日付を書き記す。

 力強くも美しい、まさに達筆と呼ぶにふさわしい文字。

 凛とした所作もあって思わず見惚れた。


「莉乃さん……めちゃくちゃ字が上手ですね」

「私などまだまだ。お恥ずかしいかぎりです」


 いやいや、謙遜にもほどがある。


「それに、ずいぶん書きなれた感じですね」

「以前、お手伝いで書いていたことがあるんです」


 それは俺にとって精一杯の踏み込み。

 だけど、莉乃さんがそれ以上を語ることはない。

 隣で待ち、書き終えた御朱印帳を受け取った時だった。


「莉乃さん——」


 どこか聞き覚えのある声が背後から響く。

 振り返るより早くも目の前にいる莉乃さんの表情が歪む。

 その視線の先には、前に猫まみれで会った好青年の姿があった。


「……樹君」


 名前に君を着けて呼ぶ関係性。

 それだけで親しい間柄なのが見て取れた。


「「あけましておめでとうございます」」


 丁寧な所作で新年の挨拶を交わす二人。


「自宅に伺ったところ、お父様から初詣のアルバイトに行っていると聞きました。うちの神社だとは思わなかったんですが、神主の一人から連絡をもらいまして」 

「そうだったんですね」


 気づけばいつもの穏やかな笑みを浮かべている莉乃さん。

 すると、気づいた悠香と莉乃が俺のところにやってきた。


「凛久……あの人は?」

「前に言った、猫まみれにいた知らない男の人」

「莉乃さんの知り合いだったってこと?」

「たぶん……そうらしい」


 俺は夏鈴の質問に頷いて返す。


「樹君が、どうしてこちらに?」

「もちろん新年のご挨拶をするためです」


 まるで恋人を見つめるように柔らかな笑みを浮かべる。

 誰もが只ならぬ関係を疑った瞬間だった。


「それと、婚約者の誕生日をお祝いするためです」

「「「婚約者——!?」」」


 彼が口にした言葉に耳を疑う。

 まさかの告白に驚きの声を上げずにはいられない。

 今日が莉乃さんの誕生日ということも初耳だけど、それ以上に衝撃的な単語が聞こえて頭の中がパニック状態。驚きと情報の多さに理解が追いつかない。


 当然、悠香と夏鈴も口を開けて絶句していた。

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