17話 三人の巫女服姿
社務所に着くと、すでに大勢のアルバイトの人たちが集まっていた。
担当の神主さんに挨拶を済ませると、各自衣装を受け取ってから更衣室へ向かい着替え終えた人から控室で待つようにとの指示を受ける。
着替えを済ませて控室に向かうと、まだ悠香たちの姿はなかった。
「女の子は準備に時間が掛かるよな」
特に着慣れていない巫女服だし仕方がない。
「巫女服か……ちょっと楽しみだな」
みんなの姿を想像しながら待つこと数分。
次第に現れる女性たちの中に三人の姿を見つけた。
「お待たせ!」
「遅くなってごめんね♪」
「久しぶりに着ると時間が掛かりますね」
目の前には巫女服に身を包んだ美少女たちの姿。
純白の上衣と緋色の袴が目を引く巫女の衣装。お腹の前で結んでいる蝶結びの帯がアクセントになっていて、伝統的な衣装だけど若い女性が着ると可愛らしい。
個人的には袴の裾から覗いている足袋も好き。
「りっくん、どうかな?」
夏鈴は俺の前でくるりと一回転してみせる。
ふわりと広がる袴と、一瞬遅れて弧を描く結われた髪。
もちろん似合っているのは言うまでもないんだけど、夏鈴が誰より先にアピールしてきたのは性格的な理由以外にもう一つ。
それは、俺が三人の中で得に夏鈴に目を引かれた理由と同じ。
「黒髪にするのは花女に入学する前だから九ヶ月ぶりかな?」
照れくさそうに言った通り、いつもの金髪ではなく黒髪だったから。
夏鈴曰く、面接は金髪のまま受けたそうなんだけど、さすがに髪色について相談されたらしく『事前研修までに黒くします!』と言って突破したらしい。
約束通り、夏鈴は年末の研修時から黒髪だった。
「よく似合ってる。やっぱり巫女といえば黒髪だよな」
「えへへっ……嬉しいな♪」
はにかみながら一本に結った黒髪をいじいじする夏鈴。
悠香と莉乃さんは初めて見る夏鈴の黒髪姿に驚いていたけど、子供の頃を知っている俺にとっては見慣れた姿で懐かしさを覚えずにはいられない。
俺が夏鈴に『真逆のタイプが好き』だと勘違いさせていなければ、きっとこれがあるべき姿だったんだろうなと思うと複雑だけど感慨深くもある。
図らずも夏鈴の黒髪姿に見惚れていると。
「凛久、私はどうかな!?」
悠香が横から夏鈴を押しのけてカットイン。
お尻で押された夏鈴は勢い余って視界の端へと消えていく。
いつにも増して元気いっぱい、天真爛漫な巫女も魅力的。
「もちろん、悠香も似合ってるよ」
「ふふふっ……ありがとう!」
でも、二人には申し訳ないけど一番は莉乃さんだと思う。
巫女とは古くから日本の神に仕える女性を意味し、現代においては神職を補佐する役を担っているわけだけど、それ故に古き良き日本の女性的なイメージが強い。
その意味で和風美人の莉乃さんが似合うのは言うまでもなく、その証拠に他のアルバイトの女性と比べても、立ち姿や所作の一つとっても美しさのレベルが違う。
最も巫女としての振る舞いが様になっていた。
「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいです……」
「すみません。つい……」
「「ぐぬぬぬ……」」
そんな俺たちを不満そうに見つめる二人。
「なんか今日の凛久、莉乃さんに夢中すぎない?」
「夢中っていうか甘いっていうか、ずるくない?」
「そ、そんなことないだろ!」
いつも二人の方がべったりしてくるのに、ちょっと莉乃さんと手を繋いだり褒めたりするだけでずるいとか言うのは勘弁してほしい。
なんて言い返したら火に油。
二人を宥めているとアルバイトの人たちが着替え終えて全員集合。
神主さんから順番に持ち場を伝えられ、あとは研修で教えられた仕事をこなすのみ。俺たちは社務所の窓口でお守りの販売や御朱印長の受付をすることに。
さっそく移動しようとした時だった。
「あなたは……七々咲さんではありませんか?」
社務所内にいた初老の神主さんが莉乃さんに声を掛けた。
「やはりそうだ。今年は来ていただけたんですね」
柔らかな物腰で表情を和らげる神主さん。
「三年……いえ、四年振りでしょうか。もう来ていただけないと思っていました。宮司も喜んでおられることでしょう。もう挨拶はされましたか?」
「いえ……今年はお手伝いではなく、アルバイトに応募したお友達の付き合いで来ているんです。以前とは事情が違いますし、宮司はお忙しいことでしょうから、お邪魔するのもご迷惑かと思い挨拶は控えようと思っていたところです」
「そうなのですね」
神主さんは察した様子で頷く。
「わかりました。いずれにしても、七々咲さんがいてくださるのは頼もしい限りです。そうだ、せっかくですから以前のように御朱印長の記入をお願いできますか?」
「わかりました。お引き受けします」
話がつくと莉乃さんは振り返る。
「莉乃さん、こちらの方は——」
「そういうことなので、みなさんとは別行動です」
尋ねようとした俺の言葉を遮る莉乃さん。
「……わかりました。頑張ってください」
「ありがとうございます。それではまた」
そう言って神主さんと共に奥へ向かった。
「莉乃さん、ここで働いたことがあるのかな?」
「神主さんと知り合いっぽい感じ?」
二人の言う通り、あの口ぶりからして面識があるのは明らかだろう。
詳しく聞きたかったけど、聞いても莉乃さんは多くを語らない気がした。
莉乃さんの性格的にアルバイト先に知り合いがいれば紹介してくれそうなものなのに、まるで俺たちから遠ざけるようとしていると思うほど事務的な対応だった。
ふと、クリスマスの時に見せた浮かない表情を思い出す。
アルバイト先が春名神社と聞いた時の顔が頭から離れなかった。




