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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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16話 菫さんのおみくじ結果

「りっくん、こっちこっち!」


 過去に想いを馳せていると夏鈴の声が聞こえて我に返る。

 顔を上げると列の最後尾で手を振っている姿が目に留まった。


「行きましょう」


 みんなのもとへ向かおうと一歩を踏み出す。

 だけど、莉乃さんはその場に立ち尽くしたまま。

 振り返ると莉乃さんは口元に手を当てて息を呑んでいた。


「どうかしましたか?」

「いえ……なんでもありません」


 莉乃さんは首を横に振ると笑みを浮かべ直す。

 なんだか少し嬉しそうに見えるけど……気にせずみんなのもとへ向かう。すると莉乃さんとは対照的に、悠香と夏鈴が苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


「二人共、どうかしたのか?」

「どうかしたのかって……」

「来るのが遅いと思ったら……」


 二人の視線を追って自分の手元を見て気づく。

 最後の門を抜ける前から莉乃さんと手を繋いだままだった。


「ちょ、違うんだ。これは——」


 言い訳しつつ慌てて手を放そうとする。

 だけど手を開いた瞬間、再び莉乃さんに捕まれた。


「……莉乃さん?」


 渡さないとでも言わんばかりに強く握りしめる莉乃さん。

 いつも控えめで、いつも一歩引いて悠香と夏鈴に譲っている莉乃さんがみせる初めての自己主張。驚く二人をよそに微笑む浮かべる姿はやっぱり嬉しそうだった。


「大丈夫。まだ左手が空いてるから!」

「ここはフェアにじゃんけんで決めるわよ!」


 こうして再び開催される俺の手とポケットの争奪戦。

 新年早々、恋する乙女の嫉妬深さを痛感しながら待つこと二十分。

 俺たちの順番が回ってきた。


「さあ、お参りしよう」


 みんなで一列に並び、口を閉じて襟を正す。

 お賽銭を入れて二礼二拍手一礼、お辞儀をしてから手を合わると、ゆっくりと瞳を閉じて心の中で願い事を思い浮かべる。


 ——今年も全員、怪我なく再建活動を進められますように。


 今年も色々あるだろうし、なんなら現在進行形で問題も起きているけど、誰一人欠けることなく猫まみれの再建活動を続けていくことが俺の願い。

 それと……お願いする前に破られてしまったけどもう一つ。

 今年は悠香と夏鈴が仲良くしてくれますように、どうか何卒……。

 ひと通りお願いを終え、目を開けて四人の様子を窺う。


「みんな、もう大丈夫か?」

「「「うん」」」


 頷いたのは三人で、まだ菫さんがお祈り中。

 その表情は鬼気迫る勢いで一人だけ本気度が別次元。


「よし……完璧だ。今年こそは脱独り身。祝結婚!」


 なにをお願いしたのかはあえて聞かないでおく。


「さて、参拝も終えたし次はアルバイトだけど」


 スマホで時刻を確認すると集合時間の八時まで三十分くらいある。

 少し早いけど集合場所の社務所に向かおうかと話していると、菫さんが『その前におみくじを引こう!』と言い出したので、せっかくだから引きに行くことに。

 本殿を後にして社務所の隣にあるおみくじ売り場へ向かい、置いてある箱にお金を入れて一枚ずつおみくじを引いたんだけど。


「……あれ?」


 我先におみくじを開いた夏鈴が首を傾げた。


「ねぇねぇ、なにも書いてないんだけど……」


 夏鈴が不思議そうに首を傾げる通り真っ白なおみくじ。

 正確には『出産・縁談・恋愛・願望・方角・幸運色・職業・学問・旅行・病気』など十種類の項目は記されているんだけど肝心のメッセージが書いてない。

 それどころか『大吉』や『中吉』の文字すらなかった。


「本当だ……私のも書いてない。印刷ミスかな?」


 夏鈴と一緒に頭に疑問符を浮かべる悠香。

 そんな二人を見て、ここのおみくじが少し変わった仕様なのを思い出す。

 初めて春名神社に来た二人が知らないのも無理はない。


「みんな引いたな。では行こうか」


 俺たちを率いて参道を引き返す菫さん。

 その後を少し心配そうについていく悠香と夏鈴。

 すっかり日が昇り、どんどん増えていく参拝客の流れに逆らって訪れたのは参道の一画。湧水が注がれている手水舎のような場所だった。


「「御神水開運おみくじ……浸し場所?」」


 二人仲良く声を揃えて立て看板の文字を読む二人。

 そこには詳しい説明とともに『おみくじを御神水に浸してください。文字が浮かび上がります』と書かれていた。


「なにこれ。面白そう!」


 さっそく悠香はおみくじを水に浸す。

 数秒すると空白に『大吉』の文字とメッセージが浮ぶ。


「わたしもやる!」


 続いて夏鈴も浸すと同じように『大吉』の文字が浮かんだ。


「「やったね♪」」


 縁起の良い結果にハイタッチしながら喜ぶ二人。

 俺と莉乃さんも水に浸すと、莉乃さんは『大吉』で俺は『吉』だった。

 ちなみに項目別でみると体調に不安のある悠香の病気欄は『心配なし。しかし怠るな』とあり、勉強を頑張っている夏鈴の学問欄は『安心して勉強せよ』で、猫まみれの再建を目指す俺の職業欄には『他人の助けに感謝すれば望み叶う』とあった。

 概ね問題なく、みんな良い年になりそうでひと安心。


 ただ少し気になったのは莉乃さんのおみくじ。

 大吉だし項目別にもほとんど良いことが書いてあるんだけど——縁談の欄に『他人の妨げあり。注意せよ』と、ここだけ微妙な言葉なのが気になった。


「おみくじも引いたし、そろそろ——」

「なぜだぁ!」


 社務所へ向かおうと言いかけた瞬間だった。

 菫さんが人目も憚らず悲鳴を上げながら崩れ落ちた。


「ど、どうしたんですか?」


 隣にしゃがみ込んで様子を窺う。

 絶望的な表情を浮かべる菫さん傍には『末吉』と書かれたおみくじが落ちている。てっきり『大凶』でショックを受けたんだと思ったけど違うらしい。


 じゃあ、どうして?


「「「「ああ……」」」」


 原因と思われる恋愛の欄を見て思わず納得。

 そこには『出会いなし。諦めよ』と書いてあった。


「やはり私には凛久しかいない。結婚してくれ!」


 慰めの言葉を掛けるより早く新年一発目の求婚をされる俺。


「マッチングアプリをいくつも駆使し、それなりに多くの男性とデートを重ねたことで改めて実感したんだ……どいつもこいつもワンチャン狙い。交際をチラつかせた瞬間に音信普通になりやがる。やはり私のことを最も理解してくれているのは凛久だということに。私を幸せにしてくれる男は凛久をおいて他にはいない!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」


 今にも抱き着いてきそうな菫さんの前に両手を広げて制止する。


「おみくじはあくまで占いですから、必ずしも書かれている通りになるとは限りません。良くない結果だからといって悲観するにはまだ早いですって!」


 ていうか、おみくじの結果にしては辛辣すぎる。

 内容を考えた人に心はないんだろうか?


「なにも悲観して凛久に迫っているわけじゃない。これは言わば、新しい出会いはないから今ある縁を大切にしろという神の啓示。つまり凛久にしろと!」

「なんでそんなところだけポジティブなんですか!?」


 恐怖を覚えるほどに鬼気迫る勢いの菫さん。

 興奮した闘牛のように低姿勢で抱き付いてくるのを交わしたのは防衛本能だと思う。執拗に迫りくる菫さんをマタドールよろしく紙一重で交わす俺。

 なぜか周りの参拝客から歓声と拍手が巻き起こる。

 新年によく見るパフォーマンスと勘違いしないでほしい。


「もはや三人のうちの誰とも結ばれなかったらなどという悠長なことは言っていられない。今すぐ山を下りて近場のホテルへとしけこもう。一度でも抱いてくれれば私の良さをわかってもらえるはず。騙されたと思って一発たのむ!」

「いやいや、順番がおかしいですよ!」

「大人になれば順番が逆のことなんて珍しくない。むしろ付き合う前に身体の相性を確かめる者も少なくない。さぁ、今すぐ姫始めといこうではないか!」


 その価値観は否定しないけど公衆の面前で言っている時点でただの痴女。

 相変わらず貞操逆転世界のヒロインみたいに肉食すぎる菫さん。

 そんなことをしている間に刻一刻と迫る始業時間。

 もう社務所に向かわないとまずい頃合い。

 藁にも縋る思いでいた時だった。


「片品君、さっきからなにをしているんだね?」


 怒気の滲む声が聞こえて振り返る。

 そこには我が花崎高校の校長先生の姿があった。


「こ、校長が……なぜここに?」

「なぜもなにも初詣だが?」


 菫さんは軍人よろしく最敬礼を持って敬意を表す。


「さ、左様ですか。あけましておめでとうございます!」

「あけましておめでとう。それで、なにをしていたんだね?」

「えっと……それは、ですね……」


 さすがに教え子の童貞を奪おうとしていたなんて言えない。

 言えないからといってバレないかといえばそんなことはなく。


「詳しい話は別の場所で聞こうじゃないか」

「ちょ、待ってください。凛久、助けて——!」


 首根っこ掴まれて連行されていく菫さん。

 少し可哀想だけど……現行犯すぎて助けようがない。

 そんなこんなで菫さんを見送ってから社務所へ向かった。

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