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【書籍発売中】あの日の恋(×3)が終わってくれない!~思い出の美少女たちと再会したら、恋の続きが始まりました~  作者: 柚本悠斗@小説家
三章 七々咲莉乃

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8話 猫酔い

「ふふっ。なんだか良い気分になってきました♪」


 どうやら幻聴でも気のせいでもなかったらしい。

 そう言って表情を蕩けさせる莉乃さんは、いつもの穏やかな姿からは想像できない陽気さに溢れていて、とても同一人物とは思えない変貌ぶりに驚きを隠せない。

 あまりの違いに心配する俺をよそに本人は楽しそう。


「莉乃さん、大丈夫ですか?」

「だいじょーぶ。だいじょーぶ。ふふふっ♪」


 うつろな瞳で上半身をゆらゆら揺らす莉乃さん。

 いや……どう見ても大丈夫じゃないと思う。


「……もしかして、また酔ってます?」


 ふと思い出したのは、これまた少し前の記憶。

 以前、莉乃さんと久しぶりに猫の集会に参加した時の話。

 いつもの如く莉乃さんは猫を吸いまくっていたんだけど、その日はネコチン(菫さん曰くニコチンならぬネコチン)が切れていたようで、片っ端から猫吸いしまくり摂取していたんだけど……なにごとも程々がいいとはよくいったものだよな。

 まるでお酒を飲んだかのように酔っぱらってしまった。


 そう、さながらマタタビに酔う猫のよう。


 猫にマタタビは適度に与える分にはリラックス効果があるけど、与えすぎると酔ったみたいに興奮するように、莉乃さんにとっての猫も吸いすぎると酔うらしい。

 その証拠に、吸えば吸うほど酔いが回ってハイテンション。


 呂律が回らなくなり、とろんとした瞳で俺を見つめる。

 いや、それにしても酔うのが早いし酷くない?


「りっひゃんもぉ……吸っていいれすかぁ?」

「お、俺もですか——!?」


 まるで獲物を狙う女豹のようなポーズで迫る莉乃さん。

 そういえば豹もネコ科だよなって余談はさておき、もはや清楚な和風美人の面影は一切なく、夏鈴も顔負けの妖艶さと菫さんも全裸で逃げだす肉食系女子。

 いろんな意味で食べられちゃいそう。


「だめ……れすかぁ?」

「ダメってことはないんですけど……」

「じゃあ、いただきまふ……♡」

「ちょ、ちょっと待って——!」


 完全に出来上がっている莉乃さんが俺の制止を聞くはずもない。

 俺の股の間に膝をつき、まるで逃がさないとでも言わんばかりに俺の胸に両手を添えて身体を預け、蕩けるような表情を浮かべて縋りついてくる。


 個室内に漂うピンク色をした空気。

 触れ合う身体から伝わる温もり。

 今にもなにかが起こりそうな予感。


 そんな空気にあてられて抗うこともできない。

 莉乃さんは俺の首元に顔を近づけて深呼吸を繰り返す。


「すうぅ……はぁ……」

「くはっ——!?」


 咄嗟に手を口に当て、声を上げないように堪えながら息だけ漏らす。

 首筋に吹きかけられる甘い吐息に背筋がゾクゾクすると同時に、雷にでも打たれたような衝撃が全身を駆け巡った後、頭の中が痺れるような疼きに襲われる。

 辛いのに嬉しく、気持ちいいのに切ないようなちぐはぐさ。

 それでもやめてほしくないと思う矛盾した感情。


「りっちゃんも……素敵な匂いがしまふ……」


 いったいどれくらい我慢していたんだろう。

 一分か五分間か十分か、はたまた三十分か。

 ダメだ、これ以上は理性が溶ける——!


「莉乃さん、もう——あれ?」


 莉乃さんの肩を掴んで引き離そうとした時だった。

 不意に莉乃さんの身体から力が抜けて重みが増す。


「……莉乃さん?」


 そっと顔を覗き込む。

 すると瞳を閉じて小さく息をしていた。


「まさか……寝てる?」


 まるで遊んでいる途中にスイッチが切れた子猫のよう。

 莉乃さんは幸せそうな笑みを浮かべたまま寝落ちしていた。


「そういえば、朝まで洋服を選んでたって言ってたな……」


 今にして思えば、妙にテンションが高かったのも、猫を吸いまくっていたとはいえ酔うのが早かったのも寝不足が原因だったんだろう。

 寝不足の理由が自分だと思うと、このままゆっくり眠らせてあげたいと思うんだけど……そうも言っていられない理由が二つある。


 一つはご覧の通り、莉乃さんに密着されていること。

 俺に全身を預けている莉乃さんを支えているこの状況。少しでも動けば莉乃さんを起こしてしまうから身動きが取れず、むしろ抱きしめていないといけない。

 なによりヤバいのは女の子特有の柔らかさと甘い香り。


 もう一つは、ここが完全な個室ではないこと。

 気づけば個室内にいる猫が増えているように、ここは半個室。天井もないから覗こうと思えば他のお客さんや店員さんが好きに中を覗けてしまうこの状況。

 さながらネカフェでイチャついているカップルの気分。

 こんな姿を人に見られたら言い訳の余地もない。


 なんて思ったのがフラグだったのかもしれない。


「「あっ……」」


 不意に重なる視線と声声。

 前を通りがかった女性店員さんと目が合ってしまった。


「お客様、大変申し訳ありませんが、そういうことは他の場所で……」

「違うんです! そういうんじゃないなくて……本当にすみません!」


 莉乃さんを起こさないように小声で、でも必死に言い訳する俺。


「んん……いい匂い……」


 気まずそうに苦笑いをしながら去っていく女性店員さんをよそに、莉乃さんは天使のような穏やかな寝顔を浮かべていた……本当、ごめんなさい。


 その後、莉乃さんが目を覚ましたのは三十分後。

 ひと眠りしたおかげで酔いは醒めたようなんだけど、シラフに戻った莉乃さんが自分の状況を見て驚かないはずもなく、床に三つ指ついて謝られた。

 何度大丈夫と伝えても繰り返されるお詫びの言葉。

 羞恥のあまり顔を赤くしている莉乃さんには申し訳ないけど、今日は莉乃さんの新しい一面をたくさん知ることができたから気にしないでほしい。


 まぁでも……人目のある場所でよかったと思う。


 女性店員さんの注意じゃないけど場所が場所なら我慢できた気がしない。

 少しだけ残念に思いながら、俺たちは猫カフェを後にする。

 今後は莉乃さんが猫を吸いすぎないように注意しよう。

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