4話 まさかの遭遇
「さて、どうするか……」
翌週、クリスマスを数日後に控えた日曜日のお昼過ぎ。
年内最後の再建活動を終えた俺は地元の百貨店に来ていた。
理由は言うまでもなく、クリスマスプレゼントを買うため。
あの後、みんなでお昼を食べながらパーティーについて相談し、イブの夜に猫まみれに集まってケーキを食べ、その後にプレゼント交換をしようという話になった。
今年は二十五日から冬休みだから夜遊びするにはちょうどいい。
となると、平日は学校があるからプレゼントを買いに行く時間はなく、あるとすれば日曜日の今日をおいて他になく、慌てて買いに来て今に至るんだけど。
「高校生が百貨店に一人で来るのはハードルが高いよな……」
店内にいるのは大人ばかりで特に女性が大半。
男子高校生が気軽に遊びに来るような場所じゃない。
だったら夏鈴の誕生日プレゼントを買った時みたいにショッピングモールに行けばいいのにと思われそうだけど、ショッピングモールを避けたのには理由がある。
それは、悠香や夏鈴とばったり会う可能性があるから。
俺が今日しか空いていなかったように、悠香たちもプレゼントを買いくなら今日の可能性が高く、だとすれば行先はショッピングモールだろう。
特に莉乃さんは何気なく話していた時にプレゼントを買ったか聞かれ、今日買いに行く予定だと伝えると『私も日曜日に買いに行きます』と言っていた。
別に会っちゃダメというわけじゃない。
だけど、できればプレゼントはサプライズがいい。
そんなわけでバッティングを避けようと百貨店に来たものの。
「なにを選んだらいいんだろう……」
かれこれ一時間ほど婦人雑貨売り場を回りながら頭を悩ませている。
夏鈴の誕生日プレゼントは雑貨屋でピアスを眺めている姿を見ていたから困らなかったけど、ほぼ女の子にプレゼントをした経験がない俺には難しすぎる。
しかも今回は四人でプレゼント交換ときたもんだ。
つまり、女子三人の誰に俺のプレゼントが当たるかわからないわけで、誰が受け取っても喜んでくれるものを選ぶとなると完全にお手上げ状態。
まぁ三人分用意するよりはマシだけど。
「本当、どうしよう……」
まさにクリスマス商戦真っただ中。
クリスマスの定番BGMが流れる中、煌びやかに飾り付けられた店内で仲良くディスプレイを眺めている恋人たちを眺めながら独り溜め息を漏らした時だった。
「……りっちゃん?」
「えっ——」
聞き慣れた穏やかな声が耳をくすぐる。
俺をりっちゃんと呼ぶのは今も昔も一人だけ。
「莉乃さん?」
声の先に視線を向けると私服姿の莉乃さんが立っていた。
ゆるめのニットにロングスカートを合わせた上品なコーディネート。
冬らしい落ち着いた色合いの着合わせと、莉乃さんにしては珍しい明るめのメイク。普段の和風美人な印象とは対照的にお洒落な雰囲気を漂わせている。
まさに和洋折衷という言葉がふさわしい装い。
「りっちゃんもお買い物ですか?」
いつもと違う姿を前に、掛けられた言葉が右から左へ抜けていく。
なんだろう……いつも以上に清楚な感じで図らずも見惚れる。
ギャップという言葉の意味を初めて理解した気がする。
「……りっちゃん?」
「ああ、えっと——!」
心配そうに俺の顔を覗きこむ莉乃さん。
今にもキスしそうな距離感に我に返った。
「すみません。今日の莉乃さんが綺麗すぎて聞いてませんでした」
「えっ……」
莉乃さんは沸騰したやかんよろしく顔を赤くする。
瞬間、自分が迂闊なことを口走ったことに気づいて焦り散らかす。
「違うんです——いや、違くはないけど違うんです!」
いつも悠香や夏鈴に服装の感想を求められてきたから、女性の私服姿を見たら褒めるのが癖になっているというか、反射的に口走るようになっているというか。
綺麗だと思ったのは本当だけど伝える相手を間違えたっていうか。
チャラそうに聞こえるかもしれないけど下心はないんです。
そんな言い訳を必死にしていると。
「そんなに慌てなくて大丈夫ですよ」
「本当、変なこと言ってすみませんでした」
「むしろ、りっちゃんに褒めてもらえて嬉しいです」
莉乃さんは照れくさそうに『ありがとうございます』と口にする。
ほっと一息、安堵のあまり全身の力が抜けて息が漏れた。
「改めて、りっちゃんもお買い物ですか?」
「はい。実は……クリスマスプレゼントを買いに来たんです」
夏鈴や悠香と会うのを避けようとしていた手前一瞬迷う。
だけど、莉乃さんなら悪いようにはしない思い話すことにした。
「本当はショッピングモールに買いに行こうと思ったんですけど、みんなと会うかもしれないと思って避けたんです。まさか莉乃さんに会うとは思いませんでした」
「なるほど。そうだったんですね」
「莉乃さんもプレゼントを買いにここへ?」
「はい。お互いに考えることは一緒のようですね」
驚く俺とは対照的に、莉乃さんは落ち着いた様子で穏やかに微笑む。
つまり、莉乃さんもみんなと会うのを避けようと百貨店を選んだらしい。
お洒落な装いもお出掛け仕様といったところだろう。
「よかったら一緒に選びませんか?」
「え、いいんですか?」
それは願ってもない申し出だった。
「正直に言うと、かれこれ一時間も悩んでいて……莉乃さんにアドバイスしてもらえるなら助かります。この時期に男一人で買い物してるのは居心地も悪いので」
「ふふっ。では一緒に選びましょう」
「ありがとうございます!」
こうして、さっそくプレゼントを選び始める俺たち。




