エピローグ
花女の学園祭が終わった翌週、秋が深まってきた十一月。
今日も今日とて猫まみれに集まり掃除に精を出していた午後。
「人が彼氏を探しているうちに、夏鈴とも答え合わせを済ませているとはな」
店内は女子三人に任せて庭の掃除をしていると、不意に菫さんに声を掛けられた。
いつものように縁側に腰を掛けると電子タバコを取り出して一服し出す。
「だから、猫まみれは禁煙だって言ってるじゃないですか」
手に持っている電子タバコからスティックを引っこ抜く。
「悪いな。これも全て彼氏探しが上手くいかないせいだろう」
「辞めた方が、彼氏ができるような気がしますけどね……」
「わかってはいるが、思い通りにいかないのが恋というものだ」
めちゃくちゃ自覚があるから、そう言われると返す言葉が見つからない。
ていうか、夏休み前に似たような話をした覚えがあるのは気のせいだろうか?
「タバコの代わりに猫で我慢してください」
「ああ。これはこれで悪くない」
タバコの代わりにわたあめを差し出した記憶もある気がする。
そんな既視感というかデジャブはさておき。
「まさか菫さんが夏鈴に入れ知恵をしていたとは思いませんでしたよ」
「入れ知恵とは人聞きが悪いな。私は恋愛相談に乗ってやっていたにすぎない」
「小学四年生の女の子に、男は自分にだけエッチな女の子が好きとか教える恋愛相談なんて聞いたことないですよ……」
真に受ける夏鈴も夏鈴だとは思うけど。
「なにも嘘を教えたわけじゃない。それに、そのおかげで凛久は今になっていい思いをしたんだ。感謝されればこそ、文句を言われる覚えはないぞ」
それはそう。
その点については感謝している。
心の底からありがとうございました。
「それで、二つ目の叶わなかった恋の答え合わせをした感想は?」
「そうですね……事情は違えど、悠香の時と一緒だったんだと思います」
つまり、失恋したと思っていた俺と、恋をし続けていた夏鈴の違い。
夏鈴を傷つけたと思い罪悪感を覚えていた俺と、傷つけられたと思うどころか、好みのタイプを知られてよかったと思い努力し続けていた夏鈴。
そりゃ違って当然だよな。
「子供の頃の失恋なんて、案外こんなものなのかもしれませんね」
「確かに、全てが全てとは言わないまでも、ちょっとしたすれ違いや勘違いで結ばれることなく終わった恋は多いだろうな。ましてやそれが初恋ならば」
本当、答え合わせができた俺だからこそ実感している。
そして、そんな機会を得られた自分が幸せだとも思っている。
「さて、叶わなかった恋の答え合わせは残すところあと一つ。当然、向き合う覚悟はできているんだろう?」
「はい——」
俺とキッチンで昼食の準備をしている莉乃さんに視線を向ける。
告白できなかった後悔と、傷つけた罪悪感は晴れ、最後に残ったのは一つの疑問——俺はあの日、莉乃さんに拒絶された理由を知りたいと思っている。
「再会した頃に比べていい顔をするようになったじゃないか。せいぜい頑張れ男の子——昔からおまえたちを知る一人として恋路を応援している。そして誰とも結ばれなかった暁には、是が非でも私と付き合ってもらうじゃないか!」
嬉々として語る菫さんを前にうなだれる。
「……三割冗談でしたっけ?」
「いやいや、今は一割冗談だ」
「ほぼ本気じゃないですか!」
「この夏、本気で出会いを探して気づいたんだ。この世に男は星の数ほどいるが、やはり凛久以上に私を理解してくれている男はいない。もし凛久が三人から振られた時は、失恋したもの同士仲良く傷を舐め合おうではないか!」
どうかそんなことにはならないようにと願わずにはいられない。
まぁでも、それはそれで楽しいような気もするけど。
「りっちゃん、お昼の用意ができました」
エプロン姿の莉乃さんが呼びに来てくれた。
「ありがとうございます。今行きます」
俺は菫さんと一緒に店内へ。
気づけば十一月、紅葉が見頃を迎える秋真っただ中。
暑さも落ち着き、冬の足音が近づいていた。




