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MAIDes―メイデス―メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で、最弱クラスのまま人類最強に。  作者: 有郷 葉


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60 [ユイリス]軍神、軍師から託される。


 現在のこの世界には突出した国が存在しない。つまり乱世はまだまだ続くということ。


 そこで私達のトラドネザム王国は、他国を一切侵略せず、攻めくる敵は徹底して跳ね返すことにした。防衛するにあたっては、自軍の被害を最小限に止めるのはもちろん、敵軍の被害も可能な限り抑える。

 敵兵の命を助けるのは、これ以上の恨みを買わないようにするため。兵の一人一人に何人もの家族がいて、それらが集まって国民感情となる。これは王や貴族であっても無視できず、いずれ私達との停戦に応じざるをえなくなるだろう。


 そうしてトラドネザム王国はひたすら時が過ぎるのを待つ。戦乱の世を終わらせられる国が現れるその日まで。


 というのがブライアン様の立てた計画なんだけど、私は少し疑問に思う部分があった。


「私、この八年で何万人と殺めていますから、かなりの恨みを買っていますよ」

「別に敵国にトラドネザムを好きになってもらう必要はない。攻めてきたくなくなるなら恐怖でも何でもいいんだ。人の恨みはそう簡単に消えんしな。それに国民感情うんぬん以前に軍自体が動かせなくなるだろう。誰も兵を指揮したがらなくなるし、腕の立つ者も戦場に出たがらなくなる」

「真っ先に狙撃されますからね」


 どうやら色々と考えてあるようだし、私は今の戦い方を続ければそのうち本当に敵は来なくなるんだろう。やはり天才軍師が練った策なだけはある。

 そのブライアン様は私の顔をじっと見つめていた。


「全てはシェリルがこれまで散々暴れ回って、力を見せつけてくれたおかげだ」

「やらせたのはあなたですけど」

「お前の若さも相手が折れる要因になる。この先、何十年も軍神として立ちはだかるわけだからな」

「そんなに長く国を守護したくないですけど」

「ふふ、頼んだぞ。……もし、俺にもう少し時間が残っていたなら、シェリルと共にこの乱世を終わらせることを目指せたかもしれんが」

「案外それくらいの時間はあるんじゃないですか? ブライアン様は直接戦うわけじゃありませんし」


 老紳士は私の言葉には返事をせず、ただ微笑みだけを湛えていた。それから、ソファーの背もたれにゆっくりと体を預ける。


 急に動きが緩慢になったわね。やっぱり体、どこか悪いのかしら?

 ブライアン様は空中に視線を向けたまま話しはじめた。


「……少し、俺の昔話を聞いてくれないか? もう何十年も人に話していなかったことだ」

「謝罪も受けましたのでもう帰っていただいても……、まあ聞きましょうか?」

「俺は、代々とある貴族に仕える家系の生まれだ。子供の頃から屋敷で働いていた俺は、どうにかその貴族の令嬢付きの執事になりたかった。何とか彼女の目に留まろうと頑張った結果、……当主の目に留まって見込みがあると軍の士官学校に入れられてしまった」

「あらまあ、お気の毒に。才気がありすぎたんでしょうね」

「うむ……。ともかく俺は目標を、軍内で出世して令嬢の婚約者になることに変更した。学校を卒業して間もなく、運よく成果を出すことができた俺は、当主に気に入られていたこともあって彼女の婚約者に選ばれた」

「そうですか、よかったですね」

「だが、結婚を翌月に控えたある日、令嬢は当主と共に他国の刺客によって暗殺された」


 また適当な相槌を打とうとしていた私は、突然の展開に言葉を飲みこんだ。目を向けるとブライアン様は変わらずに淡々とした様子で語り続けている。


「それからは軍略家としての仕事が復讐になった。令嬢達を暗殺した者達を殺し、彼らの国を滅ぼし。天才軍師なんて呼ばれるようになったが、俺は何一つ得た実感がなかった。だから、それからもひたすら復讐を続けている。この世界に対して、な」

「……いつになったら、その復讐は終わるんですか?」

「おそらく終わりは来ない。なので、今日をもってやめる」


 今日をもって……?

 いつの間にかブライアン様は目を閉じていた。そのまま静かな呼吸と共に、穏やかに言葉を紡ぐ。


「……結局俺は、彼女の執事になって、その笑っている顔を隣でただ見ていたかっただけなんだろう……」


 ……軍略の天才と謳われた方の本当の願いが執事になることだったなんて、国民が知ったら驚くわね。でも、最後に自分の本心が分かってよかったんじゃないかしら。


 …………。……そうだ、さっきからずっと感じていた違和感の正体はそれだわ! まるでもう……!

 ちょっと待って!


 慌てて感知してみると、ブライアン様の体を巡っていた魔力が消えていくのが分かった。


「嘘でしょ……」


 ……本当にもう時間は残っていなかったんだわ。いえ、すでに尽きていた。魔力で無理矢理体を動かしていたのね。


 応接室の扉が開き、アリエルがお茶のおかわりを持って入ってきた。


「あれ、ブライアン様お眠りになったの?」

「……ええ、永眠なさったわ」


 その知略をもって戦乱の世で国を守り続けた軍師は、未来を私に託してこの世を去った。






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― 新着の感想 ―
これ、国の現状を維持して来た内政の柱の人がいなくなって危ういのでは
些細な願望が原点だったのが戦乱の中で国を維持する立場になったか。。。。
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