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ゼクス魔導工房の異世界ギャンブル配信 ―異世界をギャンブル漬けにする救済の物語―  作者: ituswa


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第27話:連鎖する自尊心と国家の代理戦争

ゼクス魔導工房の最深部。受像水晶が放つ熱波は、室内の魔導冷却回路を微かに鳴らしていた。アステリア王国が「重賞」という定義を盤面に放り込んだことで、その波紋は国境という境界線を越え、隣接する諸国の自尊心に火をつけていた。


「……なるほど。一つの正義が定義されると、それを否定しなければ気が済まない勢力が勝手に集まってくる。人間の感情というものは、本当に効率の良い燃料ですね」


ゼクスは手元のコンソールを指先で叩き、新たな報告を読み上げた。


アステリア王国の参戦を「伝統の独占」と受け取ったのは、北方の軍事大国ヴァルガ帝国だった。冷徹な将軍たちは、アステリアの貴族たちが守り抜いてきた血統を温室の飾りと断じ、即座に反発の意志を表明した。


「軍事境界線の冷気を吸い、氷の上を駆けてきた我ら帝国の軍馬こそが、真の強者であることを知らしめるべきだ。血統書など、実戦を知らぬ者の気休めに過ぎん」


ヴァルガ帝国は、軍部が誇る頑強な騎馬群から、厳しい選別を勝ち抜いた精鋭をアグライアへ送り出すことを決定した。彼らの目的は配当金による蓄財ではない。アステリアの貴族たちが信奉する格式を、暴力的なまでの脚力で粉砕することにある。


この動きは、さらなる連鎖を呼んだ。


大陸随一の富を誇るフェルディナ商盟の豪商たちは、私財を投じて各地から集めた快速馬を次々とエントリーさせた。これに呼応するように、セレスティア教皇国の高位聖職者たちも、神の加護を受けたと称する白銀の毛並みを持つ駒を盤面に並べた。


「いいですよ。国家の威信、軍の誇り、商人の財力。これらすべてが、この草原という一点で衝突する。私が用意したかった舞台が整いつつあります」


ゼクスは不敵に口角を上げ、鉄箱に組み込まれた通信術式を最大出力で稼働させた。


「さて、各国の動向を切り離しておくのはもったいない。大陸全土の鉄箱を共鳴させましょうか。王都アステリアでの熱狂が、ヴァルガの最前線へ。帝国の軍靴の音が、フェルディナの商館へ。一箇所の揺らぎが世界を揺らす、大陸規模の術式同期です」


ゼクスが術式を起動すると、各地の広場に設置された鉄箱から、天を突くような光の柱が立ち昇った。


これにより、アステリアの貴族が投じた白金貨が、リアルタイムで帝国の鉄箱の配当を跳ね上げ、商盟の豪商が積んだ金貨の山が、教皇国の聖職者たちの脳を焼く。


配当金は、もはや商人一人が大事業を成功させた際の色を塗り替えるほどの規模へ膨らんでいた。それは各国の有力者が、自らの正しさを証明するために追加の投資を加速させるのに十分な、重みのある金塊のうねりだった。


「さて、観客の皆さんは、もう自分の意思で止まることはできないでしょうね」


ゼクスはモニター越しに、各国が雇い入れた解析班の様子を観測した。


アステリアの貴族たちは血統の理から勝ち馬を導き出そうとし、ヴァルガの将軍たちは筋肉の収縮率を数値化して勝者を断定する。商盟は過去の全ての競走結果を統計的に処理し、教皇国は星の巡りと神託から正解を導き出した。


彼らは一様に確信していた。自分たちの分析こそが、唯一の正解である、と。


「正解への執着。自分で導き出した答えであればあるほど、人はそれを疑えなくなる。それがどれほど危うい予測であっても、彼らの脳内では、すでに確定した未来に書き換わっているのでしょう」


受像水晶に映る有力者たちの瞳には、もはや期待感などは微塵も残っていなかった。そこにあるのは、自国の正しさを証明しなければならないという強迫観念と、それを成し遂げられるという全能感だけだ。


「さあ、証明しなさい。自分の正しさを守るために、自尊心をその鉄の箱に注ぎ込むのです。あなたたちが正解だと信じ込んでいるその執着こそが、この盤面を完成させる最後の部品なんですから」


アグライアの草原では、各国の威信を背負った馬たちが地平線に整列し始めている。いずれも大陸の各勢力が最高傑作と自負する名馬たちだ。


ゼクスは、自身の知恵で運命を選べると信じ込んだ傲慢な者たちが、一瞬にしてその梯子を外される瞬間を想像し、静かにモニターを見つめた。


「ゲートが開くその瞬間、あなたたちの自尊心はただの乱数に成り下がります。世界がひっくり返る音を聞くのが、今から楽しみですよ」


大陸全土の鉄箱が、一斉に鼓動のような低い唸り声を上げ始めた。

それは、膨れ上がった欲望が限界を迎えようとしている予兆だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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