二十五話 貪欲の対価――穂積一族、法をも穿つ破滅
兵庫県の高級住宅街に佇む、壮麗な邸宅。
そこは、かつて穂積雫から騙し取った莫大な遺産と土地をベースに、事業を急拡大させた「穂積ホールディングス」の社長・穂積源三の自宅だった。
新年の祝賀ムードが漂う中、源三は応接室で、数人の親族と共に、自らの成功を誇るように高級なワインを酌み交わしていた。
「おい、源三。あの雫の女狐、最近はどこで野垂れ死んでるか分からんらしいな」
従兄弟の男が、下品な笑い声を上げる。
「フン、どうでもいいさ。あの女から毟り取った遺産のおかげで、我が穂積家は地元の政財界にも食い込めた。雫がいくら警察に泣きつこうが、こちらの書類は完璧に伪造してあったからな。今さら何ができる」
源三は、傲慢に鼻を鳴らした。
彼らは、自分たちが犯した「身内への容赦なき搾取」を、単なる『要領の良い商売』として片付け、贅沢の限りに耽っていたのだ。
だが、その傲慢な笑みは、リビングのテレビ画面が急にノイズを走らせ、ブラックアウトしたことで凍りついた。
「おい、テレビが壊れたか?」
源三が不機嫌そうにリモコンを操作しようとした瞬間、真っ暗な画面に、血のような赤色で不気味な文字が浮かび上がった。
『――穂積源三、ならびに穂積一族の罪状を公開する』
「な、なんだこれは!? ハッキングか!?」
源三たちが立ち上がった瞬間、スピーカーから、彼ら自身の声が響き渡った。
『雫のやつ、完全に信じ込んでるぞ。この契約書にサインさえさせれば、あいつの父親の遺産はすべて俺たちのものだ』
『あはは、あの馬鹿女、男にだらしなく騙されて、最後は一文無しで放り出されるとも知らずに』
それは、十数年前に彼らが雫を騙し討ちにする計画を話し合っていた、当時の極秘の音声データだった。
さらに、源三がこれまで経営してきた「穂積ホールディングス」の裏帳簿、多額の脱税、インサイダー取引、さらには反社会的勢力への資金提供を示す、一寸の誤魔化しもない完璧な財務データが、スライドショーのように次々と画面に映し出されていく。
「な……なぜだ!? このデータは、社外秘のサーバーに、最高レベルのセキュリティで暗号化して保管されていたはずだぞ!」
源三は、ワイングラスを床に落として砕いた。
彼らがどれだけセキュリティを強固にしようとも、大賢者レン・ヴァルハイトが放った「認識不可」の使い魔たちにとって、電子の壁を通り抜け、生データを直接複製することなど、赤子の手をひねるよりも容易いことだった。
時を同じくして、国税局査察部、いわゆる「マルサ」の精鋭たちが、数十台の車両に分乗し、穂積ホールディングスの本社、そして源三の自宅へと一斉に向かっていた。
国税局の元には、数日前、匿名の送信元から「編集不可能な、完璧な脱税・横領の証拠データ一式」が届けられていたのだ。国家機関が動かざるを得ないほどの、あまりにも生々しく完璧な証拠。
ピーポー、ピーポーと、サイレンの音が高級住宅街の静寂を破る。
「穂積源三さんですね。国税滞納処分、ならびに所得税法違反、業務上横領の容疑で家宅捜索を行います」
玄関を突き破るように入ってきた捜査官たちの姿に、源三の妻や親族たちは、悲鳴を上げて逃げ惑った。
「ま、待て! 私は地元の議員とも繋がりがあるんだぞ! こんなことが許されると――」
「その議員の先生方との不透明な金銭授受の記録も、すべてこちらで把握しています。諦めて同行してください」
捜査官の手によって、源三の手首に手錠がかけられる。
彼らが雫から奪い、これまで我が物顔で構築してきた「穂積の帝国」は、たった一日にして、蟻の巣が崩れるように完全に瓦解した。
すべての財産は差し押さえられ、親族たちは連鎖破産に追い込まれ、世間からは「血も涙もない詐欺師一族」として、未来永劫の社会的抹殺を宣告されたのだ。
蓮は、その様子を使い魔の視覚共有を通じて静かに見届けると、ノートパソコンをパタンと閉じた。
「雫……。あなたを苦しめた害虫どもは、すべて自らの貪欲さの自重によって、潰れ去りました。残るは……あなたを迎えに行くだけです」
蓮の白金色の魔力が、彼の体から静かに溢れ出し、夜の部屋を神聖な光で満たしていた。




