二十四話 断罪の連鎖――震える残党と冷徹なる追訴
元日の夜に発生した「堂島大輝と父親の逮捕」、そして栄学高校のイジメ隠蔽に関わった汚職教師たちの連行劇は、三が日の間に日本全国へと拡散され、社会全体に巨大な衝撃を与え続けていた。
だが、それは高梨蓮にとって、復讐劇の「ほんの始まり」に過ぎなかった。
一年の始まりを祝う穏やかなはずの冬休み、あるアパートの一室で、一人の少年がスマートフォンの画面を見つめながら、ガタガタと歯を鳴らしていた。
彼の名は、佐藤。中学時代に大輝の忠実な手下として、蓮への集団暴行の実行犯グループに加わっていた男だ。
「おい……嘘だろ、堂島が捕まったって……。あの堂島地所の息子が、なんで……?」
佐藤の指は、恐怖で血の気が失せていた。
SNS上では、中学時代の蓮への暴行動画がノーカットで拡散され続けており、すでにネットの特定班によって、動画に映る実行犯たちの実名や、現在通っている高校、さらには部活動の所属までもが完全に暴かれていた。
「サ、サト、お前の名前も出てるぞ……! どうすんだよこれ!」
同じく実行犯だった元同級生から、悲鳴のような電話がかかってくる。
「知るかよ! あんなの、堂島に命令されてやっただけだって言えば――」
言いかけた佐藤の言葉は、自宅の玄関チャイムが激しく鳴り響いたことで遮られた。
居間にいた佐藤の母親が不審そうに扉を開けると、そこには冬の寒風を背に浴びた、仕立ての良いスーツを着た男女三人組が立っていた。
彼らは一様に、冷徹なまでの事務的な笑みを浮かべ、バッジを胸に光らせていた。
「佐藤様のご自宅でしょうか。私たちは、高梨蓮代理人の『栄光総合法律事務所』の弁護士です。本日、佐藤陸さんに対し、中学時代における高梨蓮さんへの『集団暴行罪』『恐喝罪』、ならびに虚偽の証言による『名誉毀損』に基づく、刑事告訴状の受理、ならびに総額三千万円の損害賠償を請求する民事訴訟の提起が完了いたしましたので、書類をお届けに参りました」
「え……? そ、損害賠償……さんぜん、まん……?」
背後で聞いていた佐藤は、頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われ、その場にへたり込んだ。
「待ってください! あれは子供のした喧嘩で――」
母親が狂ったように弁護士に食ってかかるが、先頭の男性弁護士は、冷たく書類を差し出すだけで取り合わなかった。
「子供の喧嘩、ですか。凶器を用いた集団暴行、さらには被害者を『暴力男』に仕立て上げて社会的抹殺を図った行為は、一歩間違えれば命を落としかねない重大な犯罪行為です。当時の動画データ、ならびに堂島大輝容疑者の自白音声など、客観的な証拠はすべて警察および裁判所に提出済みです。言い逃れは一切不可能であると、ご承知おきください」
同じような光景が、その日のうちに、かつて蓮をイジメ、嘲笑い、陥れた元クラスメイトたちの家々で、同時多発的に繰り広げられていた。
誰もが「堂島に脅されてやった」「ノリでやっただけ」と言い訳を並べ立てたが、高梨家が送り込んだ最強の弁護士団の前に、その甘えは一切通用しなかった。
彼らの通う高校には、弁護士団から「事件への関与および告訴の事実」を記した公式な通知書が送付され、学校側は世間の批判を恐れて、即座に彼らを「自宅謹慎」や「自主退学の勧告」処分とした。
彼らの親の職場にも噂が広まり、いくつかの家庭は近所の視線に耐えかねて、夜逃げ同然で街を去る準備を始めざるを得なくなった。
蓮は、高梨家の書斎で、弁護士からの進捗報告書を静かにタブレットで眺めていた。
その隣には、彼を心配そうに見守る、しかし確固たる信頼を瞳に宿した森本綾の姿がある。
「これで、中学時代の残党どもはすべて片付きましたね」
蓮は、淡々と紅茶を口に運んだ。
「蓮くん……みんな、自分がやったことの重さを、今になってやっと知ったんやね。今まで蓮くんがずっと一人で抱えてきた痛みに比べたら、これでも生ぬるいくらいやけど」
綾は蓮の手をそっと握りしめ、少し悲しげに、しかし強く言った。
「因果応報、ですよ、綾」
蓮は、ヘーゼルの瞳を窓の外の冬空へと向けた。
「他者を踏みにじって得た平穏など、最初からガラスの上の砂城に過ぎない。さあ、次は……私の最愛の雫を絶望に突き落とした、真の『害虫』どもの番です」
蓮の心の中の天秤は、すでに次の標的――実母・雫の全財産を騙し取り、今も彼女を追い詰めている「穂積家」の親族たちへと傾いていた。
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