二十二話 連鎖する崩壊――教壇に巣食う害虫の駆逐
元日の朝。
本来であれば誰もがのんびりと過ごすはずの日に、栄学高校の教職員たちは、パニックに陥っていた。
鳴り止まない電話、殺到するクレームメール。そして、ネット上に晒された「もう一つの爆弾」が、教育業界そのものを揺るがす大スキャンダルへと発展していたからだ。
蓮が公開した資料の第2弾。
それは、イジメを主導した堂島大輝と、それを「見て見ぬ振り」をし、それどころか積極的に隠蔽・荷担していた栄学高校の教師たちとの、生々しい「談合」の記録だった。
『先生、今年も親父から学校への寄付金、予定通り振り込まれるみたいなんで。……高梨の奴が何か言ってきても、適当にあしらっておいてくださいよ』
『わかっているよ、堂島くん。君の将来に傷がつかないよう、学校側としても最善の配慮をする。あのハーフの生徒は、元々問題児だったということで処理してあるからね』
図書室準備室での出来事をはじめ、校内のあちこちで交わされていた、大輝と特定の体育教師、そして学年主任との生々しい会話の音声データ。
さらに、教師たちが大輝の父親から「高級料亭での接待」を受け、裏で多額の賄賂を受け取っていたことを示す領収書や証拠写真が、高解像度の画像でネット上にズラリと並べられた。
「な、なんだこれは……! なぜ、こんなものが流出している!?」
大輝に加担していた体育教師は、自宅のコタツでスマートフォンを握りしめ、顔面を土気色に染めて絶叫した。
彼らがどれだけ「そんな音声は捏造だ」と主張しようとも、蓮の「賢魂回帰」によって補正された使い魔たちの記録は、専門家がどれだけ解析しても「一切の編集・捏造の痕跡がない、完全な本物の生データ」として認定されるものだった。
ネットの炎上は、もはや栄学高校だけの問題に留まらなかった。
教育委員会、さらには地方自治体の議会にまで「地主の寄付金によるイジメ隠蔽疑惑」として飛び火し、大手ニュースサイトがこぞってこの事件を報じ始めた。
『【衝撃】栄学高校で組織的なイジメ隠蔽が発覚。地主の息子と教師が裏で癒着か』
『被害生徒は「ハーフの優等生」。中学時代からの不当な冤罪も明らかに』
テレビのニュース番組でも、情報番組のコメンテーターたちが「教育現場の腐敗だ」「徹底的な刑事追及が必要だ」と、怒りを露わに語り出す。
栄学高校の校長は、元日の午前中に緊急の役員会を招集したが、すでに手遅れだった。
高梨家が送り込んだ弁護士団は、学校法人に対し「安全配慮義務違反」および「共同不法行為」として、億単位の損害賠償を請求する訴状を正式に提出。
さらに、加担した教師たち個人に対しても、「職権濫用」「虚偽公文書作成」などの罪で刑事告訴に踏み切った。
「う、うわぁぁぁぁ!」
体育教師の自宅には、すでに近所の住民や、聞きつけたマスコミの記者たちが集まり始めていた。
教員としてのキャリアの終焉。それどころか、実名が社会的に晒され、前科者として刑務所に送られる未来が、突如として彼らの目の前に突きつけられたのだ。
蓮は、自室のパソコン画面で、それらの崩壊劇を紅茶を飲みながら眺めていた。
その端正な顔立ちには、同情も、過剰な歓喜もない。ただ、予定された数式が完璧に解かれたことへの、当然の満足感だけがあった。
「教壇に立ち、他者を導くべき立場にありながら、私欲のために牙を持たぬ子供を踏みにじる。……お前たちのしてきたことは、異世界における『汚職神官』となんら変わりはありません。
神の罰はありませんが、大賢者の罰は、お前たちの想像以上に重いですよ」
蓮の澄んだヘーゼルの瞳に、冷たい月光のような白金色の光が、一瞬だけ宿っては消えた。




