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異世界賢者の平穏な復讐  作者: かぶんす


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二十一話 断罪の元日――沈黙を破る賢者の牙

 新しい年の幕開けを祝う鐘の音が、冷たい冬の夜空に響き渡る。

 西暦が改まった元日の、午前零時。

 世間が初詣や新年の挨拶で賑わうその瞬間、インターネットという電子の海に、突如として一本の「爆弾」が投下された。


 それは、複数の主要な動画配信サイト、SNS、そして栄学高校の全校生徒と保護者が共有する連絡網や地域コミュニティの掲示板に、全く同時に投稿された。


『高梨蓮に対する、中学時代からの暴行およびイジメの真相について』


 投稿された動画の冒頭には、中学時代、蓮が同級生を一方的に殴って怪我をさせたとされ、「暴力ハーフ」の烙印を押される原因となった、あの事件の「本物の映像」が映し出されていた。


 当時、学校側が提示した映像は、蓮が相手を殴り倒した瞬間だけを悪意を持って切り取ったものだった。

 しかし、今回投稿された映像は、事件の「最初から最後まですべて」を記録した完璧なものだった。


『おい、ハーフ。お前の母親、男にだらしなくて逃げ出したんだってな?』

『金髪の化け物はさっさと消えろよ!』


 当時のクラスメイト数人が、人気のない路地裏で蓮を取り囲み、彼の髪を引っ張り、亡き母・雫を侮辱する暴言を浴びせ、先に木刀や鉄パイプで蓮に殴りかかっている様子が、あまりにも鮮明に映し出されていた。

 そして、蓮がそれらを最小限の自己防衛動作で受け流し、相手が自滅、あるいは蓮が最低限の打撃で彼らを無力化した事実が、客観的な映像として完全に証明されたのだ。


「――これは、『正当防衛』、あるいは相手側の一方的な『集団暴行事件』だ」


 ネット上の視聴者たちは、その圧倒的な真実に息を呑んだ。

 さらに、動画の後半には、その事件を主導したのが堂島大輝であり、大輝が「蓮を悪者に仕立て上げるために、切り取った動画を学校に提出してイジメを誘発させた」という、大輝自身の自白と取り巻きたちの音声データが、寸分の狂いもなく合成されて流された。


「な、何だこれは……!?」

 大晦日の余韻に浸り、自室でスマートフォンの通知音の嵐に気づいた堂島大輝は、ベッドから飛び起きた。

 画面に映し出されているのは、自分の声、自分の顔、そして自分が隠蔽してきたはずの「過去の悪行」のすべてだった。


「なんで……なんでこんな動画があるんだよ! あいつらは全員、口止めしたはずだろ!?」

 大輝の手が、ガタガタと恐怖で震え始める。


 しかし、賢者の牙はこれだけでは終わらない。

 動画は、さらに「現在」へと進む。

 高校に入学して以降、大輝の指示によって、蓮の教科書が切り裂かれ、カバンが水浸しにされ、クラス全員から徹底的にシカトされていた「現場」の隠し撮り映像が、日付と時間付きで次々と再生されていく。


『おい、今日もあのダブルに誰も話しかけるなよ。先生にも根回ししてあるから、あいつが何言っても無駄だ』


 大輝の、他者を見下した下卑た声が、スピーカーからあまりにもクリアに響き渡る。


「う、嘘だ……嘘だろ……!」

 大輝の額から、嫌な汗が滝のように流れ落ちる。

 ネット上は、元日の深夜にもかかわらず、瞬く間に大炎上を始めた。


『栄学高校のイジメひどすぎるだろ』

『堂島大輝って奴、完全に犯罪者じゃん』

『ハーフの子、ずっと無抵抗で耐えてたの? かわいそうすぎる……』


 さらに、高梨家が雇った一流の弁護士軍団が、動画の公開と同時に、当時蓮に暴行を加えた元中学のクラスメイト全員を「集団暴行罪」および「名誉毀損」で告訴した旨が、プレスリリースとして発表された。


 ――9年間、耐え忍んだ。

 その間に、完璧な「外堀」を埋め、敵が言い逃れできない絶対的な証拠を揃えた。

 大賢者レン・ヴァルハイトの「断罪のチェス」は、たった一手で、堂島大輝の「これまでの優位」を跡形もなく粉砕したのだ。


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