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村を少し便利にしただけなのに、魔法文明が終わりそうです   作者: Miris


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18/33

第18話 春になったら家が増えていた

 三か月の冬が終わった。雪は少しずつ溶け、屋根から水が落ち、畑の土が顔を出した。村人たちは窓を開け、倉庫を整理し、春の準備を始めている。私は久しぶりに家の外へ出て、大きく伸びをした。


「外だ」


「外である」


 ピヨも足元で胸を張った。冬の間、ピヨは少しだけ大きくなった。ほんの少しだけ。本人は「真の姿への第一歩」と言っているが、見た目はまだ大きめのひよこである。


「春はいいね」


「雪が甘くないことを学んだ冬であった」


「学びが少ない」


 私は村を歩いた。道はぬかるんでいるけれど、人の声があちこちから聞こえる。冬の間に作った道具も、倉庫の前にきちんと並んでいた。悪くない。無事に冬を越せた。そう思ったところで、私は足を止めた。


「……あれ」


 家がある。知らない家だ。村の端、私の家から少し離れたところに、小さな家が二軒増えていた。いや、二軒ではない。奥にもある。


「ピヨ」


「何だ」


「あの家、前からあった?」


「我は知らぬ」


「だよね」


 私は近くにいた村人に聞いた。


「すみません。あの家は?」


「冬の間に建てたんだ」


「冬の間に?」


「雪で帰れなくなった人たちが、春になっても残りたいって言ってな」


「ああ」


 セドさん。それから他の旅人たち。嫌な予感はしていた。当たった。


「家って冬眠中に増えるものだっけ?」


「増えたなあ」


「納得しないで」


 新しい家の前では、セドさんが荷物を運んでいた。私に気づくと、手帳を片手に笑う。


「ミリィさん。おはようございます」


「おはようございます。住むんですか」


「はい。春のルカ村も記録したいので」


「記録のために家を建てたんですか」


「長期滞在には必要です」


「行動力が強い」


 セドさんは真面目にうなずいた。その隣の家には、冬の間に保存食作りを手伝っていた旅人夫婦がいた。彼らも残るらしい。理由は、村の居心地が良いから。それは嬉しい。嬉しいけれど、静かな村が少しずつ賑やかになっている気がする。


「ミリィさんのおかげですね」


 セドさんが言った。


「私、何もしてません」


「冬支度の工夫、道具、保存食。どれもミリィさんの発言がきっかけだったと聞きました」


「聞きました、じゃなくて書きましたよね」


「はい」


「消してください」


「歴史は消せません」


「大げさ」


 私は頭を抱えた。歴史にしないでほしい。昼寝したいだけの魔女を歴史にしないでほしい。ピヨが新しい家の前を歩き、胸を張る。


「我の領地が広がったな」


「ピヨの領地ではない」


「では、ミリィの領地か」


「違う」


「誰の領地だ」


「村のみんなの場所」


 ピヨは少し考えた。


「ならば、我もみんなに含まれる」


「まあ、そこは含まれるかも」


「つまり我の領地」


「戻ってきた」


 新しい家の周りには、荷物がまだ積まれていた。木箱、布袋、鍋、毛布、古い本。冬の間に村へ溶け込んだ人たちが、春になって本当に腰を落ち着けようとしている。セドさんは本を抱え、旅人夫婦はかまどの位置を相談していた。


「ここに小さな干し棚を作りたいんです」


 旅人夫婦の妻が言った。


「干し棚」


「冬の保存食作りを手伝って、面白くなってしまって」


「面白く」


「村に残るなら、何か役に立ちたいですし」


 その目は真剣だった。面倒な予感はする。でも、悪い話ではない。


「風の通りだけ気をつければいいと思います。あと、雨が当たらないように」


「なるほど」


「ミリィさん、図にしてもらえますか」


「今のは口頭で済ませたいです」


 そこへトマが通りかかった。


「干し棚なら作れるぞ」


「来た」


「呼ばれた気がした」


「呼んでない」


 トマはもう周囲の木材を見ていた。


「小さいのでいいなら、半日で」


「半日で作らない」


「だめか?」


「まず場所を決めて、邪魔にならないか確認してから」


「なるほど」


 素直にうなずく。旅人夫婦は嬉しそうだ。私は軽く頭を抱える。新しい人が増えると、新しい相談が増える。相談が増えると、トマが作る。トマが作ると、村が便利になる。便利になると、人が増える。危険な輪が見えた。セドさんはその横で手帳を開いている。


「人口増加に伴う小規模な職能分化」


「やめてください。急に村が研究対象みたいになる」


「すでに研究対象です」


「認めないで」


「ミリィさんの発言も記録して」


「そこを削って」


 セドさんは首をかしげた。


「しかし、ミリィさんが突っ込むことで会話が整理されています」


「突っ込みを村の機能にしないで」


「機能」


「今のも書かない」


 彼は少し残念そうに手帳を閉じた。閉じただけで、覚えていそうだ。


 昼には、村長が新しい住人たちを集会所へ呼んだ。畑を少し手伝う人。保存食を手伝う人。記録や読み書きを教えられる人。冬の間に、誰が何を得意としているか、村人たちはだいたい把握していた。


 閉ざされた三か月は、不便だった。でも、互いを知るには十分すぎる時間だったらしい。


「ミリィさんにも、一言」


 村長が言った。


「ありません」


「何か」


「ありません」


「では、短く」


「静かに暮らしたいです」


 集会所が笑いに包まれた。なぜ笑う。私は本気だ。ピヨが椅子の上で胸を張る。


「静かな国を作るのだな」


「国にしない」


「では領地」


「領地でもない」


「村」


「それは村」


「ならば我の村」


「戻ってきた」


 新しい住人たちまで笑っている。私はため息をついた。何も責任を持ちたくない。でも、名前を覚えた人が増えていく。顔を知る人が増えていく。


 面倒なことに、知らない人のままではいられなくなっていく。春の日差しの中、村人たちは楽しそうに動いていた。家が増え、人が増え、荷物が増えた。商人が来る道も、冬前よりしっかり踏み固められている。


 私は何もしていないつもりだった。でも、村は変わっていた。小さく。確実に。午後になると、村長が新しい家の位置を確認するため、簡単な地図を広げた。地図といっても、木の板に炭で道と家を描いただけのものだ。それでも、家が増えたことは一目で分かる。


「ここが集会所。ここが鍛冶場。ここが新しい家」


 村長が指で示す。


「私の家は描かなくていいです」


「描かねば迷いますぞ」


「迷っていいです」


「ミリィさんの家に相談へ行く者もおりますし」


「だから描かないで」


 セドさんが横から言った。


「記録上、生活改善の中心地点として」


「中心にしない」


「では、周辺重要地点」


「悪化してます」


 結局、私の家は小さな点で描かれた。点。かなり小さい。それで妥協した。ピヨは地図の上を歩き、炭の線を足でこすった。


「ここからここまで我の散歩道」


「地図を汚さない」


「領地の確認である」


「領地じゃない」


 トマが地図をのぞき込む。


「道を少し広げたほうがいいところがあるな」


「また仕事を増やす」


「荷馬車が通るなら、ここが狭い」


「正しいことを言うから困る」


 実際、家が増えれば道も変わる。荷物を運ぶ場所も、人が集まる場所も変わる。冬に作った道具や決まりが、春には別の形で使われ始める。村は、ただ家が増えただけではない。人が動く線が増えたのだ。そんなことを考えていたら、村長がにこにこと言った。


「ミリィさん、何か気づいたことはありますかな」


「ありません」


「今、考えていた顔でしたが」


「気のせいです」


「では、また後ほど」


「後ほどが怖い」


 私は地図から目をそらした。考えれば、また何か言ってしまう。言えば、村がまた少し動く。だから黙る。黙った。三秒くらい。


「……荷馬車が通る道だけ、ぬかるみ対策をしたほうがいいかもしれません」


 言ってしまった。トマの目が輝く。村長がうなずく。セドさんが書く。ピヨが胸を張る。


「我の道もな」


「ピヨは歩幅が短いから、どこでも同じ」


 私は自分の口を押さえた。春は、口が滑りやすい季節らしい。そのとき、遠くから車輪の音が聞こえた。見ると、荷馬車が山道を上がってくる。一台。二台。三台。


「……多くない?」


 先頭の荷馬車から、バルトさんが手を振った。


「ミリィさーん! 半月後と言いましたが、少し早く来ました!」


「帰って」


「まだ何も売ってません!」


 荷馬車の後ろでは、見慣れない荷物が揺れていた。木材。布。空の箱。そして、どう見ても作業道具。


「バルトさん」


「はい」


「増えるのは商品だけですか」


「人も少し」


「帰って」


「まだ紹介もしていません!」


 村人たちはもう集まり始めている。新しい家の前で、新しい相談が増える音がした。春の風は柔らかいのに、運んでくるものは妙に重い。春になった。そして、面倒も雪解けと一緒にやって来た。


 ******


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