第17話 雪かき道具が進化しすぎた
雪かき道具は、確かに役に立っていた。道は早く開くようになったし、腰を痛める人も少し減った。村人たちは「今年は楽だ」と喜んでいる。そこまではいい。問題は、青年団である。
「第二改良型、出るぞ!」
「何が?」
私が広場へ行くと、青年たちがトマの作った押し板を改造していた。板の横に謎の羽。取っ手が長い。先端には、なぜか小さな旗。
「……何これ」
「雪をより遠くへ飛ばす道具だ」
青年の一人が胸を張る。
「雪はどかせばいいんだよ。飛ばさなくていい」
「でも、遠くへ飛ぶと気持ちいい」
「目的が変わってる」
トマは隣で真面目にうなずいていた。
「試してみないと分からないからな」
「トマ、止める側に回って」
「危なくないように角は丸めた」
「そういう問題じゃない」
青年団は聞いていなかった。彼らは改良型を雪の山へ差し込み、一斉に押した。雪が飛んだ。かなり飛んだ。そして、村長の家の壁に当たった。
「…………」
「…………」
村長の窓が開いた。
「楽しそうですな」
「村長、怒っていいんですよ」
村長は笑っていた。怒らないのか。ルカ村、平和すぎる。しかし、雪飛ばし道具は子どもたちに大人気になった。
道を開けるより、雪を飛ばす。遊びとしては楽しいのだろう。でも、放っておくと村中の雪が変な場所へ移動する。
「ルールを作りましょう」
「ルール?」
青年団が首をかしげた。
「飛ばしていい方向。人や家に向けない。井戸の周りはだめ。倉庫の前もだめ」
「なるほど」
「あと、競争するなら道を作る範囲で」
「競争していいのか」
「道ができるなら」
青年たちの目が輝いた。しまった。これは許可に聞こえたかもしれない。
「雪道開通競争だ!」
「名前をつけるのが早い」
その日から、青年団は雪道開通競争を始めた。村の道は、やけにきれいに開くようになった。結果だけ見れば、成功である。ただし、途中経過はかなり騒がしい。
「ミリィ」
「何」
ピヨが雪の上にちょこんと立っていた。足が半分埋まっている。
「我も競争に出る」
「歩けるの?」
「応援で勝つ」
「参加とは」
ピヨは青年団の前に立ち、翼を広げた。
「我の指揮に従え!」
青年団は笑いながら、ピヨの横を通り過ぎていく。雪が跳ね、ピヨにかかった。
「冷たい!」
「指揮官、避けよう」
私はピヨを救出した。その夜、トマが家に来た。手には改良された押し板。今度は軽く、角も丸く、取っ手も握りやすい。
「これならどうだ」
「いいと思います」
「本当か」
「本当です。かなり使いやすそう」
トマは嬉しそうに笑った。私は少しだけ見とれた。そして、すぐに視線をそらす。
「ただし、雪を飛ばしすぎない形で」
「分かった。飛ばしすぎない」
「本当に?」
「ほどほどに飛ばす」
「飛ばす前提」
トマは困ったように笑った。
「ミリィが教えてくれると、変なものも最後は使えるものになるな」
「私は止めてるだけです」
「それが助かる」
またそういうことを素直に言う。本当にやりにくい。私は外を見た。雪はまだ降っている。でも、村の道は明るい。人の声が聞こえる。魔法は使っていない。雪は消えていない。それでも、暮らしは少し楽になっていた。翌朝、広場には木札が立っていた。
『雪道開通競争 本日の記録』
「……記録まで始まってる」
私は木札の前で立ち尽くした。青年団の名前が並び、その横に「井戸まで」「倉庫まで」「鍛冶場まで」と書かれている。どうやら、どの道をどれだけ早く開けたかを競っているらしい。発想は悪くない。道が早く開けば、村は助かる。ただし、競争にすると人はだいたい変な方向へ走る。
「ミリィさん、これでいいか?」
青年の一人が聞いてきた。
「道がちゃんとできているなら」
「できてる」
「雪を誰かの家に積んでないなら」
「少し」
「少し?」
「村長の家の横に」
「また村長の家」
村長は怒らない。だからといって、積んでいい理由にはならない。私は木札の下に、もう一枚小さな板を足した。
『雪を積んでいい場所』
「場所を決めます」
「おお、公式だ」
「公式にしない」
「でも板がある」
「板があると公式になるの?」
青年たちはなぜか嬉しそうだった。ルールを作ると、面倒が減る。同時に、競技っぽさが増す。どうして。そこへトマが新しい押し板を持ってきた。
昨日のものより、さらに軽い。板の端には薄い金具がついているが、角は丸い。取っ手も二段になっていて、背の高い人も低い人も使えるようになっている。
「これはいいですね」
「本当か」
「本当です。これならおばあさんでも使いやすいかも」
「じゃあ量産する」
「まず三つ」
「三つ?」
「三つ」
「十ではなく?」
「三つ」
トマは真面目にうなずいた。
「分かった。三つ作って、使ってもらう」
「それで問題を見ましょう」
「問題を見る」
「そう」
青年団が横から言った。
「競争用の軽いやつも」
「いらない」
「速くなるぞ」
「安全が先」
「安全部門か」
「部門を作らない」
ピヨが雪の上で胸を張った。
「我が審判を務める」
「雪に埋まる審判はいらない」
「今度は埋まらぬ」
その瞬間、子どもが押した雪の端がピヨの足元へ流れた。ピヨはゆっくり沈んだ。
「戦略的判定位置」
「埋まってるよ」
私はピヨを引き抜いた。羽についた雪を払っていると、トマが真剣な顔で言った。
「ピヨ用の小さい押し板も作るか」
「作らない」
「足が短いから、押せるか分からないな」
「そこまで考えなくていい」
「翼で押すか」
「ピヨを労働力に数えないで」
「我は指揮官である」
「なおさら押さないでしょ」
昼過ぎには、新しいルールが村中に伝わった。雪を積んでいい場所。人に向けて飛ばさない。井戸と倉庫の前は広く開ける。競争は、道が使える形になってから。
最後の一文は迷った。競争を禁止にしたほうが静かだ。でも、禁止にすると隠れてやる。それなら、使える形に誘導したほうがいい。私はそう判断した。判断したこと自体が、もう巻き込まれている証拠な気もする。
******
夕方、おばあさんが押し板を試した。
「これは楽だねえ」
「よかったです」
「腰が曲がりにくい」
「そこが大事です」
「でも若い連中は、また速さを競うね」
「でしょうね」
「元気でいいよ」
「家に雪を飛ばさなければ」
おばあさんは笑った。私は雪の道を見る。白い村に、まっすぐな道が何本も伸びていた。魔法で雪を消したら、この道は残らない。誰が開けたかも、どこを優先したかも、どこに人が集まるかも見えない。手で作った道だから、暮らしの形が見える。少しだけ、そう思った。その夜、私は木札をもう一枚作った。
『安全係』
作りたくはなかった。でも、青年団が楽しそうに競争するなら、誰かが止める役も必要になる。問題は、誰に持たせるかだった。
「ミリィが持てばいい」
ピヨが言った。
「嫌です」
「適任である」
「嫌です」
「突っ込みが速い」
「突っ込み係ではない」
トマが押し板の取っ手を磨きながら言った。
「俺が持つか?」
「トマは作る側で忙しいでしょ」
「でも、危ない形は分かる」
「それは確かに」
私は少し考えた。トマは素直だし、力もある。青年団もトマの言うことなら聞きやすい。ただし、本人が競争に混ざる可能性がある。
「トマ」
「何だ」
「安全係は、競争に参加しません」
「そうなのか」
「そうです」
「難しいな」
「そこを難しがらない」
結局、安全係は日替わりになった。青年団から一人、年配の人から一人。トマは道具確認担当。ピヨは。
「我は総監督」
「火の前担当」
「不当」
木札の端に『ピヨは雪に埋まったら救出』と書き足すと、子どもたちが大喜びした。ピヨだけが不満そうだった。でも、次の日から雪道開通競争は少し落ち着いた。少しだけ。
家に雪を飛ばす回数が減り、井戸の周りが広くなり、倉庫までの道は毎朝早く開くようになった。変な競争でも、形を整えれば暮らしの役に立つ。それは認めるしかなかった。
「また変なものを生んでしまった」
「いいものだと思うぞ」
「変なものでもある」
ピヨが毛布の中から顔を出した。
「ミリィの周りは、変なものばかりだな」
「あなたが筆頭だよ」
トマが押し板を壁に立てかけながら笑った。
「でも、変なものがあると冬が少し楽しいな」
「楽しい方向に行きすぎないでください」
「分かった。ほどほどに楽しい」
「そのほどほども少し不安」
外では青年団が、明日の担当を決める声を上げている。競争は完全には止まらない。でも、道は開く。それなら、まあ。少しだけなら、許してもいいのかもしれない。ピヨは不満そうに羽をふくらませた。否定はしなかった。
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