志希、ニンニクマシマシの呪い
4回戦はジャッジキルで試合が終わり、
志希はストローを噛みながらスマホをいじり、
フォトン田中は店の隅でレタッチと写真削除の作業に追われていた。
店内のざわつきは徐々に落ち着き始め、
大会フロアには
“いよいよ決勝”という緊張感が張りつめていた。
店長「……これで4回戦は全卓終了。
勝ち残ったのは──
志希ちゃんと、隣の卓の君。
この2名だ」
こうして、全国大会への切符をかけた戦いは、
ついに2人に絞られた。
志希は無表情のまま、
隣の相手をちらりと見る。
相手のプレイヤーは、
志希を見返して口元にわずかな笑みを浮かべた。
互いに言葉はない。
だが、ここから先は“本当に強い者だけが残る”世界だと
誰もが理解していた。
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店長「決勝戦は昼食休憩を挟んでから行います。
時間になったら呼ぶから、各自準備しておいてね」
志希「……お腹すいた」
田中「……ぼ、僕は……まだレタッチが……」
志希「……知らない」
志希はそのまま出口へ向かう。
観客もそれぞれ昼食休憩をとるためまばらになり、
大会フロアには、ひとときの静かな空気が戻っていた。
全国大会への切符をかけた最後の戦いは、
1時間後に行われることになっていた。
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志希は店を出ると、
近くのラーメン三郎へ向かった。
弟「ラーメンはいいけど……なんでギトギト系なんだよ」
志希「さっきの試合……手札事故ってた……
嫌な流れを断ち切るために……食べる」
店に入ると、
志希はいつものように小ラーメンの食券を買い、
待機列に並ぶ。
そして、注文を取りに来た店員に、ニンニク抜き野菜少なめをコールする。
いつもと変わらない注文。
だが──数分後。
目の前に運ばれてきた“それ”を見た瞬間、志希は言葉を失った。
「はい、大ラーメンニンニク野菜アブラマシマシねー!」
志希「…………え?」
弟「いや頼んでないだろそれ!!」
手ぬぐいで鉢巻きをした店員は、無言で丼を置いて厨房に戻る。
山。
山。
山。
もはや“食べ物”ではなく“基本地形・山”。
志希は箸を持ったまま固まる。
「……ちが……
ちがう……
私……“少なめ”って……」
店長は満面の笑みで親指を立てる。
「いや~、若いのに全部マシマシとはやるねえ!!
ウチのラーメンを存分に味わってくれ!でもお残しは厳禁だよ!」
志希は涙目になりながら、
巨大な山を前に震えていた。
「……無理……
でも……残したら……負けた気がする……」
「誰と戦ってんだよ……」
志希は泣きながら麺をすすり始める。
「……しょっぱい……
……油……
……死ぬ……」
「志希、決勝前に体力ゼロになるぞ……」
慣れない野菜の山に、悪戦苦闘する志希。
それでも、普段の倍のペースで食べ進めたことで、山の標高は少しずつ下がっていく。
だが、野菜の山を半分食べたところで、
完全に動きが止まる。
「……むり……
……麺が……
……見えない……」
「急がないと、決勝……始まるぞ……」
さらに悪いことに、この店、
三郎ファン(サブリメン)の間では名物店長がいる店として有名だった。
元力士ということもあり、厨房に立つだけで店外まで届く威圧感を放っている。
食べっぷりの良い客には愛想が良いが、マシマシを頼んで残した客には容赦ないとの噂。
皿洗いや掃除をさせられたとのエピソードには事欠かない。
「……なんで……
私が……こんな目に……
でも……怖い……
食べなきゃ……でも……無理……」
「ロット乱しは許されない……
それがサブリメンの掟だ……
“天地返し”するしかない……」
両手に箸を持ち、麺と野菜をひっくり返す究極奥義。
天地返しを使い、
麺が伸びきる前に、懸命に麺をすすろうとする志希。
志希の泣く声は、周囲の麺をすする音にかき消されて、
一切聞こえなくなっていた。
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30分後。
志希と弟はカードショップに戻ってきた。
とはいえ、志希の歩き方が明らかにおかしい。
胃を押さえ、顔は青白く、目は虚ろ。
「……志希……大丈夫か?」
「……話しかけないで……
……油と……ニンニク……
……胃が……死ぬ……」
志希は椅子に座ると、
テーブルに突っ伏した。
「……“ニンニク野菜アブラマシマシ”なんて頼んでない……
……なんで……」
「店員の聞き間違いじゃね?」
「……違う……今まで……
間違えられたこと……ないのに……」
志希は震える声で続ける。
「……手札……今日……
盛れてないのに……
なんで……ニンニクは山盛りなの……」
「……呪いじゃん」
「……マシマシの……呪い……」
決勝開始直前、
フォトン田中が志希に駆け寄ってくる。
「志希ちゃん!
レタッチ終わりました!
これが……“盛れてるようで盛れてないようで盛れてる写真”です!」
志希は苦しそうな顔のまま、上目で田中を睨む。
「……いらない」
「ひっ」
観客「フォトンさん……空気読め……」
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志希は胃を押さえながら、
対面に座っている決勝の相手を見た。
その男は、
ハーブティーを優雅に揺らしながら微笑んでいた。
「決勝前にニンニクとは、優雅さが足りないね。
元々臭いカードショップがさらに地獄になる」
そう言って、
ミントスプレーを周囲に軽く吹きかける。
志希「……なに……
……この……香り……」
弟「まず自分のニンニク臭を気にしようよ」
男は指で前髪を整え、上品に名乗った。
「僕の名前は──香月レオン。
普段ならこんなカードショップには来ないさ。だが、収穫はあった。
おかげで、全国への切符は思ったより楽に手に入れられそうだ」
この男、言動も佇まいも他のプレイヤーとは明らかに違う。
皺のないストライプのシャツに、グレーのベスト。
上品さを信条にしているようで、どこかカードショップには似つかわしくない。
香月は、
カップを指先で軽く揺らしながら微笑む。
「さあ──始めようか」




