志希、シャカパチに翻弄される
大会会場のざわつきの中、志希は指定されたテーブルへ向かった。
そこに座っていたのは、黒いパーカーにヘッドホンを首にかけた青年。
志希が席につくと、すでに相手はカードをシャカパチしていた。
パチ……パチ……パチ……パチ……
一定のテンポ。無駄のない動き。まるで呼吸のように自然。
(……この人……“意図してないシャカパチ”だ……)
相手は志希を見ることもなく、淡々とカードを整えながら言った。
「よろしく」
ジャッジの声が響く。
「――それでは、第1試合を開始してください」
その瞬間、相手のシャカパチのテンポがわずかに上がった。
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ……
弟「志希……あれは“集中モード”だよ……
相手、考えれば考えるほどシャカパチが整うタイプ……」
(やば……私の高速シャカパチと違って……“揺れ”がない……!)
相手は手札を一瞥し、軽く頷いた。
「……うん」
それだけ言って、また手札を整える。
(えっ……“うん”って何……?何が“うん”なの……?怖い……!)
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ……
テンポがさらに整う。
最後に相手は場にカードを1枚伏せ、静かに言った。
「……どうぞ」
志希のターンが始まる。
だが、相手のシャカパチの音は志希の耳に深く残っていた。
志希は震える手でカードを引く。
「……ドロー!」
引いた瞬間──
志希は火力カードを場に叩きつける。
「はいっ!燃やす!!」
相手のライフが800減る。
しかし──
相手は無反応。
パチ……パチ……パチ……パチ……
(えっ……?燃やしたのに……?なんで無反応なの……?)
弟「あの人、シャカパチの“音”でライフ管理してる……
数字じゃなくて“リズム”で覚えてるタイプ……」
(そんなのある!?)
志希はもう1枚、火力を叩きつける。
「燃えろぉ!!」
相手のライフがさらに700減る。
しかし──
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポが、ほんの少し変わっただけ。
(本当に“音”でライフ管理してる……!?どういう脳してるの……!?)
志希はターンを渡した。
「……はい、どうぞ……」
志希が火力を2発ぶち込んでターンを渡すと、
相手は静かにカードを引いた。
その瞬間──
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
シャカパチが急激に高速化した。
(ひっ……!?なんでドローでギア上がるの……!?)
弟「相手、展開に合わせてシャカパチが速くなるタイプ……
“考えるほど速くなる”……
完全にゾーン入ってる……!」
(そんな……シャカパチで集中力アップなんて……
そんなことある……!?)
相手は盤面を見つめ、淡々とカードを並べていく。
まず1枚目。
「《前線の歩兵》、出す」
小さな兵士カード。
特に強くも弱くもない、ただの通常モンスター。
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポが一段落ち着く。
(あっ……“軽いカード”はテンポ落ちるんだ……音で強さ管理してる……?)
次に2枚目。
「《補給部隊》、出す。500ライフ回復」
ライフをちょっと回復するサポートカード。これも地味。
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポは変わらない。
弟「あの人、盤面の“重さ”でシャカパチの速度変えてる……
軽い展開はゆっくり、重い展開は速くなる……」
そして──
相手は3枚目のカードを手に取った。
一瞬、シャカパチが止まる。
(えっ……?)
相手はカードを表にして置いた。
「《戦場の号令》、発動。
自分の場のモンスターの攻撃力を500アップ」
盤面の味方をまとめて強化する、ちょっと重めのカード。
置いた瞬間──
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
テンポが一気に跳ね上がる。
「ひぃぃぃ!!?」
弟「“重いカード”は高速シャカパチになるんだよ……
あれは……“脳がフル回転してる音”……」
(音で脳内見えるの怖すぎる!!)
相手は盤面を整え、最後にカードを1枚伏せた。
「……返す」
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポがまた落ち着く。
(なにこの人……シャカパチで“思考のギア”変えてる……!?
私のシャカパチとは……レベルが違う……!)
志希は手札を握りしめた。
(……負けない……まだ1回戦……ここから……巻き返す……!)
志希はカードを引いた。
「……ドロー!」
相手は盤面を見ず、ただシャカパチを続けている。
パチ……パチ……パチ……パチ……
(盤面見てない……なんで……?)
志希は火力カードを叩きつけた。
「はいっ! 燃やす!!」
相手の《前線の歩兵》が燃える。
しかし──
相手は盤面を見ない。
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポがほんの少しだけ変わる。
弟「あの人、盤面見てない……
音で“燃えた”のを理解してる……」
(音で!?音で燃焼ダメージ理解してるの!?)
志希はさらに火力を投げる。
「もう一発!!」
今度は相手の《補給部隊》が燃える。
しかし──
相手は盤面を見ない。
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポがまた少し変わる。
(うそでしょ……“音で盤面の変化を把握してる”……!?
なんでそんなことできるの……!?)
相手はようやく口を開いた。
「……二体、消えたね」
「見てないのに分かるの!?!?」
弟「あの人、シャカパチの“反響”で盤面の枚数把握してる……
もはや生物兵器……」
(怖すぎる!!)
志希はターンを渡した。
「……はい、どうぞ……」
志希が火力で歩兵と補給部隊を燃やした直後。
相手は盤面を一切見ず、ただシャカパチを続けていた。
パチ……パチ……パチ……パチ……
(見てない……燃えたの見てないのに……
なんで分かるの……?)
相手はカードを引いた瞬間──
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
テンポが跳ね上がる。
弟「気をつけろ……あれは“何か狙っている音”だよ……」
(そんなのあるの!?)
相手は盤面を見ずにカードを置いた。
「《戦場残響》、発動」
「なにそれ!?」
弟「墓地から前のターンで倒されたモンスター1体戻すやつ……」
相手は墓地を見ずに、手をひょいっと伸ばしてカードを拾い上げた。
「……歩兵、戻す」
(見てないのに墓地から正確に拾った!?)
相手は続けてカードを置く。
「《反響する魔法陣》発動。
このターン使われた魔法をコピーする。
《戦場残響》コピー、補給部隊戻す。500ライフ回復」
相手はまた墓地を見ずに、補給部隊を拾い上げた。
(なんで見ないで拾えるの!?音で位置分かるの!?コウモリなの!?)
そして──
相手は2体のカードを並べ、静かに宣言した。
「……生贄に捧げる」
相手は盤面を見ずに、まるで見えているかのように2体へ手を伸ばす。
「歩兵、補給部隊──リリース」
カードが墓地へ送られる音が、妙に重く響く。
そして相手は、上級モンスターを場に置いた。
「レベル7:《前線指揮兵・リズム隊長》」
弟「歩兵+補給部隊をリリースして出す上級体……
さらに自分の場のモンスターに“速攻を与える”……」
その瞬間──
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
相手のシャカパチが、
店内の空気を震わせるレベルに高速化した。
周囲のプレイヤーも反応する。
「うわっ、出た!」
「今日のリズムやべぇ!」
店内のシャカパチが共鳴し始める。
パチパチパチパチ!!
パチパチパチパチ!!
店長(カウンター奥)
「シャカパチの大合唱やめて……
胃が……胃が死ぬ……」
相手は盤面を見ずに、リズム隊長で攻撃宣言を行う。
「……突撃」
次の瞬間、志希のライフが1500削られた。
「っ……ぐ……!」
「……返す」
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポが落ち着く。
(なんで……なんで盤面見ないで召喚できるの……!?
音で……全部分かってるの……!?)
弟「あの人、シャカパチの“反響”で
墓地の枚数、盤面の枚数、位置……
全部読んでる……もう“音の錬金術師”だよ……」
(音の錬金術師!?)
店長はカウンターの奥で震えていた。
(……シャカパチ……気になる……でも今日は大会……
しかも店内にいるのは全員カードゲーマー……)
店内には志希と相手のシャカパチが響き渡り、
さらに周囲のプレイヤーまでテンションが上がって
シャカパチを始めている。
パチパチパチパチ!!
パチパチパチパチ!!
(……これ……止めたい……止めたいけど……
“プレイの進行に支障がない限り注意できない”……
大会ルール……恨む……)
志希はカードを引いた。
「……ドロー!」
志希は手札を見て、にやりと笑った。
「よし……!山札、削る!!」
志希は山札の上から4枚をまとめて墓地に叩き込んだ。
落ちたカードのレベルは──
4、2、3、1の合計 10。
「ふふふ……これで火力の威力が決まる……!」
志希は火力カードを叩きつけた。
「《コスト・バースト》!!
このターン墓地に送られたカードの“合計レベル×200”ダメージ!!
今の合計レベルは──」
相手「2000」
志希「なんで先に言うの!?!?」
弟「あの人、落ちたカードの“音の高さ”で
レベルまで把握してる……」
(音の高さ!?そんなの分かる!?)
弟「レアリティで紙の厚みもインクの量も違うんだよ。
重さも、摩擦も、落ちた時の“鳴り”も全部変わる。
あの人、多分……カードの種類ごとに音を記憶してる」
(記憶してるって……そんなの、もはや人間じゃ……)
志希は火力を発動。
「くらえぇぇぇ!!」
志希の《コスト・バースト》が炸裂し、
2000ダメージが相手のライフへ叩き込まれた瞬間。
「……発動。《残響シールド》」
「えっ!? なにそれ!?」
弟「そのターンに受けたダメージの半分を軽減して、
軽減した分だけ反射するやつ……!」
「反射ぁぁぁ!?!?」
「……1000、返す」
志希「返すの!?!?」
志希のライフが1000削られ、身体が揺れる。
しかし──
相手は盤面を見ない。
パチ……パチ……パチ……パチ……
テンポが、ほんの少しだけ変わる。
(うそ……“音だけでダメージ計算してる”……!?)
相手は静かに言った。
「……残りライフ、5500」
「なんで見てないのに分かるの!?!?」
相手のターン。
カードを引いた瞬間──
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
(ひっ……!?また速くなった……!?)
相手は盤面を見ず、
志希の墓地を指で軽く叩いた。
トン……トン……トン……
「……墓地の合計レベル、20」
「なんで叩いただけで分かるの!?!?」
弟「あの人、墓地の“紙の重さと反響”で
レベルまで把握してる……もう人間じゃない……」
(なんで……なんで盤面見ないで全部できるの……!?
音で……全部分かってるの……!?)




