志希、シャカパチで翻弄する
相手のターン。
カードを引いた瞬間──
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
テンポが跳ね上がる。
もはや“考えている音”ではなく“処理速度の音”。
(ひっ……!?また速くなった……!?)
相手は手札を見ず、カードを1枚、表向きに置いた。
「《リズム・ソルジャー》召喚」
(見てないのに召喚した!?)
相手は続けてカードを置く。
「《テンポ・ブースト》発動」
「なにそれ!?」
弟「モンスター1体の攻撃力を
“前のターン墓地に送られたカードの合計レベル×100”上げるやつ……
さっきの合計レベル10だから……」
相手は盤面を見ずに、《リズム・ソルジャー》を軽く指で叩いた。
トン……トン……
「……今の攻撃力、2500」
「見てないのに分かるの!?!?」
志希のデッキは“純バーン”。
モンスターが1枚も入っていない。
そして──
火力カードの対象は相手プレイヤーか、
相手のモンスターのどちらかしか選べない。
相手の場には、
攻撃力2500の《リズム・ソルジャー》と攻撃力1500の《リズム隊長》。
(残りライフは5500……このターンは耐えられるけど……
次のターン殴られたら死ぬ……でも……でも……)
志希の脳が高速で回転する。
(……どっちに撃つ!?どっち!?どっち!?)
その瞬間──
志希の手が勝手に動いた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
1秒間に20回の高速シャカパチが炸裂する。
「ひゃあああああああああああ!!?」
弟「志希のシャカパチが暴走してる!?」
(ちがう!!考えすぎて手が勝手に!!止まらない!!)
志希のシャカパチは、もはや“思考の暴走”そのもの。
店内のプレイヤーたちが反応する。
「うわっ、志希ちゃんのギア上がった!」
「1秒に20回はやべぇ!!」
「相手よりも速いじゃん!!」
店長「……やめて……シャカパチの二重奏やめて……
胃が……胃が死ぬ……」
志希は震える手でカードを叩きつけた。
《フレイム・スパイラル》
攻撃力1500以下のモンスター1体を対象に発動できる。
そのモンスターは3ターンの間、攻撃できない。
「止まれぇぇぇぇぇ!!」
《リズム隊長》の動きが止まる。
しかし──
相手は盤面を見ずに攻撃宣言を行う。
「《リズム・ソルジャー》で攻撃」
(やばい!!攻撃力2500!!私のライフは──)
5500 → 3000
(あと3000……でも……
このままじゃ……まだ終わらない……!!)
相手「……返す」
──────────────────────────────
志希のターン。
高速化したシャカパチは止まらない。
指先が勝手に跳ね続け、店内の空気を刻む。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
志希本人は必死だった。顔は真っ赤、涙目で呼吸は浅い。
完全にキャパオーバーなのに、指だけが元気に暴走している。
(やばい……止まらない……!
でも……でも……考えなきゃ……!
考えるのをやめたら……私のライフが死ぬ……!)
シャカパチの音に混じって、志希の心臓の音まで早くなる。
もはやどっちがどっちの音か分からない。
(私、考えることを諦めない・・・
これは、あの人が教えてくれたカード・・・
きっと使える場面が来るはず・・・)
志希がカードを場に伏せた瞬間、
相手の眉がほんの少しだけ動いた。
「……ターン、エンド……!」
相手のターン。
相手は盤面を見ずにカードを指で軽く叩いた。
トン……トン……
相手「攻撃力2500。《リズム・ソルジャー》で攻撃」
(来た……!この一撃、食らったら終わる……!
でも私は──)
志希は伏せカードを発動する。
「《爆炎の導火線!!》」
相手のシャカパチが一瞬止まる。
相手「……?」
志希は山札のカードを7枚、一気に除外ゾーンへ叩き込んだ。
バサッ!!
弟「今それを発動するのは……!
でも……このターンを凌げるのは……それしかない……」
「除外したカードの中に《起爆スイッチ》があれば、
攻撃モンスターを破壊!!
そして──」
「……相手のライフに攻撃力分のダメージ」
「なんで先に言うの!?!?」
「《起爆スイッチ》は落ちた。音でわかる」
相手は盤面を見ずに、指で机を叩きリズムを刻む。
トン、トン、トン、トン、トン、トン……
「……残りライフ、4000」
「音で計算すんな!!」
志希は気付いた。
相手の“音読み”が──
さっきより、わずかに遅れている。
(……効いてる……?
私のシャカパチ……ノイズになってる……?)
志希のデッキは、明らかに以前より凶悪になっていた。
あの男から教わったカードを加えたそれは、ただのバーンではない。
相手が一歩でも踏み外せば爆発する──“地雷バーン”だった。
──────────────────────────────
志希のターン。
志希は手札を握りしめ、カードを引く手に力を込めた。
「墓地除外!!」
志希は墓地のカードを3枚、ランダムに選び除外した。
バサッ!!
弟「除外した3枚のレベル合計は“6”……!」
「《レベル・フレア》!!
除外したカードの“合計レベル×200”ダメージ!!
だから1200ダメージ!!
対象は──」
志希は指を突き出した。
「相手プレイヤー!!」
火力を撃った瞬間──
志希の手が勝手に動いた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
弟「また暴走してる!!」
「止まれぇぇぇぇ!!私の手ぇぇぇ!!」
しかし勢いづいたシャカパチは止まらない。
相手は盤面を見ずに、テーブルを指で叩いた。
トン……トン……
「……残りライフ……えっと……2700……?」
「違うよ!残り2800!!ちゃんと確認して!?」
(あれ……?さっきまで即答だったのに……)
弟「志希のシャカパチが速すぎて……
相手の“音の反響”が乱れてる……!」
(つまり……私の暴走シャカパチが……
相手の計算を邪魔してる……!?)
──────────────────────────────
相手のターン。
相手は墓地のモンスターをコストに、
新たなモンスター《黒鉄の巨兵》を出そうとする。
相手は墓地を叩く。
トン……トン……トン……
「……墓地のレベル……えーっと……10……?」
「違う!!9だよ!!」
「……ああ、そっちか」
「そっちかじゃない!!盤面見てよ!!」
弟「志希のシャカパチが“音のノイズ”になって、
相手の計算を狂わせてる……!」
相手は混乱しながらカードを伏せた。
「……返す」
志希のシャカパチは暴走を続けていた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
(やばい……止まらない……でも……この暴走……
相手の“音読み”を完全に狂わせてる……!
今なら……勝てる……!)




