志希、再び戦場へ
志希は男に出してもらったバーンデッキを抱え、
リビングでぐるぐる回っていた。
「……大会……出られるよね……?
私、カードショップ2回出禁だけど……
大会は……大丈夫だよね……?」
弟が冷静に言う。
「大会は“公式イベント”だから、
店側もエントリー拒否はできないはず……
ただし──」
「ただし?」
「3回目の出禁は普通にある」
志希は固まった。
「……えっ……?」
弟は指を折りながら説明する。
「1回目は“消臭スプレー全力噴射”で出禁。
2回目は“風呂キャンセル”で出禁。
3回目は……」
「なんでまだ何もしてないのに出禁確定なの!?!?」
「志希はもう“イエローカード2枚”なんだよ。
店長の中では、次に何か起きたら即レッドって状態」
「でも何もしてないよ!? まだ家だよ!?」
「店長の中では、
“志希が来る=何か起きる可能性が高い”っていう
統計データが完成してる」
「統計で出禁にしないでぇぇぇ!!!」
弟は肩をすくめた。
「つまり3回目は“まだ何もしてなくても、条件が揃えば発動する”ってこと。
店長の中では、志希は常時リーチ状態なんだよ」
「私、パチンコ台みたいな扱いされてるの!?」
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特訓係の男は、
志希がバーンデッキを抱えて跳ね回る姿を見て、
未来を悟っていた。
(……大会当日……
志希ちゃんは……絶対に発狂する……)
(優先権が絡む場面で固まり……
チェーンが絡む場面で叫び……
バーンで相手を焼きながら……
ジャッジを呼ぶ……)
(……3回目の出禁……確定だ……)
男は頭を抱えた。
「志希ちゃん……
大会は……その……
“穏やかに”戦ってね……?」
志希は元気よく返事した。
「任せて!私、穏やかに相手を焼き尽くす!!」
弟「言い方ァ!!」
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その夜。
志希は机にバーンデッキを広げ、
いつものテンションで配信を始めた。
「みんな〜!
大会まであと1週間だよ〜!」
《出禁の女が帰ってきた》
《バーンデッキってマジ?》
《店員さん逃げて》
志希は胸を張った。
「見て!これが“私でも勝てる”デッキ!」
志希はカードを1枚ずつカメラに向けて見せる。
「これ!相手のライフを直接削るやつ!
これも!これも!全部燃やすやつ!!」
《草》
《大会前に炎上しそう》
《勝っても負けても炎上確定》
《店長のライフが削られていく》
志希は拳を握った。
「……私、今回は絶対に出禁にならない。
出禁にならずに勝つ!!」
弟の声が背後から聞こえた。
「その目標、順番逆じゃない?」
コメント欄は静かにざわついていた。
《穏やかにバーンは無理》
《3回目の出禁カウントダウン》
《大会が楽しみになってきた》
その瞬間──
コメント欄に、ひとつだけ落ち着いた文字列が流れた。
《……志希ちゃん。
そのデッキ……どこで手に入れた?》
志希は画面に顔を近づけた。
「えっ……また来た……
あなた……誰なの……?」
コメント欄がざわつく。
《来たぞ》
《運命の人定期》
《特訓より頼りになるやつ》
《今日も文体が渋い》
志希はデッキを手に取りながら言った。
「これ?
ママの知り合いが“考えなくても勝てる”ってくれた!」
《志希ちゃん。
そのデッキは……“悪くない”。
ただ、今のままだと……勝ちきれない》
志希は固まった。
「えっ……?」
《バーンは弱くない。
ただ、扱いが単純なようで……実は繊細だ》
「繊細……?」
《君は“対象”も“チェーン”も曖昧だろう?
だから、今の構築だと……
自分が混乱して負ける》
志希は机に突っ伏した。
「なんで知ってるの!!?」
《君の配信を見ていれば分かる》
志希は涙目で言った。
「どうすればいいの……?」
そして──
男は、静かにヒントを落とした。
《志希ちゃん。
バーンを使うなら……
“相手の行動を見ないで済むカード”を増やすんだ》
志希は息を呑んだ。
「……そんなの……あるの……?」
《ある。
今から言うカードを手に入れろ。
デッキを君に合う形に構築するんだ。
カード名は……》
志希は画面を見ながら真剣にメモを取り、
小さくつぶやいた。
「……わかった……カード……買いに行く。
これで……勝てるよね……?」
《ああ。そして、もう一つ大事なことがある》
志希はごくりと唾を飲む。
《大会まで6日間、デッキ回しを怠るな。
そのデッキをくれた人の実力は本物だ。
一緒に“志希専用バーン”の手順を構築するんだ》
謎の男は最後にこう書き残して去った。
《志希ちゃん。君は勝てる。
だから──焦らずに来い》
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あれから6日間。
志希は毎日、男との特訓に加え、
配信で“志希専用バーンデッキ”の調整を続けた。
弟は毎日震え、
特訓係の男は毎日頭を抱え、
店長は毎日胃薬を飲んでいた。
そして──
大会当日。
志希は新品のスリーブに入ったデッキを抱え、
カードショップの前に立っていた。
自動ドアの向こうには、
すでに参加者たちが集まっている。
弟が横でつぶやく。
「志希……
今日、店長……
“警戒モードMAX”だぞ……」
志希は深呼吸した。
「大丈夫……今日は……
絶対に出禁にならない。
そして勝つ。」
その瞬間、スマホが震えた。
画面には──
あの“特訓係の男”からの最後のメッセージ。
《志希ちゃん。
今日の君は……強い。
自分のデッキを信じろ。
そして──
“自分の手札”を信じろ》
志希はスマホを握りしめた。
「……うん。行ってくる。」
自動ドアが開く。
店内の空気が変わる。
参加者たちがざわつく。
《あれ……志希じゃね?》
《出禁の女が来たぞ》
《店長の顔が死んでる》
店長は震えながら言った。
「……い、いらっしゃいませ……
志希さん……今日は……
大会エントリーですね……?」
志希は笑顔で言った。
「はい!よろしくお願いします!!」
店長は天井を見上げた。
(……どうか……今日だけは……
何も起きませんように……)
そして──
大会開始のアナウンスが響く。
「第1回戦、
志希さん、こちらのテーブルへどうぞ!」
志希はデッキを握りしめ、
ゆっくりと歩き出した。
男との特訓の日々を思い出しながら。
“運命の人”との約束を胸に。
そして──3回目の出禁の危機を背負って。
大会が、始まる。




