志希、山札でまた1週間詰む
1週間かけて、ようやくターンの概念を理解した志希。
しかし、次の壁はもっと高かった。
“山札”の概念を理解するための地獄が始まる。
──────────────────────────────
1日目。
志希:「山札って山の札でしょ?じゃあ……
山に行けば本物の山札が手に入るよね……?」
弟:「どこ情報だよ」
志希:「だってさ、山の上の神社で“お札”もらえるじゃん?
あれ絶対“山札”だよね!!」
男:「違う。あれは“おふだ”だ。“やまふだ”じゃない」
志希:「でも山にあるお札だから山札でしょ!!」
弟:「語感だけで生きるな」
志希:「じゃあさ、山札ってお札の山でしょ?
御朱印押してもらえば強くなるよね!!」
弟:「山札を御朱印帳の代わりにするな」
志希:「なんで!?山の神様のスタンプ押してもらえば、
絶対パワーアップするじゃん!!」
男:「志希ちゃん……
それはマークドで反則だよ……」
──────────────────────────────
2日目。
志希:「山札使う前に“登山届”出すんだよね?
だって山に入るとき必要じゃん!!」
男:「志希ちゃん……それは遭難防止の書類だよ……
カードゲームでは提出しないよ……」
志希:「じゃあ大会の受付に出すね!!
“本日、山札を使用します”って!!」
男:「それはデッキ登録だよ……
なんでたまに奇跡的に正解出すの……?」
志希:「じゃあ“下山届”も出す!!
山札使い終わったら下山するから!!」
弟:「カードゲームで下山するな」
男:「志希ちゃん……山から離れようか……?」
志希:「やだ!! 山が私を呼んでる!!」
弟:「呼んでない」
──────────────────────────────
3日目。
志希:「カードゲーマーって臭いって言われるじゃん?」
弟:「急に何」
志希:「あれキャンパーだからでしょ!!
山行くし、お風呂入らないし、自然の匂いがつくんだよ!!
山の匂い!!山札の匂い!!」
弟:「違うよ」
男:「志希ちゃん……カードゲーマーは山に行かないんだ……
むしろ逆だ……ずっと室内なんだ……」
志希:「じゃあ私が山に行って自然の匂いをつけてくる!!
山札も強くなる!!」
弟:「風呂キャンセルでカードショップ出禁になったの忘れたの?」
──────────────────────────────
4日目。
志希がドヤ顔でカードショップから帰宅した。
志希:「見て!! 山札のカード買ってきた!!」
弟:「……それ“基本地形:山”だよ。別のゲームだよ」
男:「志希ちゃん……それはただの土地だ……」
志希:「山って書いてあるから山札でしょ!?
だって“山”だよ!? 山札の“山”でしょ!?」
弟:「違う。語感だけで判断するな」
志希:「じゃあ山札に入れていいよね!?
山札なんだから山入れなきゃダメじゃん!!」
男:「ダメだ」
志希:「なんで!? 山札に山入れないの!?
逆に失礼じゃない!?」
弟:「いや“マジック:ザ・ギャザリング”に失礼だよ」
──────────────────────────────
5日目。
志希:「山札って山でしょ?
じゃあカードを山にすればいいんだよね?」
男「いや、そういう意味じゃ──」
志希は家中のカードを集め、床に巨大な山を作り始めた。
志希:「見て!!山札!!」
男:「志希ちゃん……山札は“デッキ”のことだ……」
志希:「じゃあこれ全部デッキでしょ!?」
弟:「違う。それはただの“積み上げたカードの墓場”だよ」
志希:「山札って山でしょ?
じゃあ種類関係なく山にすればいいよね?」
男:「いや、関係ある」
志希:「なんで!?
山は大きいほうが強いでしょ!?」
弟:「いや山に強さとかはないよ」
志希:「山って標高が高いほど強いんだよね……
じゃあ標高1mの山札は強いよね?」
男:「志希ちゃん、シャッフルだけでゲーム終わるよ……」
──────────────────────────────
6日目。
志希:「熊よけスプレーって熊が逃げ出すんでしょ?
じゃあ山札にかけたら強くなるよね!!」
男:「志希ちゃん……カードが溶ける……」
志希:「じゃあ私にかければ最強になるよね!?
これで熊も怖くないし!!」
弟:「かけるな。ていうか人に向けて使ったら事件だよ」
男:「志希ちゃん……熊よけスプレーは“最終手段”なんだ……
カードゲームに必要ないんだ……」
志希:「なんで!?山札って山のカードでしょ!?
熊に食べられたら困るじゃん!!
じゃあオオカミの尿買う!!
山札守るために!!」
男:「それはアロマ(悪臭)タクティクスで反則だよ……」
志希:「じゃあ私にかければいい?」
弟:「やめろ。元々臭いカードショップがさらに地獄になる」
──────────────────────────────
7日目。
志希:「……わかった。山札って……
“まだ引いてないカードの山”でしょ……?」
男:「……そうだ」
志希:「やったああああああああ!!
私、山札理解した!!」
弟:「山札理解に1週間かかるのは志希だけだよ」
──────────────────────────────
志希が山札で苦しんでいる間、
配信のコメント欄に妙な書き込みが増えていた。
《あの男、大会レポートに写真載ってたよ》
《海外では“カード拾いの天使”って呼ばれてる》
《海外の大会でよく目撃されてる》
志希:「えっ……?あの人……そんな有名なの……?」
弟:「志希、あの人ただの“カード落としちゃった男”じゃなかったんだよ」
志希:「じゃあ……なんで私のカード拾ってくれたの……?」
弟:「知らん」
そして、決定的な情報が投下される。
《あの人、“世界大会の裏方スタッフ”だったはずだよ》
志希:「えっ!?世界大会の……スタッフ……?」
《大会の裏でカード管理とか、
落とし物の対応とかしてた人。
彼に探せないカードはないとまで言われてる》
志希:「えっ……じゃあ……
私が落としたカード拾ってくれたのって……
ただの職業病……?」
弟:「志希、ロマンが死ぬぞ」
志希:「やめて!!ロマンは残して!!」
《あの人、近々“選手に復帰する”って噂もあるよ》
志希:「……え……なんか……
急にドラマっぽくない……?」
弟:「志希、恋愛脳が加速してるぞ」
志希:「だって……落とし物拾ってくれて……
その人と一緒に世界大会に出るとか……
運命じゃん……!」
弟:「いや、まだ名前も知らないだろ」
志希:「名前なんていらないよ!!
運命は名前を超えるんだよ!!」
そして志希は配信をつける。
「みんな……聞いて……
山札の概念でまた1週間詰んだんだけど……
それはいいとして……
“カード落としちゃった男”が……
世界大会のスタッフかもしれないって……
なんか……私……運命に近づいてない……?」
コメント欄が爆発する。
《カード拾いの天使ってなんだよ》
《カードだけじゃなくて志希も落としてる》
《志希の恋愛脳が暴走してる》
《世界大会の前にルール覚えろ》
志希は胸を張る。
「……でもさ……
山札理解したってことは……
私、栄光への坂道を上り始めたってことだよね・・・
これ、もう実質8合目まで来てるよね・・・」
リスナーは悟った。
志希は手札でも1週間詰む。




