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志希、恋愛脳で覚醒

志希(しき)は“カード落としちゃった男”に再会するため、世界大会に出ると高らかに宣言した。


だが、その直後。

彼女の脳内に、ひとつの疑問がぽつりと浮かぶ。

「……世界大会って……どうやって出るの……?」


隣でゲームしていた弟は、コントローラーを置きもせず即答した。

「知らん。普通は予選とかあるだろ」


「予選!? なんで!? 私、カードも一枚しか持ってないのに!!」


「当たり前だろ。誰でも“世界大会行きます!”で行けたら地獄だよ」


志希はむっと頬を膨らませ、勢いよく言い返す。

「でもさ!! 運命の人に会うんだよ!? 運命なんだから!!

ルールのほうが私に合わせてくれればよくない!?」


「いやいやいやいや。ルールが志希に合わせて変わったらこの世の終わりだよ」


「なんで!? 恋愛イベント強制発動なんだよ!?

ロマン砲デッキなんだよ!?

世界大会側が合わせるべきじゃん!!」


「世界大会は恋愛イベントじゃないよ」


そのやり取りを見ていた配信のコメント欄が、一気に騒がしくなる。

《志希、世界大会を乙女ゲーと勘違いしてる》

《ルールが志希に合わせるの草》

《恋愛経験ゼロ界隈に無理やり恋を持ち込む女》


志希は机を叩き、勢いよく立ち上がった。

「じゃあ!! 私がルール覚えればいいんでしょ!?

覚えるよ!! 覚えれば世界大会行けるんでしょ!!」


弟は冷静に現実を突きつける。

「いや、覚えるだけじゃ無理だよ。勝たなきゃいけないんだよ」


「勝つよ!! 運命が味方するんだから、私が勝つのは当然なんだよね!!」


「運命の力で勝てるなら誰も苦労しないよ」


志希は拳を握りしめ、遠くを見るように呟いた。

「……待っててね……絶対会うから……世界大会で……!!

運命の人と……!!」


弟はそんな姉に、さらに追い打ちをかける。

「まずはローカル大会からだよ」


「ローカル大会……?」


「そう。近所のカードショップでやってる小さい大会。

そこで勝って、ポイント貯めて、予選抜けて……やっと国内大会」


「長ッ!!」


「当たり前だよ」


志希は天を仰いだ。

「……恋愛って……こんなにハードモードなの……?」


「恋愛じゃなくてカードゲームの話だよ」


コメント欄:

《志希の恋愛、RPGのラスボス戦から始まってる》

《世界大会より恋愛がハードモードな界隈》

《まずはルール覚えろ》


志希はスマホを握りしめ、決意の表情を浮かべた。


「……よし。まずはルール覚える。次にデッキ組む。

そして大会に出る。世界大会に行く。

運命の人と結婚する!!」


「最後だけ急すぎるよ」


「急がないと!! 運命は待ってくれないんだよ!!」


「デッキだけじゃなくて戦略も必要だよ」


「あんたは黙ってて!! 今日中にルール覚えるから!!」


志希はそう言って、“クロノ・アーク”のルールブックを検索し始めた。


───────────────────────────────────


リビングでは、ママが電話をしながら優雅に微笑んでいた。


「ええ……ええ……

 世界大会の枠を一つ、空けておいてほしいの。

 あなたならこのくらい簡単よね?」


弟はその言葉を聞いて青ざめる。

「ママ、何してんの……?」


「あの子が世界に行くなら、道は整えてあげないとね」


「いやいやいや!!

大会ってそういうもんじゃないから!!」




一方その頃、志希はルールブックを読みながらパニックを起こしていた。


「無理無理無理!!

……ちょっと待って、なにこの専門用語の暴力!?

“スタック”? “優先権”?

ていうか“戦場”と“フィールド”って何!?

同じ場所じゃないの!?

なんでカードゲームなのに地理が複雑なの!?」


「う~ん・・・今日は無理・・・ちょっと休憩」

五分で心が折れた志希は、ジュースとお菓子を求めてリビングへ向かう。


そこで偶然、志希はママの電話を聞いてしまった。


「ええ、志希を“特別枠”で……」


「……え?」


「もちろん、費用は“昔の知り合い”が──」


「ちょっと待って!!

ママ!!

私、特別枠で世界大会行くの!?

そんなのズルじゃん!!」


ママは優しく微笑む。

「志希、あなたは“運命の人”に会いに行くんでしょ?

なら、道は作ってあげるわ」


志希は震えた。

「いやいやいや!!

私、そんな裏口入学みたいなの嫌だよ!!

ちゃんと実力で行きたい!!」


弟が冷静に刺す。

「志希、実力ないだろ」


「うるさい!!

でも……でも……ズルは嫌だよ……!」


そのとき、電話越しにスーツの男の声が響いた。


「志希ちゃん……君がそう言うなら、俺も本気で鍛えるよ」


「えっ……?」


「“運命の人”に胸を張って会いたいんだろ?」


志希は顔を赤くした。

「……うん……会いたい……ちゃんとした私で……!」


弟は呆れたように言う。

「志希、恋愛で覚醒してる……」


───────────────────────────────────


志希は配信をつけ、真剣な顔で語り始めた。


「みんな……聞いて……

 ママが世界大会の切符を用意してくれてて……

 でも私、それ嫌で……

 ちゃんと実力で行きたいって言った……

 なんか……私……成長してない……?」


コメント欄が爆発する。

「志希がまともなこと言ってる」

「裏口拒否は偉い」

「恋愛で覚醒するタイプ」

「志希、今日だけ主人公」


志希は拳を握りしめた。


「……でもさ……

 実力で行くって決めたから……

 カード必要だよね。

 私、主人公だもん。

 またオリパ引きまくれば、

 すぐにデッキ作れるよね?」


その瞬間、弟は頭を抱えた。


大会に出るプレイヤーにとって、カードはシングル買いが主流である。


志希が“オリパの束=デッキ”ではないと気づくのは、もう少し先のことだった。

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