<EP_033> 真実の記憶
ジェイムズは【楽園】の封印に成功すると、ゼロの力を使って黄金を錬成して道具を揃え、街を出る準備をしていく。
【楽園】の封印には成功しているように見えるものの、システム全体のコントローツはオムニスの管理下なのは変わらない。
オムニスが【楽園】の復活をさせてくるとも限らないからだ。
街を出る準備をしているとターニャが話しかけてきた。
「ジェイムズ、どうしたのにゃ?」
「街を出ようと思ってね。だから、ターニャとはここでお別れだ」
ジェイムズの言葉にターニャは悲しそうな顔をする。
「どうして、そんなことを言うのにゃ?ジェイムズはアタシが嫌いになったのにゃ?」
涙を湛えて言ってくるターニャの顔にジェイムズは言葉を失ってしまう。
「そんなことないよ……」
「なら、一緒に行っていいのにゃ?」
「ああ……」
「じゃ、アタシも用意してくるにゃ」
ジェイムズが頷くと、ターニャは目を拭い部屋を出ていく。
ジェイムズは怪訝に思い、画面を呼び出して確認するも、【楽園】のログには何も表示されていなかった。
ジェイムズは【楽園】を封印し、自らの手で森を開拓していく。
昼間は自らの力で木を切り出し、夜はテントとも言えない小さな小屋を建て、ターニャと肩を寄せ合って寝る。
ターニャもジェイムズのために森と街を駆け回って生活に必要な物資を確保してくれた。
数ヶ月も経つ頃には小さなログハウスが完成した。
(これが、俺の家……)
前回の【楽園】によって作られた家と較べて、はるかに不格好な家であったが、その外見がジェイムズには誇らしいものに見えた。
「やったにゃ。ついにお家が完成したにゃ」
ジェイムズの隣でターニャは一緒に喜ぶ。
システムによって与えられた人間離れした身体能力ではあるものの、自身の行動で得た充実感こそが、ジェイムズにとっての「真実の記憶」であった。
家が完成すると、ジェイムズは隣に小さな畑を作る。
黄金錬成によって生活費に苦労する必要は無かったが、ジェイムズはその手を使わなかった。
(黄金を生成して買い物をすれば、楽はできる。だが、それでは前回と何も変わらない)
鍬を手に取り、土を耕す。 魔法を使えば一瞬で整地できる地面を、彼は数日かけて自分の手で掘り返す。血豆ができ、腰が痛み、爪の間に黒い土が入り込む。
その「痛み」や「疲労」こそが、自身の肉体が獲得した真実の記録だった。
ターニャは不思議そうに彼を見ていた。
「ジェイムズ、魔法を使えばすぐ終わるのに、どうしてそんなに苦労するのにゃ?」
「……これは、俺たちの糧なんだ。俺たちの手で育てたものじゃないと、食った気がしないんだよ」
ジェイムズの言葉に、嘘はない。
「何ができるか」よりも「何をして生きるか」を大切にしたかった。誰かが用意したモノではなく、不格好な木の椅子、自分が選んで植えた野菜の種、そしてターニャとの会話。それら全てが、「実在の証」と信じた。
数カ月後、ジェイムズの手には、泥だらけの芋が陽光に煌めいていた。




