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<EP_003>

翌日、ゼロはいつものように目を覚ました。

王城のメイドが持ってきた朝食を食べると、王城の外に出てみる。

城門から見下ろす街の様子はいつもと同じ様な雰囲気を出していた。

(あれ?思ったより被害は少なかったみたいだな。良かった。)

城門の外で街を見ているゼロに気づくと、住民たちから声が上がる。

「おお、あれが竜殺しの英雄、ゼロ様だ」

「ゼロ様、万歳!」

その声にゼロが手を振って応えると、歓声は更に大きくなった。

「ふふ、ゼロもすっかり英雄にゃ」

いつの間にか来ていたターニャがニヤケながらゼロを肘でつついた。

「よせやい。ボクはただの失敗召喚者さ」

ゼロはそう言うと王城へと戻っていった。

部屋に戻り帰り支度をしているとアリスが入ってきた。

「ゼロ様、どうなされましたの?」

アリスは帰り支度をしているゼロを不思議そうに見つめてきた。

「いや、あんまりお邪魔するのもどうかと思ってね。家に帰ろうかと」

「まぁ、いつまでも居てくださって構いませんのに…」

ゼロの言葉にアリスは悲しそうな表情を浮かべた。

「そうにゃ。王城にいれば、美味しいものがいっぱい食べられるにゃ」

アリスの後ろから入ってきたターニャがそう言ってくる。

「じゃあ、ターニャは残れば良いよ。ボクは家に帰るよ」

「じゃあ、アタシも帰るにゃ。ゼロと一緒がいいにゃ」

満面の笑みで言い切るターニャをアリスは羨ましそうに見ていた。

「ゼロ様。今日はお父様がゼロ様の竜殺しの英雄の式典を用意してますわ。お帰りになられるのは、その後にして下さいませ」

アリスの潤んだ瞳で嘆願されると、ゼロは頷くしかできなかった。


竜殺しの式典は城門前の広場にて大々的に執り行われた。

住民の多くが見物におしかけた。

「勇者ゼロよ。この度は良くぞ竜を倒し、街の平和を守ってくれた。ボケータ王の名において、これを賞する」

ボケータ王が勲章を捧げ持ち、近衛兵へ渡し、それがゼロの胸に付けられると、集まった人々は熱狂的にゼロを祝福した。

式典の熱狂がピークに達し、軍楽隊が高らかに演奏しようとした時だった。

空が俄にかき曇り、稲妻が走り軍楽隊を次々に打ち倒していった。

そして、一際大きな稲妻が広場へ落ちると、そこには6対の翼を持ち、大きな羊の角を生やした半裸の男が立っていた。

「驚かせてしまって申し訳ない。我が名は魔王アホモス。我が眷属を良く退けたと言っておこう。ただ、我が軍の力はこんなものではない」

アホモスはそう言うとボケータ王へと向き直った。

「ボケータ王よ、我が軍門に下るなら、ボケータ国の住民は奴隷で済ませてやろう」

アホモスは一方的に告げると翼をはためかせ、ボケータ王の近くにいたアリスを抱えると、上空へと飛び立った。

「きゃぁぁっ」

「アリス!」

ゼロは咄嗟にぶつける何かを探すも見つからなかった。

「しばしの猶予を与えよう。この美しい王女は人質にさせてもらうぞ。答えが決まったら我が城へと来るが良い」

そう宣言したアホモスはそのままアリスとともに消えていった。

アホモスが消えた後、ボケータ王はその場に倒れ込んでしまった。


式典はうやむやの間に終わり、場内の広間に戻るとボケータ王は玉座に沈み込んでしまう。

「おお、どうしたら良いのだ……」

沈み込むボケータ王を見ながらゼロは言った。

「ボケータ王。ボクが行きます。ボクが行って魔王を倒してアリスを助けてきます」

ゼロの言葉にボケータ王は目を輝かすが、すぐに伏せてしまう。

「ゼロ殿。申し出は嬉しいが、いかにゼロ殿とて一人では……」

王がそう口ごもると、近衛兵の中からも声が上がる。

「王様、俺も行きます。姫の身を守れなかったのは我らの失態です。俺が責任を持ってゼロと一緒に姫を助けてきます」

そう言って、一歩前に出たのは近衛騎士団で最強と名高いバーカスであった。

「ゼロが行くなら、アタシも行くにゃ!」

ターニャも元気良く声を上げる。

「うむ…皆のもの、頼もしく思うぞ。ゼロ殿、よろしく頼みますぞ」

傷心の顔のままボケータ王はそう言った。

「でも、もう一人ぐらい、回復魔法が使えるヤツが欲しいところだな」

バーカスの言葉に、人々の中から、一人の女性が一歩前に進み出た。

彼女は艶やかな黒髪を丁寧に結い上げ、簡素ながら清潔なシスターの服に身を包んでいた。一切の華美な装飾がない服装にもかかわらず、その存在は広間の全てを静かに照らすようであった。

彼女からは、アリスのような王族の高貴さではなく、全てを許容し、優しく包み込むような慈愛の雰囲気が漂い、その瞳は、誰も見捨てないと誓ったかのような優しさに溢れていた。

「私でよろしければ、連れて行っていただけませんでしょうか」

その澄み切った声は、荒れた心に静かに染み渡る癒しそのものだった。

「おお、マリア殿。貴殿が行ってくれるか」

彼女の同行の申し出にボケータ王の顔が輝いた。

「へぇ、聖女と名高いマリアが一緒に来てくれるなら百人力だな」

バーカスもニヤリと笑う。

「有名人なのかい?」

ゼロはそっとターニャに尋ねる。

「当たり前にゃ。マリアはボケータ国の神殿のシスターにゃ。聖女様って言われてるぐらいの回復魔法の使い手なのにゃ」

ターニャの言葉を聞き、ゼロは改めてマリアを見た。

マリアの切れ長の目と目が合うと、ゼロの心には、初めて訪れた故郷のような、深い安堵感が広がった。

「ゼロ様。私を魔王討伐の旅に連れて行って下さいませんか」

そう言ってくるマリアにゼロはただ頷くだけだった。

「勇者ゼロに、聖女マリア、そして俺様。これだけ揃えば魔王なんてイチコロさ!」

「アタシもいるにゃ!」

バーカスとターニャの言葉に人々から歓声があがった。


魔王討伐の旅は順調そのものだった。

魔王の手下となった魔物が4人に襲いかかってくるが、4人は簡単に片付けていった。

ターニャがその俊敏性を活かして敵を撹乱し、バーカスが前線に突撃して敵を引き付けると、ゼロが後方から石や砂をぶつけていけば敵は簡単に蜂の巣になった。

前線へ無謀ともいえる突撃を繰り返すバーカスは常に傷だらけだったが、マリアがそれを癒やしていく。

「もう、バーカスったら。あんまり無茶しないでよね。私の苦労も考えてよ」

バーカスの傷を癒しながらマリアが愚痴をこぼす。

「へん、身体の傷は戦士の勲章さ。傷が怖くて戦士ができるかってんだ」

バーカスは豪快に笑いながらマリアの治療を受けていく。

「もう……そんなんじゃ、命がいくつあっても足らないわよ。はい、終わり!」

治療が終わるとマリアは思い切りバーカスの背中を叩いた。その痛みにバーカスが飛び上がった。

その様子を見ながら、ターニャが笑っていた。

(ああ、なんかいいな。この二人、とってもお似合いだ。くっついちゃえば良いのに)

そう、ゼロが思った瞬間だった。

【Tuning Skill Activate.】 Target: Barkus(ID:003) + Maria(ID:004) -> Relationship: Love_Pair. Status: Complete!

一瞬、ゼロの目の前に半透明の画面が現れ、すぐに消えた。

ゼロは一瞬訝しんだが、見間違いだろうと思い、すぐに忘れた。


そして、4人はアホモスの元へとたどり着いた。

「よくぞ、たどり着いた勇者ゼロとその一行よ。ボケータ王は我が軍門には降らぬということだな」

魔王の城の玉座に座りながらアホモスはそう告げてきた。

「当たり前だ。アリス姫は返して貰うぜ!」

「そうよ。あなたを倒して、ボケータ国に平和をもたらすんだから!」

バーカスが大剣を構え、マリアも杖を構えて叫んだ。

「ゼロ様!逃げて下さい。アホモスは強大です。私のことは構わずに逃げて下さい」

アホモスの後ろで壁に貼り付けられたアリスがそう叫んだ。

「くくっ、姫よ。そこで勇者たちが惨たらしく死んでいく様を見ているがよい。そなたには亡国の歌姫として、我の強大さを歌い継いで貰うぞ」

アホモスはそう言うとゼロたちへと向き直った。

「この魔王アホモス様に逆らうなど身の程をわきまえぬ者たちよ。ここに来たことを悔やむがよい。再びび生き返らぬよう、そなたらのハラワタを喰らいつくしてくれるわっ!」

そう言うとアホモスは襲いかかってきた。

アホモスが腕を振るうと衝撃波が生まれ、ゼロたちへと襲いかかってくる。

マリアが咄嗟に防御魔法を唱えるが、その障壁はいとも簡単に破られ、バーカス、マリア、ターニャは吹き飛ばされるが、ゼロは耐え腰の剣を抜き放つとアホモスへと飛び込んでいった。

ゼロが剣を振るうと、アホモスの腕は斬り飛んでいく。

「おのれ、勇者め!」

アホモスが残った手でゼロに掴みかかるが、返す刀でゼロはその腕も斬り飛ばしていった。

両腕を失い、アホモスは後退りした。

「くそっ、ここまでとは…」

「アホモス!貴様の首、貰い受ける!」

そう叫んだゼロが剣を横薙ぎに振るうとアホモスの首と胴体が切り離され、アホモスは絶命した。

アホモスが死ぬとアリスを拘束していた拘束具が解かれ、アリスはゼロの胸に飛び込んだ。

ゼロがアリスを抱きしめると、アリスもゼロの胸に顔を埋める。

そして、二人は見つめ合うと口づけを交わした。

「おうおう、見せつけてくれるにゃ」

「終わったみてぇだな。姫、ご無事でしたか」

「うふふ、すっかり二人の世界って感じ」

いつの間にか立ち上がったターニャ、バーカス、マリアがニヤニヤと笑いながら二人をからかうと、二人は真っ赤になって俯いた。

その瞬間、魔王城が激しく胎動し、天井が音を立てて崩れ始めた。

「まずいにゃ。崩れるにゃ!」

5人は必死になって魔王城から脱出しようとするが、魔王城は迷宮となっており、脱出するのは困難であった。

【Tuning Skill Activate.】 Function: Teleport_Entity (ID: 005, 006, 007, 003, 004). Destination_Vector: [502.8, 12.0, 99.4] (Bokert Plaza). Status: Execute_Force.

ゼロの前に半透明の画面が現れると、ゼロたち5人は光り輝く球体に包まれ、そのまま上昇していった。

そのまま地上へと到達すると、そのまま飛行し、ボケータ城前の広場へと到着した。

城前の広場に降り立った5人に気づいた住人が歓声を上げ、それに気づいた兵士も城門から飛び出してくる。

たちまち広場は興奮のるつぼと化し、人々の熱狂的な歓声に包まれた。


兵士たちに連れられ、広間につくとアリスとボケータ王は抱擁を交わした。

その様子をゼロの後ろで、3人は涙を流しながら見ていた。

ボケータ王は、アリスとの抱擁を終えるとゼロたちを見据える。

「勇者ゼロ殿。よくぞ魔王を打ち倒してくれた。近衛騎士バーカス。そなたの働きは実に見事であった。聖女マリア殿。そなたの献身ぶりは目を見張るものがあった。ターニャも、良く戦ってくれた。さぁ、皆のもの、今宵は勇者の凱旋を大いに祝おうぞ!」

ボケータ王の宣言に広間が歓声に包まれた。

「やった。今日はご馳走にゃ!」

ターニャが無邪気に声を上げた。


その日は夜遅くまで宴が開かれた。

街には花火があがり、ゼロたちを祝福してくれていた。


翌日、ゼロたちは再び広間に集められた。

ゼロたちが広間に現れると、ボケータ王は玉座から立ち上がり、ゼロの元に歩み寄った。

「ゼロ殿。この度は何度礼を言っても尽くせぬほど、お世話になった。そこでじゃが、ワシはゼロ殿に王位を譲りたいと思っておる。どうじゃ、ワシに代わって、この国を率いてはくれぬか」

ボケータ王の突然の言葉にゼロは言葉を失ってしまった。

ゼロは少し考えた後、首を横に振った。

「ボケータ王。申し出は嬉しいのですが、ボクは王になるつもりはありません。郊外の家で静かに暮らしますよ」

そう、きっぱりと断った。その目に揺るがぬ意思を感じ取り、ボケータ王はため息をついた。

「そうか…なら仕方あるまい。皆のもの、勇者に最大の拍手と感謝の意をもって送り出そうではないか」

ボケータ王の言葉に広間には拍手と歓声が広がった。

「お待ち下さい!」

その歓声を切り裂くようにアリスが叫んだ。

「お父様、私、アリスはゼロ様と一緒に暮らしとうございます。 なによりも、私にとってゼロ様こそが最高の宝物です。 ゼロ様が静かに暮らされるというのなら、私も王女の座を捨てて、ゼロ様の永遠の隣人となりとうございます! どうか、ゼロ様の隣で、王女ではない一人の女性として、生涯を過ごさせてくださいませ!」

アリスはそう言うと、真実の愛を訴えるかのように、潤んだ瞳でゼロを見つめてきた。

「お、おお……アリスよ。そこまで申すか……」

ボケータ王は娘の真剣な眼差しに言葉を詰まらせる。

「姫様、そんな!王女の座を捨てるなどと……」

バーカスが驚きの声を上げた。

「ふふ、愛だねぇ。アリス姫の決意、アタシは応援するにゃ!」

ターニャはニヤニヤしながら拍手を送った。

「まぁ、ゼロ様は本当に罪な方。最高の女性に、そこまで言わせるなんて……」

マリアも優しく微笑みながら、二人の愛を祝福した。

「ゼロ様。アリスをお側に置いて下さいませ」

アリスの潤んだ瞳にゼロは頷くしかできなかった。

「おい、ゼロ。この国の最高の宝を持ち出すんだ。絶対に幸せにしろよな」

「ええ、アリス様もお幸せにね」

ゼロの返答を見て、バーカスとマリアが二人に近づいて祝福の言葉を伝える。

「バーカスもマリアをちゃんと幸せにするにゃ!」

その姿にターニャが声をかけた。

「え?どういうこと?」

ターニャの言葉にゼロが目を丸くする。二人を見ると、二人とも顔を赤らめて俯いていた。

「もう、ゼロはニブいのにゃ。」

ターニャはニヤニヤしながらバーカスを肘でつついた。

「あ、いや、実はな…その…マリアがおめでたなんだ…」

バーカスの言葉にゼロとアリスは驚いてしまった。

「ゼロ、アリス様…俺たちの結婚式には是非出てくれよな」

バーカスは照れくさそうにマリアの肩を掴んで引き寄せた。

「おめでとう、マリア、バーカス」

アリスは太陽のような笑みで二人を祝福する。

王女アリスの結婚と聖女マリアの懐妊の発表に広間の興奮は最高潮に達した。

その興奮と祝福の言葉の中、ゼロはアリスとともに王城を後にした。

その後ろを慌ててターニャもついていった。

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