<EP_025> 愛と言う名の鎖
高性能な演算機器などこの世界には無い。
計算をするには手で実際に計算するしかない。
ジェイムズはログハウスに籠もって計算しつづけた。
ジェイムズは焦っていた。
もう少しすればアリスがサイとサリスを連れて戻って来る。
この研究は最愛の妻と子どもたちの存在を否定するための研究である。
家族の顔を見て決意が揺らぐことがジェイムズは怖かった。
恐怖を振り払うために、街に行き大量の紙を買い付け、戻っては計算する日々。
びっしりと計算式が書かれた紙の中で力尽きて眠ってしまった時、ログハウスのドアが開けられた。
涙を浮かべ、慈愛に満ちた顔のマリアが立っていた。
「ゼロ、もう止めて。何を研究しているかはわからないけど、お願い、少しは休んで。このままじゃ、あなたが壊れてしまうわ」
「うるさい。この淫売。夫が死んだ翌日に友人に股を開くような偽りの聖女め。俺は騙されないぞ。この偽りの世界を壊してやるんだ」
「ええ、そうかもしれません。私はゼロを愛してる。たとえあなたが、私をどんな言葉で罵っても、あなたを心配する気持ちは変わらない。どうか、体を休めて」
ジェイムズの罵声に、マリアは祈るように跪き、慈愛の目でジェイムズを見つめてくる。
その姿に、完全にマリアを壊してしまったという事実を突きつけられ、ジェイムズは天を仰ぎ、瞑目した。
「わかったよ、マリア。少し休むさ。だから、今は一人にしてくれ」
マリアは納得したのか、夕食用のパンとシチューを置いてログハウスを出ていく。
ジェイムズはパンとシチューに手を伸ばす。
パンとシチューはとても塩辛かった。
計算が終わり、夜明けと共に目覚めると、ジェイムズは着替えて、外へ出る。
空には朝焼けが広がっていた。
(朝焼け……スペクトル分解……ラフォーン中尉……)
朝焼けの空を見ながら、ジェイムズはラフォーン中尉の言葉を再び思い出す。
「ジェイムズ。この世はスクリプトなんかじゃ動いてないぜ」
(そうだ…スクリプトで動く世界は世界じゃない。今日、決着をつけてやる)
深呼吸するとジェイムズは飛び立とうとした。
「ゼロ、どこへ行くにゃ。今日はアリスとサイ、サリスが戻って来る日にゃ。ゼロがいなかったら3人が悲しむにゃ」
いつの間にかターニャが立っていた。
(あぁ、この世界はどこまでを俺を縛り付けようとしやがる……)
奥歯を噛み締め、精一杯の優しい顔を向ける。
「ターニャ。マリアと一緒にアリスとサイ、サリスを頼む」
ジェイムズはそう言うと、一気に飛び立った。




