<EP_020> 世界を探れ
翌日、ログハウスの脇には豪邸が建っていた。
「うわぁ、立派な家が建ったにゃ。これなら、アリスが帰ってきても、ゆっくりできるにゃ」
はしゃぐターニャの後ろで、ジェイムズは豪邸を眺める。
(一夜にして、こんな豪邸が建つなんてありえない。夜通しサーヴァントたちが動いたとしても無理だ。やはり、この世界は……)
「ゼロ!さっそく引っ越しにゃ!」
ターニャとサーヴァントに引っ越しを頼むと、ジェイムズは街へと向かった。
街で馬車を用立て、新居に必要な物を買い、荷台へと積んでいく。
マリアを拾って新居へと戻る。
「うふふ、私たちの新しい家ができたのね。楽しみだわ」
御者台に並んで座り、マリアは微笑みながらジェイムズの腕に絡んできた。
マリアの体温と柔らかさが伝わってくる。
(マリア、ごめんな)
新居へ到着すると、サーヴァントたちに荷物を運び込ませ、馬車を街に返す。
戻って来る頃にはすっかり日も落ちていた。
「おかえりにゃ、ゼロ」
「おかえりなさい、ゼロ」
ジェイムズの帰りを二人は笑顔で出迎え、三人で夕食を摂る。
明るいリビング、暖かい部屋、そして微笑みながら会話をしている美女二人。
(二人を変えてしまったのは俺だ……そして、この世界を狂わせているのも俺だ……)
幸せなはずの風景はどこか空虚で現実味を感じられない。
「ねぇ、ゼロ。今夜はどっちとスるにゃ?それとも三人でスる?」
食事が終わり、ターニャの無邪気な言葉にジェイムズは我に返る。
ターニャもマリアも期待を込めてこちらを見ていた。
「いや、俺は今夜は離れで寝るよ。一人で考えたいことがあるんだ」
「そうなのにゃ……」
「ごめんな、ターニャ。マリアも。二人ともゆっくり休んでくれ。じゃあな」
ジェイムズは一人新居を出て最初の家へと戻っていった。
ジェイムズは何もなくなったログハウスのベッドに横になる。
(これ以上、この世界を狂わせるわけにはいかない。俺がこの世界の真実を暴いてやる!)
ジェイムズは天井を睨みつけると、目を閉じた。
翌朝、目が覚めるとジェイムズは「出かけてくる」と書き置きをドアに貼り付け家を出た。
ターニャやマリアに探索の邪魔をされたくなかったからだ。
ジェイムズは飛行の魔法で空へと飛び立つ。
雲を突き抜け空へと飛び出すと、ある程度の場所で上昇できなくなった。
雲を突き抜けたということは、高度2,000mを超えていると思われるが、体感の気温が下がった感覚は無い。
ジェイムズは持ってきた弓で矢を上空に向けて放ってみると、矢は虚空へと飛んでいく。
空間があるようには見えるが、そこに到達する手段が無いということだ。
(ふむ……この高さでは地表全体を見下ろすということは無理そうだな)
街の方向へ飛び、上から見下ろすと、マリアの家があった区画も既に復興している。
(やはり、復興速度が早すぎる)
世界の法則が狂っているということを改めて思い知らされただけだった。
ジェイムズはグノーカス王国があった方へと飛んでみる。
かつてグノーカス王国があった場所へ向かうと、そこにあるのは何もない平野が広がっているだけ。
ジェイムズは空中であぐらをかいて考えてしまう。
(おかしい。グノーカス王国が滅んだとしても、王城以外にも人はいたはずだ。その人たちが王都を更地に変えたとしても、そこで生活を始めない理由は無いはずだ。なぜ、更地なんだ?)
ジェイムズはステータス画面からスキルの発動ログを遡ってみた。
【EDEN System Activate.】 Target: Repair_City.exe……Complete!
ボケータ国に最初にドラゴンが襲来した後の一つのスクリプトだった。
(なるほど、俺が願ったから街の復興はすぐだったんだ。ならば……)
足元に広がる平野を見てジェイムズは恐ろしい仮説を思いつく。
(俺が「必要ない」と考えたからだ。俺が必要ないと思うからグノーカス王国は平地となり、そこに住む人まで消えたんだ。バーカスやトンマのように、俺が「不必要」と思えば人も街も消える……ならば……)
ジェイムズは思わず、家とボケータ国のほうを見てしまう。
(ダメだ……止めろ、ジェイムズ。考えるな。ここでは、お前の思考が現実になる。考えるな)
必死で自分の考えを押し止めた。
自分の手を見つめる。
(全てはこの【楽園】スキルのせいだ。そもそも、コイツはSkillじゃない。Systemだ。なぜ、こんな能力が俺に与えられてる?俺にこんな能力を与えたヤツは誰だ?)
ジェイムズは天を見上げ、睨みつけた。
(ふん、上には限界があるなら、下に進むまでさ。待ってろ、てめぇの元に絶対に辿り着いてやる)
天を睨みつけ、そこにいるかどうかは分からないが、この世界を統べるモノに対してジェイムズは怒りを叩きつけた。




