<EP_015> 崩壊していく現実
耳をつんざくような警報音が鳴り響き、視界は、そこかしこで上がるオレンジ色の炎と、濃い灰色の煙で半分以上が覆われていた。
通路の天井から火花が散り、無数の溶けた配線がプラスチックの悪臭を放ちながら垂れ下がっている。
「ジェイムズ! 緊急隔離だ。早く来い、間に合わないぞ!」
男の叫び声が、警報と炎の轟音の合間を縫って聞こえる。
見れば、床が激しく揺れ、傾斜し、視界の先では、厚い金属製のハッチが、激しい振動とともにゆっくりと閉じ始めようとしていた。
ゼロが閉じるハッチの下に転がり込むとハッチが閉まり、強烈な爆発音が奥から聞こえてきた。
「グアッ!」
ゼロはその場にしゃがみ込んだ。
「どうしたの、ゼロ?」
見れば裸のマリアが、心配そうにこちらを見ていた。
窓の外からは、雷鳴と、雨が打ち付ける音だけ。
「……何だ、今の」
体中が汗でびっしょり濡れていた。全身が焼けるように熱く、喉が渇いていた。
何より、金属の焦げ付く臭いが、現実のものとして、鼻腔の奥に残っている。
「ゼロ、大丈夫?」
しゃがみ込み動けないでいるゼロをマリアは優しく抱きしめた。
マリアの柔らかく暖かい感触が伝わってくる。
「あ、ああ、大丈夫だ……」
マリアの手を触りながら、ゼロは声を絞り出し立ち上がると、台所へ行き、水を飲む。
カラカラに渇いていた喉が潤され、ゼロは一息ついた。
(なんだったんだ、あれは。まるでSF映画のワンシーンじゃないか……)
突然フラッシュバックした映像にゼロは考えてしまうが、答えは出なかった。
「ねぇ、ゼロ……私、お邪魔だったかしら……」
「いや、そんなことないよ……」
心配そうにこちらを見るマリアに、そう言うのが精一杯だった。
「嬉しい。ゼロ……私にはあなたしかいないの」
マリアが抱きついてくる。
親友の葬儀の直後にその妻を抱いてしまった罪悪感が湧き上がってくる。ゼロはマリアを抱きしめることしかできない。
「ゼロ……今夜はもう遅いわ……それとも、もう一戦する?」
微笑むマリアに手を引かれながら、ゼロはベッドへと戻っていった。
「ゼロ、ただいまにゃ!」
翌朝、ログハウスの扉が開かれ、ターニャが帰ってきた。
ターニャは元気良く寝室へと入ってくる。
飛び起きたゼロとターニャの目が合った。
「おはよう、ターニャ」
絶句しているゼロを気にすることもなくマリアも身体を起こす。
当然、二人とも裸のままだ。
(ま、まずい……)
ゼロが何も言えずに固まっていたが、ターニャの反応は意外なものであった。
「わぁ、マリアも来てたのにゃ。良かったにゃ、ゼロ」
マリアも固まったままのゼロを気にする様子もなく、ベッドから立ち上がると、乾いていた下着を履き身支度を整えていく。
「ターニャ、アリスはどうだった?」
「アリスはもう大丈夫にゃ。しばらく王城で過ごすみたいだけど、アタシは帰ってきたにゃ。マリアも一緒ならゼロも寂しくないにゃ」
「うふふ、そうね。これからもよろしくね、ターニャ。じゃ、ご飯にしましょう」
「わーい、マリアのご飯は美味しいから楽しみにゃ」
二人は寝室から出ていく。
何事も無かったかのように、楽しく話す愛人二人を見てゼロの心の小波はうねりへと変化していった。
(なんなんだ、この世界は……)




