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<EP_014> 狂っていく世界

ゼロはログハウスの暖炉に火を入れ、一人、雨音を聞いていた。

(くそっ、俺がドラゴンを別の場所で仕留めていれば)

ゼロは椅子に座ったまま、眉間に深い皺が刻み、奥歯を噛み締め、テーブルに拳を押し付ける。

その時、ログハウスの扉が激しく叩かれた。

ゼロが扉を開けると、そこに立っていたのは、喪服のまま、雨に濡れそぼったマリアだった。


彼女の艶やかな黒髪は雨で顔に貼りつき、喪服は水を含んで重そうに垂れ下がっている。

「マリア!?どうしたんだ、こんな時間に、一人で!」

マリアの瞳は、葬儀の場で見せた毅然とした強さとは裏腹に、空虚で、しかし狂気的な熱を帯びていた。

マリアは力なくゼロの胸に倒れ込む。

「ゼロ……」

「マリア、大丈夫か?風邪をひくぞ。とにかく、中へ!」

マリアを抱き、リビングのソファへと運ぶと、ボーン・サーヴァントが濡れた喪服を取り上げ、代わりに温かいローブを持ってくる。

マリアはローブに身を包んだが、震えは止まらい。

「……マリア。今はとにかく休んでくれ。辛いだろうが……」

ゼロの声に、マリアは震える手を伸ばし、ゼロの顔に触れてくる。


「ゼロ……お願い。私を一人にしないで……」

その声は、普段のマリアからは想像できないほど、か細く悲痛な声だった。

「当たり前だ。バーカスは俺の親友だ。これから、お前のことは、俺が支えていく。俺だけじゃない。ターニャもアリスも一緒だ。だから、安心してくれ」

ゼロはそう言って、マリアの肩を抱いた。

マリアは、ゼロの胸に顔を押し付けると、かすれた声で囁いた。

「……支えて……くれるのね、ゼロ?」

マリアは、顔を上げ、彼の目を見つめた。

「ゼロ……私を、抱いて……」

「マリア!何を言ってるんだ!葬儀が終わったばかりだぞ!」

「お願い!も、もう、私にはゼロしか頼る人がいないの……」

マリアの瞳に、焦燥が見て取れた。彼女はソファから立ち上がり、ローブを脱ぐ。

暖炉の灯りに浮き上がったマリアの身体は美しかった。


「もう空っぽなの……。バーカスも、トンマもいない。もう、私を存在させてくれるのは、ゼロだけ。私を……ゼロのモノにして。お願い!」

マリアは狂気とも見られるほどの焦燥を顔に浮かべ、ゼロの胸へと飛び込んでくる。

ゼロの胸の中で、罪悪感と、拒否できない熱が渦巻いていった。目の前の女性は、親友の妻だ。親友の死の直後だ。

(俺が、マリアを救うんだ……)

ゼロは、自己正当化という衣を身に纏い、マリアの狂気に満ちた眼差しと美しい肢体から目を逸らすことができない。

外の雨音が、二人の夜を、静かに覆い隠していった。


(これで良かったんだろうか?)

ベッドの上でぼんやりと天井を見つめ、ゼロは考えてしまう。

隣には満足げな顔で安らかに寝息を立てるマリアがいた。

その顔はゼロが良く知るマリアの顔であった。


(マリアってこんな女だったっけ?)

そんな疑問がゼロに浮かんでくる。

夫と子供を同時に失い、錯乱していた可能性はある。

しかし、ゼロの知るマリアはそんなことで他人に身体を許すような女性では無かったはずだ。

気高く、慈愛に満ちたマリアはどこに行ったのだろう。そんな疑問が浮かんでくる。

外を見れば雨は止まず、雷の音が鳴り響き続けていた。


ベッドからそっと抜け出し窓から外を見る。

轟音とともに遠くの木に雷が落ち、木が燃え上がった。

その瞬間、ゼロの頭の中に閃光とともに見知らぬ映像が飛び込んできた。

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